Ken Yokoyamaが語る、新体制での変化と手応え 「書きたいことの質感が変わってきた」
20/9/25(金) 18:00
Ken Yokoyamaが、初のミニアルバム『Bored? Yeah, Me Too』をレーベル直販(通販のみ)でリリースした。今作は、セルフコンピレーションアルバム『Songs Of The Living Dead』からは1年9カ月ぶり(オリジナル音源としては2015年発売の『Sentimental Trash』以来、5年ぶり)となる作品で、その間、バンドにはドラムEKKUNの加入、昨年10月『PUNKROCKERS BOWL』の出演見合わせという発表があった。
今回のインタビューでは、今作に至るまでのひとつひとつの経緯を辿りつつ、新体制でのレコーディングとなった今作について、バンドの今のモードについて聞いた。(編集部)
バンドの究極の形だと思った
一一新作に至るまでいろいろ聞きたいことはあって。ちょうど2年前、「Matchanが抜ける、次のドラマーはもう決まっている」という話をしたんですよ。まずは改めて、EKKUN加入の流れからお願いします。
Ken Yokoyama(以下、Ken):これは全員一致で。Matchanから抜けるっていう話を受けたその日に、俺ら3人で集まってドラマー候補を4〜5名挙げて。もうEKKUNは最初にリストアップです。
Jun Gray(以下、Jun):ちょうどEKKUNが前のバンド(Joy Opposites)を抜けるオフィシャルの発表があった直後で、今何もやってないんだなってことはわかってて。
Ken:じゃあ連絡取ってみようと。バンドとして知り合った、3人全員の共通の友達でもあったから。
一一初めて声をかけられた時、どう思いました?
EKKUN:いや、もう……ついに来たな、と。
Ken:ははは! 「ついに俺の時代が来たな」?
EKKUN:ついに俺の時代が来た。頂点に上り詰める時が(笑)。でもそうっすね、前のバンドも残念ながら脱退みたいな感じだったので、これからどうしようってところだったんですよ。そこにKenさんから電話が来て。もう、Ken Bandのオファーを断る奴がどこにいようか、と。
Ken:でも俺ら、物は試しで、4〜5人のドラマーともスタジオ入ってみたの。オーディションとまでは行かないけど、何人かに叩いてもらって。その後に3人でミーティングした時も「EKKUNに頼もう」って意見は一致して。
一一Junさん、リズム隊の目線だとどんなことを感じました?
Jun:まぁ俺はFACTは好きだったけど、音楽のタイプが違うから、スタジオでどうなるのかなっていうのはあったけど。でも最初に合わせてみて「あぁ、こういうのも叩けんだね?」って。だから違和感とか、やりにくいとか、第一印象ではなかったですね。まぁあと、俺は誰とでも合わせられるんで。
一一失礼しました(笑)。
Ken:「キリッ」って感じで(笑)。
一一EKKUNは、こういうツービートも得意なんですか?
EKKUN:得意……のはずで生きてきたんですけど、また種類の違うツービートですね、Ken Bandは。今までFACTの時はクリックなり同期を聴いてライブをやってたんですけど、完全にそれがない生の状態で、その日の人間同士がそのままぶつかり合う。それはバンドの究極の形だなと思いました。
Ken:そこをアジャストさせるのにけっこう時間かかったよね。今年に入って作品に向かっていく中で迷いはなくなっていったけど、過去曲をやると僕らも前のイメージを引きずっちゃって、でもEKKUNにはEKKUNの曲の捉え方があって。そこで意見の相違っていうのはあったかな。去年はだいぶ苦労したと思う。
一一あと昨年夏はKenさんとJunさんが宮本浩次さんのソロにも参加して。けっこう忙しかったですよね。
Ken:忙しかったね。かなり集中力が必要だった。
Jun:うん、去年の春から話をもらってレコーディング、あとライブ練習をやりつつ、Ken Bandの曲も作ってて。大変と言えば大変だった。
一一その後、秋にKenさんの体調不良で公演延期という事態になりました。
Ken:はい。キリッ。
一一そこは「キリッ」じゃない(笑)。言える範囲で、どういう状況だったんでしょう。
Ken:あ、もう全然言える話だけど、また抑うつ状態をやってしまったようで。ツアー中におかしくなっちゃって、これはマズいなと。メンバーとピザに話したら「今決まってるもの、全部ストップしましょう」って言ってくれて。だから、30歳の時に抑うつを一回やってるんだけど、それよりも全然軽度で済んだ。リカバリーも上手く進んで。うん。
Jun:ただ、こっちは心配するよね。最初っから「これ軽いから」って言われてたわけじゃなかったし、全然どうなるかわかんなかった。EKKUNなんか入ったばっかりだったし、一番どうしようって思ったかもしんない。
EKKUN:あぁ。さっきKenさんも言ったけど、俺がKen Bandに馴染む途中の工程で、いろいろ議論もあったんですよ。で、実は俺もけっこう打ちのめされてて。最初の意気込みのわりに、圧倒的な壁みたいなものにブチ当たってたところで。なのでKenさんが参っちゃう気持ちも、生意気ながらも少しわかったんですよね。俺は俺で、余計なこと考えないようにしよう、いつでもKenさん戻ってこれるようにしようって、そういうことに専念してました。
一一Minamiさんはいかがですか?
