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佐々木敦、さらにアイドルにハマる 第2回 ポストモダン時代、到来

ナタリー

20/11/25(水) 19:10

「佐々木敦、さらにアイドルにハマる」ビジュアル

佐々木敦がアイドルについて南波一海と語り合うロングインタビュー企画の後編。今回はさまざまなジャンルやスタイルが出尽くした感のあるアイドルソングの現状と未来を2人が語る。

構成 / 望月哲 インタビュー撮影 / 近藤隼人 イラスト / ナカG

今後問われていくアイドルの自主性

佐々木敦 ここ数年でシンガーソングライターやバンドの人がアイドルに楽曲提供することが普通になってきてるでしょ。

南波一海 そうですね。

佐々木 はっぴいえんど界隈の人がアイドルに曲を書くようなことは80年代からずっとあるわけだけど、ここ最近よりカジュアルになった気がする。あれって本人たち的にはどういう感覚なんだろう?

南波 曲を提供できてうれしいって人が多いですね。自分の作った曲が自分のファンとは違う層にも届くので。音楽家として腕の見せどころでもありますし。もちろんアイドル仕事は受けないという人もいると思います。

佐々木 もともとアイドルファンの人もいるかもしれないけど、そうじゃない場合もあり得るわけじゃん。

南波 2010年代初頭まではそうじゃない場合のほうが多かったかもしれないですね。ここ数年で変わった印象があります。

佐々木 素人質問だけど、あれってどういう流れになってるの? 運営が作家を見つけてくるの? それとも、もともと何かしらの関係があることが多いの?

南波 運営が作家にオファーする場合が多いと思いますけど、作家からの売り込みもあるし、作家が運営サイドの人という場合もあります。最近は相思相愛の場合も多いですよね。バンドの人とかがアイドルファンであることを公言することも増えてますし。その一方で、面白い作家を探すためにアンテナを張り巡らせてる運営もありますよね。でんぱ組.incのスタッフ陣は、いろんな人をチェックしているんだなといつも驚かされますし。

佐々木 確かに、でんぱ組.incの諭吉佳作/menのフックアップがあまりにも早くてびっくりした。

南波 実際、ネットレーベル周辺には面白い才能がいっぱいいますから。

佐々木 本人にしてみたら急にTwitterのDMにアイドルの事務所から連絡が来るみたいな話?

南波 そうそう。運営によっては、BandcampとかSoundCloudとか、めちゃくちゃチェックしてますよね。神宿もASOBOiSMに声をかけたのは早かったし。

佐々木 全然知らないんだけど、神宿の運営ってものすごく攻めてる印象があるよね。

南波 僕もそう思います。

佐々木 だって1曲ごとに全然違う曲調だし、それにメンバーがちゃんと対応してるのもすごい。

南波 こないだ出たアルバム(「THE LIFE OF IDOL」)なんか、かつての神宿の面影がまったくないですから。純粋に音楽的に素晴らしい。

佐々木 ほんの数年前とはもはやまったく違うアーティストになってるよね(笑)。明らかにスキルも上がっているし。やっぱりメンバーと運営の向上心の賜物なのかな。

南波 そのあたりの話もしたかったんです。今、コロナ禍でアイドルシーンが危機的な状況に陥っていますけど、今後大事になってくるのは、アイドル本人のモチベーションの持続じゃないですか。アイドルは「大人にやらされてる」とよく言われたりしますけど、受け身の人たちは活動を続けるのが難しくなっていくと思うんです。

佐々木 ああ、それはそうかもね。今後はアイドルの自主性が問われていくと思う。

南波 若くしてデビューした人たちがいつしか学生ではなくなって、部活感覚が取れて、“職業・アイドル”となったとき、自分たちのアイデンティティにどういう意識で向き合うのかという。例えば神宿は、今回のアルバムでメンバー全員が作詞に参加しているし、フィロソフィーのダンスも、メジャーデビューシングルは賛否両論ありましたけど、同じく本人たちが作詞に関わるようになっているんです。それはすごくいいことだと思っていて。運営にキャラクターや楽曲を与えられて、それについてインタビューで聞かれて、本当は意図を知らないのに手探りで答えるような状況が続くと……。

佐々木 「なんで私たち、アイドルやってるの?」ってなっちゃうよね。

南波 それが露呈したのがこの半年くらいだと思うんです。制作に関わるのがいいんだという話をするつもりもないし、なんならさらりと辞めるのも全然問題ないと思っているんですが、続けるうえでは何かしらのやる意義は必須ですよね。

男女どちらの“カワイイ”があってもいい

佐々木 そういう「アイドルであり続けることのアイデンティティ」問題って、もちろんもともとあったんだろうけど、コロナ禍で一気に加速したんだろうね。アイドルグループから卒業が相次いでいることの答えがそこにあるような気がする。でも逆にこういう状況になったからこそ、新たなクリエイティビティが生まれてくるような気配も感じている。

