Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

坂本真綾が体現した“時間芸術”と“一回性の芸術” 最新作『今日だけの音楽』を聴いて

リアルサウンド

19/11/27(水) 12:00

 前作『FOLLOW ME UP』以来、約4年ぶりとなるニューアルバムに坂本真綾は、『今日だけの音楽』というタイトルを冠した。収録曲すべてが新曲となる本作(既発表曲を一切入れないフルアルバムは『少年アリス』以来、16年ぶりになるという)のテーマは、「今日聴くのと、明日聴くのとでは意味が変わってしまう、今日だけの音楽」。川谷絵音(ゲスの極み乙女。)、大沢伸一(MONDO GROSSO)、堀込泰行(ex.キリンジ)、荒井岳史(the band apart)、渡邊忍(ASPARAGUS)、伊澤一葉(the HIATUS)、SIRA、古川 麦、一倉 宏、岩里祐穂といった魅力的なクリエイターとともに彼女自身のコンセプトを具現化した、豊かな芸術性を備えたポップアルバムだ。

 “今日だけの音楽”という言葉から想起されるのは、“時間芸術”そして“一回性の芸術”である音楽の本質だ。時間芸術とは、“時間の経過とともに表現される、または享受される芸術”のこと。一回性とは“一回起こっただけで、再び起こることはない”ことを意味する。20世紀を代表するドイツの指揮者、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の団員に「あなたたちはこの曲を何百回と演奏してきている。だが、そのことを誰にも気づかせてはならない」と語っていたというが、その根底には、“二度と同じ演奏は起こりえない”という強い認識があったはず。つまり優れた音楽には“その時間にしか生まれ得ない何か”が常に宿っている、というわけだ。

 “同じことは二度と起きない”、“時間の経過とともに変化を続ける”という認識は音楽だけに留まらず、人間という存在にもそのまま当てはまると言っていい。毎日の同じような暮らしのなかにも、人の感情や肉体には小さな変化が常に起きていて、刻一刻と形を変えている。それを自覚しているかどうかはともかく、我々の人生は一瞬一瞬が奇跡であり、かけがえのないものなのだーーちょっと大げさかもしれないが、アルバム『今日だけの音楽』を最初に聴いたときの印象は、まさにそういうものだった。

 特に心に残ったのは、坂本真綾自身が歌詞を手がけた楽曲だった(11曲中5曲が彼女の作詞だ)。なかでも特筆すべきは「Hidden Notes」の歌詞。過去に捉われて立ちすくむのではなく、“今日だけのあなた”を生きることで、未来に向かって進んでほしい。そんな真摯な思いを詩的な表現で描いたこの歌は、アルバムのコンセプトの中核を担っていると言っても過言ではない。アイルランドを中心とするヨーロッパ民謡の香りが漂うサウンド、オーガニックな手触りのメロディも、この歌の魅力を的確に彩っている。

 また、アルバムの表題曲「今日だけの音楽」も、本作を象徴する楽曲だ。クラシック、フォークロアのエッセンスをたたえた旋律、アレンジとともに描かれる歌詞のテーマは、「私だけが知ってるメロディ」。“本当に大切なものは、既にあなた自身が持っている”という思いを通奏低音にしながら、〈歌え 今日だけの音楽を〉というリフレインが響くこの曲は、(「Hidden Notes」と同様に)過去に捉われず、今日という瞬間を精一杯生きようという普遍的なメッセージをゆったりと語りかけてくる。この楽曲がもたらす、リスナーの存在そのものを肯定するかのような感動こそが、アルバム『今日だけの音楽』の本質なのだと思う。

 アルバム『今日だけの音楽』のもう一つの魅力は、個性的なセンスと高い技術を併せ持ったクリエイターたちとのコラボレーションだ。最初にこのアルバムを聴いたときは坂本真綾が紡ぐ言葉に強く惹かれた筆者だが、しばらく経ってから聴き返してみると、才能溢れる作家陣と坂本のボーカルが織りなす優れたポップセンスに心を奪われてしまった。ピアノ、言葉、ビートが緻密に絡み合うトラックのなかで、繊細さと儚さが共存するメロディが広がる「ホーキングの空に」(作詞:一倉宏/作曲・編曲:大沢伸一)。ポリリズムを交えたリズム、現代音楽のようなストリングス、トリッキーかつポップなメロディがスリリングに絡み合う「ユーランゴブレット」(作詞・作曲・編曲:川谷絵音/ストリングス編曲:徳澤青弦/コーラス編曲:えつこ)。美しく練られたコード進行とメロディラインをクラシカルなストリングスが彩るバラードナンバー「火曜日」(作詞・作曲 : 堀込泰行/編曲 : 河野 伸)。ジャンルの枠を超えたクリエイター陣との、その瞬間の化学反応を活かしたプロダクションもまた、『今日だけの音楽』という本作のテーマに則している。その中心にあるのはやはり、彼女自身の歌だろう。これまで以上に生々しい感情が伝わるボーカリゼーションからは、シンガー・坂本真綾の表現力がさらにアップデートされていることが実感できるはずだ。