Minami:あのツアー中も、いつもだったら寝てる時間にKenさん起きてたり、外歩いてたりしたんですよね。普段全然しないことで。ライブも100%楽しんでない感じが伝わってきて、それは気になってましたね。
一一であれば、すぐストップできたのは幸いだった。
Ken:うん。ただ、すごく心配させてしまったなとは思う。その時点で決まってたライブ、今年の4月まで全部キャンセルさせてもらったから、「4月までは人前に出れないですよ?」って言われてたし。だけど案外元気でやってて。10月はまるまるお休み、もうバンドの練習もナシにしたけど、なんかやりたくなっちゃって。11月には練習スタジオ戻って曲作りを再開してた。
一一再開後、SNSやコラムにはあえて手を付けなかったんですか。
Ken:そう。Twitterもよーく読んで欲しいんだけど、もう何年も前から「もんげー!」と「○○を攻めっから」しか言ってなくて(笑)。もちろん心配させてしまってはいるけども、人前に出る予定もないのに「今こういう状態です」「もう大丈夫です」とか自分から言うのもなんか気持ち悪くて。
一一だったら作品出してから笑顔で言うほうがいいですよね。休んでみて、思考って変わりました?
Ken:恥垢?
一一思考です(笑)。SNSで何か言った、レスが来た、なんてやってると、自分の考えもまとまらないまま流れていくじゃないですか。
Ken:そうね。間違いなく日々の思考は変わると思う。そこまで客観的に自分では見られないけども。でもなんか変わった。あのままSNS上にいたらもっと大変だったかもなぁ。「報告しなきゃ」「コミュニケーション取らなきゃ」とか、そういう余計なことに頭を使ってたかもしれない。でも今はすごく居心地がいいから。バンドとしてもいい状態だと思う。
今、そんなに強い打ち出しをしたくない
一一新作の話ですけど、最初からミニアルバムを思い描いてました?
Ken:いやいや全然。かなり二転三転したんだよね。レコーディングも2回飛んだし。12月にアルバム録ろうって言ってたのが、まず俺の体調不良で飛んで。で、今年の4月にレコーディングするつもりだったけど、コロナでぶっ飛んで。そのたびに曲が多くなって、最初はフルアルバムを目指すつもりだったけど、一枚にぶっ込むのは違うなって。これはまた別の話になるけど、世の中、もはやアルバム至上主義でもないでしょう。サブスクがこれだけ普及して、その概念も壊れていって。だからアルバム一枚に19〜20曲も入れたくなくて、分けようと。「じゃあこれだけ曲数あるならミニアルバムだな」って。
Minami:自粛期間中に決まったんですよね。Webミーティングで。
Ken:そう。次のアルバムのことも見据えて「ミニアルバムに何曲くらい持っていける?」って話をして。
一一コロナが作品のカラーを決めていったところもあります?
