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SEKAI NO OWARI、『The Colors』ツアーで刻んだ大きな節目 “大人になった”4人の姿 

リアルサウンド

19/9/1(日) 20:00

 8月25日のサンアリーナ(三重県)で、今年4月からスタートしたSEKAI NO OWARIのアリーナツアー『The Colors』がファイナルを迎えた。全28公演という公演数はSEKAI NO OWARIにとって過去最多。しかも、今回の彼らはツアーの真っ最中にそれぞれまったく異なるステージセットとセットリストで『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』初日の大トリ、『SUMMER SONIC』の深夜帯におこなわれた『Spotify on Stage in MIDNIGHT SONIC』と大型フェスへの出演をはたし、9月頭には『SWEET LOVE SHOWER』最終日の大トリも務めることになっている。そもそも、国内大型フェスへの出演自体が5年ぶりだったわけで、これだけ全開状態でライブ活動をおこなっていれば、当初「春に出す」とアナウンスされていたEnd of the World名義のデビューアルバムがまだリリースされないのも仕方がないことなのかもしれない(いや、引き続き首を長くして待ってますが)。

(関連:SEKAI NO OWARI、最新作『Lip』『Eye』チャートイン 相次ぐ2枚組アルバムリリースを考える

 というわけで、自分が今回のツアー『The Colors』に足を運んだのは6月22日のさいたまスーパーアリーナ。過去にもこの会場でSEKAI NO OWARIのライブを見たことはあったが、今回まず驚かされたのはそのステージセット。いや、彼らのステージセットを見て驚かされないことなんて一度もなかったわけだが、これまでの驚きはそのデカさや高さや奇想天外さ、いわばその「物量」と「アイデア」にあった。一方、今回のツアーのステージセットは一見してシンプル。いや、シンプルといっても、ステージ中央に吊るされた巨大なシャンデリアといい、背景に敷き詰められた膨大な数のモニターといい、十分に派手なステージなのだが、「モノ」としての存在感で視覚を圧倒するのではなく、「センス」と「デザイン」によって五感にダイレクトに働きかける方向へと転換されていた。

 『The Colors』と独自のタイトルが冠せられてはいるが、基本的には今年2月にリリースされたアルバム、『Eye』と『Lip』の流れにある今回のツアー。アンコールを含めて約20曲のパフォーマンスが披露されたが、その半分以上を占める13曲がその2作に収録されている曲だった。しかも、「ANTI-HERO」「SOS」「Hey Ho」「RAIN」「サザンカ」といったシングルの表題曲は軒並みスルー。その必然的な結果として、かなりハードモード、ダークモード、マニアックモードなSEKAI NO OWARIライブが展開することとなった。バンドのグレイテストヒッツではなく、バンドが今最も表現したいものを全身で体感できる、これぞニューアルバムリリース直後の全国ツアーの醍醐味だ。

 中でも、背景に「The Colors」と大きくツアータイトルが映し出される中で演奏された「Witch」は、今回のツアーを代表する曲、もっと言うなら『Eye』と『Lip』をリリースした2019年のSEKAI NO OWARIの「精神」を最も鮮烈に表現した曲であることに今回のライブを見て気づかされた。3年前にRadioheadが発表した「Burn The Witch」とも共振するような、現代のネット社会、ソーシャルメディア社会における「魔女狩り」をテーマにした同曲。被害者側だと思っていた自分が、いつの間にか加害者側にも加担している。そんな自分たちの足元が揺らぐような感覚は、例えば同じ『Eye』の収録曲であり、この日も披露された「KIDS」を挑発する「LOVE SONG」においても一貫している。〈君の言う腐った大人も かつては今の君みたい 嘘つきはガキの頃から嘘つきさ なぁKid〉。

 今回のツアーで、SEKAI NO OWARIはそんな時代、そんな世界であっても、大人であることの「責任」を引き受けていく姿をステージ上で見せていた。これまでSEKAI NO OWARIのライブのオーディエンスの大半を占めてきた「KIDS」たちも、やがて突き当たることになる「社会」のシステムや「家族」というライフステージを意識せずにはいられない世代となってきた現在。かつてはまるでショック療法のようなステージ(『The Dinner』ツアー/2016年)でオーディエンスを煙に巻くこともあったSEKAI NO OWARIの4人は、今回のツアーではオーディエンスに正面から向き合って、この世界もそこまで捨てたものじゃないと音楽の力で語りかけていた。10代の暗黒の日々を赤裸々に告白した「銀河街の悪夢」を今改めて切々と歌い上げ、そんな日々を生き抜いた者にしか歌うことのできないまっさらな人生への賛歌「すべてが壊れた夜に」でエンディングを迎えた今回のライブから自分が受け取ったのは、「勇気」とでも呼ぶしかないような深い感慨だった。

 ライブが終わってからふと気がついたのは、今回のツアーでSEKAI NO OWARIは初期の曲、つまり「世界の終わり」時代のデビューアルバム『EARTH』(2010年)の曲を1曲も演奏しなかったことだ(ツアー中、日によっては「死の魔法」がアンコールに組み込まれていたので完全に封印されていたわけではないが)。長年SEKAI NO OWARIのライブを見てきて、「インスタントラジオ」も「青い太陽」も「白昼の夢」も演奏されない単独ライブを見たのは初めてだった。また、これまで彼らのライブで重要な役割を果たしてきた2ndアルバム『ENTERTAINMENT』(2012年)収録の「Fight Music」も今回のツアーでは演奏されなかった。フェスのステージになるとセットリストは大幅に変わるので必要以上の深読みはすべきではないが、少なくとも今回のツアー『The Colors』では、独善性(それは間違いなく初期の彼らの大きな魅力の一つだった)よりもこの世界を取り巻く複雑な二面性が、カウンター精神(上に同じく)よりもこの世界にうんざりしながらそれでもなんとか融和しようとする思いが、優先されていたように思う。それは4人が大人になったからなのか、それとも独善性やカウンター精神だけでは闘い続けられないほどデビュー時から比べても世界のあり方が変わってしまったからなのか。きっとその両方だと、自分は感じた。(宇野維正)

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