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大島幸久 このお芝居がよかった! myマンスリー・ベスト

9月の1位は『十二人の怒れる男』、『九月大歌舞伎』より、唯一無二の女形・坂東玉三郎に“最優秀主演男優賞”!

毎月連載

第22回

20/9/30(水)

『十二人の怒れる男』チラシ

9月に観たお芝居myベスト5

①『十二人の怒れる男』 シアターコクーン (9/12)
②『九月大歌舞伎』 歌舞伎座 (9/3)
③ ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』 TBS赤坂ACTシアター (9/16)
④ シス・カンパニー『わたしの耳 』 新国立劇場 小劇場 (9/11)
⑤ 『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』 東京芸術劇場 プレイハウス (9/17)

*日付は観劇日。9/1〜30 までに観た16公演から選出。

十二人の怒れる男』は裁判劇として屈指の名作である。俳優は性格、立場、考えが違う12人のどれも演じてみたいだろうし、観客は賛否の意見が徐々に逆転していくスリルを味わう。果たして少年は父親を本当に刺したのだろうか。差別、偏見、思い込み、頑固。陪審員3番の山崎一、10番の吉見一豊、6番の梶原善が強硬派を色濃く演じた。4番の石丸幹二が知的な理論派の役柄にぴったり。主役の8番、堤真一は時にテーブルから離れて無想する芝居で孤独感や思慮を尽くす無言の姿に個性を出した。我が国の裁判員制度の可否を判断する上でも必見の作品だと、思う。

『十二人の怒れる男』より、写真提供:Bunkamura 撮影:細野晋司

九月大歌舞伎』は花形世代の8月に続く4部制。ようやく大看板の役者が帰ってきた。第4部の玉三郎は「この人に注目!」で取り上げた。1部の『寿曽我対面』で梅玉、魁春の品格ある姿が健在。2部の舞踊『かさね』は幸四郎、猿之助で腰元かさねの猿之助が花道で与右衛門に縋り付く辺り、最後の決まりの顔が印象的だった。圧巻は3部『引窓』の吉右衛門。九月は秀山祭だが、祭を避けて「秀山ゆかりの狂言」とした。大銀杏の髷の濡髪長五郎が情といい貫目といい文句なしの大歌舞伎。お手本だ。見せ場が多い演目を並べて“芝居の秋”の興行になった。

『九月大歌舞伎』チラシ

ビリー・エリオット』は副題に~リトル・ダンサー~とあるように、少年ビリー・エリオットが主役。オーディションで選び抜かれ、猛特訓を耐え抜いた4人が交互で出演したが、観劇した16日昼の回は渡部出日寿、中学1年生の出番だった。2017年の初演以来3年ぶりの再演。初演と同様に、ようやく見つけた自分の夢に反対する父や周囲を押し切り、バレエダンサーとなるビリーに拍手を送りたくなる。一方で、合理化と闘い、ストを打つ炭鉱夫の父たちの苦しい生活、子供の未来に期待する親世代の希望も理解できると、今回の舞台で再認識した。

ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』より 中央左:柚希礼音 中央右:渡部出日寿 撮影:田中亜紀

わたしの耳』。約80分の1幕、3人芝居だ。作者は『エクウス』や『アマデウス』など心の闇を持っている人間を描く鬼才ピーター・シェーファー。初の舞台出演のウエンツ瑛士、趣里、岩崎う大の中で料理を始め何でも出来るが、よく喋るテッドを演じた岩崎をこれからも注目したくなった。

『わたしの耳』より、左からウエンツ瑛士 趣里 岩崎う大 撮影:宮川舞子

ボクの穴、彼の穴。』は二人芝居。見えない敵を想像し、戦場の塹壕の中で戦う兵士が宮沢氷魚と大鶴佐助。穴から出て、相手の穴へ突入する後半が面白い。見えない敵とは今ならコロナウイルスではないか。ひとり、部屋に籠もる生活の孤独感。戦争状況をコロナ禍に変えて観たのだった。

『ボクの穴、彼の穴。The Enemy 』 より 左:宮沢氷魚 右:大鶴佐助 撮影:阿部章仁

★この人に注目!★

坂東玉三郎は“奇跡の女形”だと思っている。その美しさは言うまでもなく、理想の女心を追求し、表現する演技力は他の追随を許さない。さらに加えれば発想力。『九月大歌舞伎』の第4部。「映像×舞踊特別公演」で口上と『鷺娘』を披露。映像ではシネマ歌舞伎の舞台から使ったり、また歌舞伎座の奈落にセリで下りて廻り舞台などを生中継しながら解説した。5年前から熊本・八千代座での舞踊公演で始めた構成だという。『鷺娘』は27歳の時から踊り続けているライフワーク。長い自粛期間中は、踊りの研究に勤しんだらしい。唯一無二の女形、玉三郎。最優秀主演男優賞が最適だ。

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

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