Ken:タイトルとアートワークはあると思うけど、曲はそうでもない。聴く人はもちろん絡めて考えると思うけど、コロナ前に曲はできてたし。
一一とりあえず言えるのは、今回は楽しい曲が多い。「あぁKen Bandってこんなワクワクする音だった!」って思い出しましたね。
Ken:うん。空気が変わったのは俺も感じる。なんだかんだ、ドラムが変わったことに集約されんのかなぁ? やっぱ4人の集団なわけだから。1人が変わればそれぞれの関係性もまた変わって。
Jun:もちろん前は前で、前の4人の良さがあったんだけど。ただ、メンバーが変わるなら、みんな単純に前よりも良くしたいって思うわけで。あとEKKUNは悩むことがあっても、だいたい前向きに対処してくれるから。それ見てたらこっちもモチベーション上がっていく、っていうのはあったかもしれない。
EKKUN:単純に嬉しいじゃないですか、「ここがいいね」って言われたら。「こういうふうにしたい」とか、そういう話ができるだけで嬉しいから。
一一具体的な変化で言えば、全員参加のコーラスが増えました。
Ken:うん。EKKUNが歌えるから、だったら使わないのはもったいない。
Minami:そう。 EKKUN上手なんですよ。いい声してる。
Ken:そのぶんJunちゃんが歌うところ減ったかなぁ?
Jun:それはいいよ。そこは歌いたがりな人に任せておけば。
EKKUN:歌いたがり……って言われると引っかかるんですけど(笑)。
一一叩きながら歌うのが好きなんですか?
EKKUN:いや? 細かく言うと、叩きながら歌うのは得意じゃないんです。ずっとムズいなと思ってたんですけど、レコーディングで改めてボーカルブースに入ると、なんか知らないけどすーごい高まってきて(笑)。変なテンションになって、歌うのが楽しくなっちゃいましたね。
一一「Woh Oh」なんてシンガロングのための一曲だし、「You Are My Sunshine」も、みんなが知ってる名曲をみんなで歌おうって感じのカバー。
Minami:「You Are My Sunshine」は歌詞変えようと思ったら許可出なかったんですよね。
Ken:下ネタを書いて、カバーの申請出したら見事に撥ねられて。
Minami:しょうがなく原曲のまま歌ってるんですよ。
一一……ちなみに、どんなふうに変えようと?
Ken:んーとね、●●●●みたいな(爆笑)。それは撥ねられました。
一一良かったと思います(笑)。そういうくだらなさも大事ですけどね。
Ken:そう、大事。すごく大事。
一一今回は思想やメッセージが先ではない。もちろん言いたいことは書かれているけど、意見が先行してはいなくて。
Ken:うん。かつては、それこそ『Best Wishes』なんか意見の塊みたいなアルバムだし、「俺ってそうだったよな」って自分で葛藤するところもあるんだけど。たぶん今、そんなに強い打ち出しをしたくない、誰かを批判したり傷つけたりしたくないんじゃないかな。自然とそういう時期になったんだと思う。もちろんビシッと言う曲もあるんだけど、それも世の中に対してじゃなくて、自分はこうだ、っていうアングルだし。ちょっと書きたいことの質感が変わってきた。どっちがいいとか悪いとか、俺にはわかんないけど。
一一どっちもあっていいと思うけど、ただ、主義主張が強くなると重たくはなりますよね。
Ken:そう。あとは自分でもその罠にハマっていってしまう。「俺は発しなきゃいけないんだ!」みたいな。でも別にそうじゃない自分もいるわけで。
一一1曲目、「Runaway With Me」はEKKUNお披露目のツアーの時からやっていた曲です。
Ken:EKKUNが入って一番最初に作った新曲だもんね。
EKKUN:そうなんです。
一一逃げるっていう発想も、Kenさんにしては珍しい。
Ken:うん。だって俺、基本は逃げないもん。キリッ。
一一こう書いたのは、世の中の憂鬱なムードから逃げる意味もあるし、気づけば少し硬くなっていたKen Bandの空気を逃がす意味もあるのかな、と。
Minami:なんか……こう思ってるの俺だけかもしれないけど、最近のライブでKenさんが強いこと発信しても、お客さんが戸惑うじゃないけど、ちょっと壁とか距離感があるなって感じていて。そういう部分は今求められてないのかなぁって思うようになってたんですね。
