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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

今年上半期の映画興行ベスト10と、コロナ禍ただ中の大ヒット2本—『今日から俺は!!劇場版』『コンフィデンスマンJP プリンセス編』。

毎月29日掲載

第24回

20/7/29(水)

新型コロナウイルスの拡大が止まらないなか、営業を再開して2カ月近くが過ぎた映画館では、観客が徐々に戻ってきているとの見方も出ている。あるシネコン関係者の話だが、もちろん各館によって事情は違うだろう。7月26日の時点で、政府は経済界に対し、各企業へのテレワーク率70%実施を要請した。この措置が、今後どのように広がりを見せるのかは不透明だが、映画館にとっても、全く予断を許さない状況であるのは変わりない。薄氷の上で、ギリギリの営業が続けられていると言うべきであろう。

このような状況下ではあるが、記録的な意味もあると思い、今回あえて上半期の作品別興収(邦画、洋画込み)の上位10本を以下に挙げてみた(2019年11月末から2020年の6月までに公開)

①アナと雪の女王2 ……133億6千万円
②スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け……72億4千万円
③パラサイト 半地下の家族……47億4千万円
④カイジ ファイナルゲーム……20億4千万円
⑤僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング……17億5千万円
⑥男はつらいよ お帰り 寅さん……15億円
⑦犬鳴村……14億1千万円
⑧キャッツ……13億5千万円
⑨ヲタクに恋は難しい……13億3千万円
⑩午前0時、キスしに来てよ……11億8千万円
*以上、最終興収見込み、数字は推定を含む

3月以降の何本もの作品の延期、映画館の長期にわたる休業などを考慮する必要がもちろんあるので、今回は上半期分析などできるわけもない。ただ、あえてこの順位から何かを引っ張ってこようと思えば、『パラサイト 半地下の家族』の大ヒットということになろうか。公開のフル稼働時期が、まさにコロナ禍をギリギリ避けることができた作品であったからだ。これも、記録に残しておくべきであろう。コロナ禍がなければ、優に50億円を超えたとも言えるが、それにしても運がいい作品であることに変わりはない。

それもこれも、昨年のカンヌ、今年のアカデミー賞と、映画領域でこれ以上は望めない受賞効果を存分に呼び込んだことが、最大のヒット要因だろう。カンヌ・パルムドールの『万引き家族』と、極めて近い興行状況になったと言っていい。2作品ともに、受賞から派生したメディアにおける作品の膨大な情報量が、話題性に目のない日本人の気持ちを掴んだのは間違いない。今回の場合は、『万引き家族』にはなかった娯楽的な要素が、受賞効果に加味され、より広範囲な層の観客の支持につながったことも特筆される。ここで言う娯楽的な要素とは、SF、アクション、ホラー、コメディなどの通常のジャンルとは全く違う。それを形作ったのが、描写と物語双方に跨る未知的で不可解な要素のつるべ打ちとでも言おうか。描写や話の先に様々な仕掛けがあるように見え、事実あるのだが、その展開の妙に、多くの観客がはまっていったのだろう。当然、それは口コミにつながる。思えば、話の先へ先へと関心を呼び込んでいくのは、韓流ドラマの定番、真骨頂でもあろう。『パラサイト~』は実のところ、まっとうな韓流系のドラマの流れにつながってくるのが、非常に興味深く映るのである。

ここで観客が徐々に戻ってきたという冒頭の話に戻せば、全く意外なことに、7月に入って2本の作品が大ヒットしているのである。7月17日からの『今日から俺は!!劇場版』と、7月23日からの『コンフィデンスマン JP プリンセス編』である。公開時の推定ではあるが、前者が興収50億円、後者が40億円を見込めるというのだから、これはとてもコロナ禍ただなかの興行とは思えない。一つ言えるのは、比較的若い層が、映画館に足を運んでいるということだ。加えて、換気面などで、感染症対策のアピールを広範囲に行っている映画館側の取り組みも功を奏していることを挙げてもいい。ただ、一方で興味深い現象も起きている。『今日から俺は!!~』の場合、都心よりも郊外や地方のシネコンのほうが、興収シェアが上がっているというのだ。都心でいえば、感染者が多い新宿、池袋などを避ける傾向があるらしい。この地区のシネコンが普段とは違い、全国のなかで興収上位に入ってきていないのだ。コロナの蔓延により、映画は観たいが、危険地帯への遠出はあまりせず、地元で観る人たちが多くなっている。作品にかかわらず、全体的にコロナに警戒感の強い年配者の集客が今ひとつということもある。興行の分布図に、これまでとは異なった変化が出ているということである。

上半期から7月を経て、8月を迎える段になってきた今も、さきに言ったように、先行きは全く予断を許さないと言ったほうがいい。全国的な感染の広がりは、さきの興行分布図さえ揺るがすかもしれない。これから何が起こるか。この国の動向そのものが、皆目見当もつかないというのが、正直なところだ。このまま、本格的な夏興行を迎えてほしいが、海外を見れば、とくに米映画界では話題作の公開延期が相次ぎ、それに伴い、日本でも洋画興行の先行きは非常に厳しい状況にある。日本の映画界(映画興行)は、邦画と洋画が足並みを揃えないと、活性化しない。というより、揃えないと成立しない。映画界は、2本の大ヒットに浮かれている場合ではない。このことを強く肝に銘じたい。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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