 何度となく本作を聴き返しているが、そのたびに違う表情が感じられ、新しい気づきや発見がある。前述したフルトヴェングラーは、「感動とは人間の中にではなく、人と人の間にあるものだ」という名言を遺しているが、その言葉はアルバム『今日だけの音楽』にもそのまま当てはまるようだ。リスナーの状況、体調や精神状態によって“その日だけの音楽”を体感できる。その事実こそが、アルバム『今日だけの音楽』の素晴らしさの証左なのだと思う。

坂本真綾 – 『今日だけの音楽』ショートムービー(ダイジェスト)

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■リリース情報
『今日だけの音楽』
11月27日(水)発売
初回盤(CD+BD)¥3,800+税
 ※BDには、ショートムービー『今日だけの音楽』を収録。
通常盤(CD)¥2,800+税
<収録曲>
M1.はじまり 作曲:坂本真綾/編曲:山本隆二
M2.Hidden Notes 作詞:坂本真綾/作曲:SIRA/編曲:渡辺善太郎
M3.ホーキングの空に 作詞:一倉 宏/作曲・編曲:大沢伸一
M4.ユーランゴブレット 作詞・作曲・編曲 : 川谷絵音/ストリングス編曲:徳澤青弦/コーラス編曲:えつこ
M5. お望み通り 作詞:坂本真綾  作曲・編曲:伊澤一葉
M6. オールドファッション 作詞:坂本真綾  作曲:荒井岳史  編曲:北川勝利
M7. 火曜日 作詞・作曲:堀込泰行  編曲:河野 伸
M8. トロイメライ 作詞:坂本真綾  作曲・編曲:渡邊 忍
M9. 細やかに蓋をして 作詞・作曲・編曲:川谷絵音 ストリングス編曲:徳澤青弦 コーラス編曲:えつこ
M10. ディーゼル 作詞:岩里祐穂  作曲・編曲:古川 麦
M11. 今日だけの音楽 作詞・作曲:坂本真綾  編曲:山本隆二

<スペシャル二大封入特典>
1.10thアルバム発売記念『10人のための1曲だけのLIVE』 開催決定!
LIVE TOUR 2019「今日だけの音楽」の東京・愛知・大阪の各コンサート会場で、終演後に、抽選で選ばれた10人に向けて1曲だけのプレミアムライブを実施。
応募に関しては、アルバムに封入されるチラシにて。
A賞…『10人のための1曲だけのLIVE』招待  計30名様(3公演×各10名)
B賞…『今日だけの音楽』坂本真綾直筆サイン入りオリジナルグッズ  計100名様
応募期間:2019年11月26日(火)〜2019年12月3日(火)23:59

『10人のための1曲だけのLIVE』
12月14日(土)18:00開演 会場:フェニーチェ堺(大阪府)
12月22日(日)18:00開演 会場:一宮市民会館(愛知県)
12月26日(木)19:00開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール(東京都)

2.『今日だけの音楽』スペシャルプレゼント引換
アルバムに封入される引換券を持って、『LIVE TOUR 2019「今日だけの音楽」』公演会場グッズ販売エリアおよび、「今日だけの音楽」展会場にお越し頂くと、スペシャル缶ミラーと引き換え。

坂本真綾「今日だけの音楽」展 開催決定!
11月27日(水)~12月5日(木)
aiiima2 渋谷ヒカリエ8F Creative Lounge MOV
東京都渋谷区2-21-1渋谷ヒカリエ8階8/(ハチ)

12月7日(土)~12月24日(火)
原宿TOT STUDIO(ティー・オー・ティー・スタジオ)
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-62-1 THINK OF THINGS2階
入場無料

<配信情報>
iTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサイトおよび、音楽ストリーミングサービス、ANiUTaで11月27日から配信スタート

■ツアー情報
『坂本真綾 LIVE TOUR 2019「今日だけの音楽」』
12月8日(日)開場16:00/開演17:00 ※SOLD OUT
会場:ハーモニーホール座間 大ホール(神奈川県)※ファンクラブ限定LIVE
12月14日(土)開場17:00/開演18:00 ※SOLD OUT
12月15日(日)開場15:00/開演16:00 ※SOLD OUT
会場:フェニーチェ堺(大阪府)
12月22日(日)開場17:00/開演18:00※SOLD OUT
会場:一宮市民会館(愛知県)
12月26日(木)開場18:00/開演19:00※SOLD OUT
12月27日(金)開場18:00/開演19:00※SOLD OUT
会場:Bunkamuraオーチャードホール(東京都)
12月31日(火)開場21:00/開演22:00追加公演 COUNT DOWN LIVE
会場:東京国際フォーラム ホールA(東京都)

坂本真綾公式HP

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む