南波 それは僕も感じています。

佐々木 自粛期間中にBEYOOOOONDSが1人1芸みたいな動画を毎日アップしてたこともそうだし、アイドルたちが、それぞれ“私にできること”に向き合い始めてる気がする。今まで歌詞を書いたことなかった子が「えー、私に書けるかな」とか言いながら挑戦してみたら1曲書き上げることができたとか。しかも「メンバーが作詞しました」という体でお送りしてますってことじゃなく、本当に本人が書いてる。プロの作詞家に比べたら技術的には拙いかもしれないけど、そこも込みでその子なんだからね。これはアイドルに限らず、なんらかの理想形や雛形みたいなものに近付けていくんじゃなくて、その人にしかできないことができればいいわけなので。そういう意味で、まさに神宿なんかは本当に覚醒したんじゃないの?

南波 本人たちに直接取材したわけじゃないからわからないですけど、作品を聴いたりインタビューを読んだりする限りは明らかにこれまでとは違うモードですよね。

佐々木 だってファッション的な打ち出し方も今までとは全然変わってるし。メンバーが自分でやりたいことをやろうとしているんだろうなということがはっきり伝わってくる。神宿というグループは今まで“顔面偏差値”がどうこうみたいなところで語られてきた部分が多かったけれど、今の彼女たちからは、そうじゃない部分で勝負しようとしてる感じが伝わってきて、すごくリスペクトできる。

南波 今の神宿のビジュアル展開って、なんと言ったらいいか……従来のオーソドックスなアイドル像を求める保守層には、もしかしたらあまり響かないかもしれないですけど、今の若い人や同性にはフィットするのかなと思うんです。

佐々木 女の子受けしそうだよね。僕はおじさんなので、若い女性の感性なんて未知の世界すぎて想像するしかないんだけど、結局アイドルが生き残っていくための1つの要因って、いかに女性ファンに支持されるかだと思う。

南波 先日、渋谷のLOFT9でやったイベントで佐々木さんたちとトークしたときも、K-POPをそのまま真似しても仕方がないという話が出たんですけど、今の神宿はK-POP的な現在進行形の音楽に対する自分たちなりの回答をいい感じで見つけられてるような気がするんですよね。まだ模索中ではあると思うんですけど。もうずっと言われていることですけど、アイドルシーンでは、同性とか若い人が憧れる存在に、いかにしてなれるかということも重要で。

佐々木 男性が考える“カワイイ”と女性が考える“カワイイ”は全然違うみたいなことがよく言われるよね。特に日本の場合、切り崩せない壁がまだまだあると思うんだけど、ある意味では、壁があったままでもいいと思う。つまり男女どちらの“カワイイ”があってもいいわけじゃない。

南波 そうですね。

佐々木 自分と同じくらいの年の女の子たちがカワイイとかカッコいいって思うものが、どういう感じなのかっていうのはアイドル本人が一番よくわかってるんじゃないかな。そしてそれをどうやって男性ファンの気持ちとうまくリンクさせていくのかっていうのが運営の腕の見せどころだと思う。

ノスタルジーからの脱却

南波 これもまた言葉を選びますけど、“楽曲派”みたいなものって、僕のような人間を含め、若い頃から音楽をたくさん聴いてきた人の蓄積された記憶を刺激するものが多かったと思うんです。

佐々木 そうなんだよね。

南波 自戒を込めて言うんですが、それがアイドルソングの進化を止めているような気もしていて。

佐々木 うん、その通りだと思う。要するにオマージュやパスティーシュになっちゃうんだよね。

南波 オマージュを繰り返して、聴く側の大人もそれをポジティブに享受していくうちに“楽曲派”とは名ばかりに、曲は最先端を行っているのではなく、懐かしさを呼び起こす装置になってしまいがちで、そこにモヤモヤした気持ちを感じることもあります。

佐々木 ある型にハマってしまっている。そうだね、確かに。

南波 抗えない魅力があるのもわかるんですけどね。実際、面白いものも多かったし。でも、時が経つにつれて、フレッシュな音楽に出会いたいという気持ちがより強くなってきているんです。そもそも歌うのは今を生きる若い人なわけで。だから神宿みたいな人たちが今の時代のムードみたいなものにフォーカスして、楽曲制作やビジュアル展開をしてるのがすごくいいなと思うんです。なんか神宿の話ばっかりになっちゃってますけど(笑)。