一一ええ。震災直後に日の丸を掲げて、そこに賛同したファンの熱量が今も同じなのかって言えば、ちょっと微妙で。
Minami:そうそう。だんだん薄れてきてるなぁって。まぁそれをいつまでも持つ必要はないのかもしれないけど。去年ライブをやってる時、その温度差は感じてましたね、僕は。
Jun:それは俺も感じてた。震災もほぼ10年前ですからね。あん時は「なんとかせにゃ!」って強い思いがあって『Best Wishes』が生まれていって。でも今、たとえばコロナに対して「ウチらがなんとかせにゃ!」とはならない。そういう問題でもないしね。で、世の中ではSNSでの誹謗中傷とかが問題になって、中には「あれだけ発信してたKen Yokoyamaなんだから、今言うべきじゃないか」みたいなことを言う人もいて。そういうの見ると「……ちょっと待てよ? ウチら活動家でも何でもねぇよ」って。バンドマンだし、楽しくバンドやりたいし、パンクバンドだから必ずしも政治的なことを言わなきゃいけないとはまったく思ってないから。
Ken:人に言われてやるものでも、期待に応えてやるものでもないしね。俺、正直言うと、日の丸を掲げた最初の頃は「これに違和感がある奴が一人もいなくなるまで続ける」っていう決意を持ってやってたのね。でも最後、飽きて。
一同 ははははははははは!
Ken なんかこれ伝統芸みたいだなと。掲げたい気持ちは今もあるけど、もはや「うおー、俺も持ってきた!」みたいな反応も込みで伝統芸と受け取られる空気があって。Minamiちゃんも言うように、ちゃんと刺さってないまま、一部エンタメ化してたよね。
Jun:そういうことを考えるきっかけができるくらい、十分やってきたしね。で、「もっと深いところまでやれ」って言うなら「それは活動家に任せなさい」っていう話で。
Ken:ね。たとえば今の発言も、ネットに載ると「日の丸掲げるのに飽きたとは何事だ!」って言い出す人がいると思うのね。「それは活動家に言ってくれ」と。そういうことだよね。俺らはもう好き勝手にやるから。
一一いい意味での方向転換がKenさんの抑うつ状態から始まったというのは、皮肉なのか、偶然なのか必然なのか、何でしょうね?
Ken:やっぱり……いろんな事象を無意識でキャッチしてて、このまま行ったらデッドエンドですよ、っていうのを感じてたんじゃないかな。それが直接抑うつの原因だとは自分でも思わないけど。でも止まれて良かったのかもしれない。それは実感してる。今はバンドにとっていい時期だなって。
一一うん。ほんとにこの作品は全ファンが待っていたものだと思います。まぁ、ライブはしばらく見られないけど。
Ken:うん。やりたいけどね。
一一コロナについてはどう考えてます?
Ken:いや、もう状況に合わせていくだけで、意見は持てないかな。言うことも特にない。これっていう解決策もないし、怒ってもしょうがない。
Jun:少しずつライブやってる人もいるし、それは全然いいと思う。ウチらはウチらでやれるタイミングを今後考えていくのかもしれないし。ただ、今は音作り、レコーディングをやってて、そっちが楽しいから。
一一愚問かもしれないけど、配信ライブの予定はありますか。
Ken:考えてない。やるバンドをジャッジする気持ちもまったくないけど。でも俺たちのライブはお客さんもいて成り立ってるから。まぁいずれ「やろっか」ってなるかもしれないけど、今のところは考えてないかな。
一一わかりました。フルアルバムのレコーディングはこの後に?
Ken:年内にはできれば。
Jun:いっぱいネタはあるから。
Ken:うん。ボツにした曲も含めて25〜26曲は作ってるから。今も曲作りしてるし。だからこれ聴きながらアルバムを待って、コロナの件が良くなるのを待つしかないよね。お互い、俺たちも、楽しみにしてくれてる人たちも。
■リリース情報
1st Mini Album
『Bored? Yeah, Me Too』
発送開始日:2020年9月25日(金)
価格:¥1,650(税抜)
<収録曲>
1.Runaway With Me
2.Woh Oh
3.Balls
4.Still I Got To Fight
5.Count Me Out
6.You Are My Sunshine
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