佐々木 作家に関して言うと、BEYOOOOONDSの曲を作ってる星部ショウさん、あとは宮野弦士さんやヤマモトショウさんとか、あのへんの人たちは20代の後半ぐらいから30代頭ぐらいの人が多くて、彼らの作る曲って基本的に何かしらの過去のポピュラー音楽の定式、マナーに則っているんだよね。そのマナーが彼らの世代とは全然一致していないところが俺はすごく面白いと思うわけ。フィロソフィーのダンスが一番わかりやすいかもしれないけど。ほかにも例えば小西康陽さんが提供したMELLOW MELLOWの「最高傑作」は素晴らしい楽曲だと思うけど、個人的にはカップリング曲の「メインストリートは朝7時」のほうが面白いと思う。

南波 作編曲は宮野弦士さんが手がけていますね。逆にものすごく渋谷系を意識した曲で。

佐々木 あのへんの人たちが作るアイドルソングってすごく既聴感をくすぐるんだよ。しかもその既聴感は下手すると俺にとってさえもオンタイムじゃないようなものだったりするわけです。たぶん隔世遺伝みたいな感じで、過去の音楽の要素が受け継がれているんだろうね。で、彼らがどうやってそれを学習したかというと、ネットや録音物、つまり一種のアーカイブからに間違いない。つまりむちゃくちゃいろんな音楽を聴いていて、そのうえで戦略的にというより感覚で作った曲がああいうふうになってる。ある意味ではいわゆる“企画もの”なんだけど、新しいタイプの企画ものだと思う。

南波 新しいタイプの企画ものですか?

佐々木 そう。つまり作ってる側にノスタルジーの要素が全然ない。だがリスペクトはある。それってほかのジャンルではなかなか起き得ない面白いことだと思っていて、それに彼らが自分自身の音楽活動をやるときにああいう曲をそのままやれるわけでもないと思う。アイドルおよびアイドルソングの歴史が数十年にわたって積み重なってきた結果、かつての素晴らしい音楽の数々のエレメントを、現在形のアイドルがメディウム(媒体)的な役割を果たして、今のリスナーに伝えているということだと思うんだよね。

本格的に試されるのはセンス

佐々木 あと今日は、なんちゃんにどうしても言っておきたいことがあって。

南波 なんですか?

佐々木 俺最近、リルネードの「もうわたしを好きになってる君へ」って曲にすごいハマっちゃって。

南波 あははは(笑)。リルネード、最高ですよね! 虹のコンキスタドールというグループにいた奥村野乃花さんがプロデュースしているんですよ。

佐々木 へえ、そうなんだ!

南波 吉田豪さんと一緒にやっているイベントに出てもらったんですけど、グループの方向性も全部奥村さんが考えてるみたいですよ。彼女は最年長のメンバーと1歳ぐらいしか違わないし、演者の気持ちもわかるので、メンバーとの関係性もすごくいいみたいで。メンバーも伸び伸びと楽しそうにやっているのが伝わってきて、見ていて穏やかな気持ちになります(笑)。曲もことごとくいい。

佐々木 リルネードの「もうわたしを好きになってる君へ」はヤマモトショウさんが作詞・作曲・編曲を手がけているんだけど、彼の才能が炸裂してるよね。やっぱりあの曲も、ものすごい既聴感があるわけ。でもノスタルジーだけじゃない新しさみたいなものもちゃんと感じられる。それがいいんだよね。つまりノスタルジーなきリサイクルみたいなモードと、なんちゃんがさっき話したようなナチュラルに最先端を目指していくみたいなモード、その2つは俺どっちもすごく支持できるんだよね。「こういう感じが好きでしょ?」みたいに、変に狙っている感じの曲はちょっと引いちゃう。

南波 そこが2020年代は変わってくといいなと思ってるんですよ。「こういう感じが好きでしょ?」みたいなものもそうですし、あと「ここは今まで誰もやってなかった」みたいな隙間を突く感じとか。そういうのはもうしんどいなと思うことが増えてきちゃったので。

佐々木 ていうか、大体のジャンルがやり尽くされちゃってるでしょう。つまり何もかもがやり尽くされてしまった状況の中で、ついにアイドルソングの世界もポストモダン時代に突入するということだよね。

南波 ポストモダン時代(笑)。

佐々木 今や音楽的な情報とか知識みたいなものはいくらでもネットから引っ張ってこれるようになっていて、だからこそ今後、本格的に試されるのはセンスだと思うんだよね。この場合のセンスっていうのは発想や発明だけでなく、着眼点とか編集力とか、調理やブレンドの仕方みたいなこと。そういう意味でのセンスさえよければ、時代やジャンルに関係なくグッと来る音楽を作れるだろうし。そういう曲がもっと増えてくれたら僕のアイドル熱も維持されるんじゃないかと(笑)。

南波 ぜひとも維持していってほしいです(笑)。

佐々木 今日はリルネードの話ができてよかった(笑)。

<連載第1回はこちら>

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」編集長。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月には78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル「PENGUIN DISC」主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行ない、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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