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伊藤沙莉、『いいね!光源氏くん』など八面六臂の2020年 深さとフラットさを併せ持つ女優に

リアルサウンド

20/12/25(金) 12:00

 ここ数年、実力に加えて高い支持を獲得している伊藤沙莉。今年の活躍は特にすさまじく、ドラマ、映画、アニメ声優、バラエティ、CMと、彼女を見ない日はなかったと言っていい。人気実力派女優のトップにいるひとりであることを印象付けた1年だった。中でも自粛期間に重なる4月から5月末に放送された『いいね!光源氏くん』(NHK総合)は、現代へとやってきた光源氏を演じた千葉雄大とのコンビが当たり、視聴者を癒した。同ドラマは、この24日夜と25日深夜のクリスマス期に一挙再放送。ヒロインとして繊細な心の動きを見せた伊藤の魅力を改めて感じることができる。

 さて、周知のように、伊藤は子役出身。広く認知された『女王の教室』(日本テレビ系)でのインパクトが強く、いじめっこ役の印象を引きずった時期もあったが、現在は、等身大の20代女性として輝きを増している。転機になったのは連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)での米子(安部さおり)役だろうか。その後ドラマでは、『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)、『この世界の片隅に』(TBS系)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)、出演者たちが見事に響き合っていた『これは経費で落ちません!』(NHK総合)など、映画では『寝ても覚めても』、『生理ちゃん』ほか、そして『全裸監督』(Netflix)といった作品を経て人気女優となった。

 伊藤には何度か取材をしているが、ある時、「昔はみんな(大人たち)が自分の隣にいる人気の子を見ていた。でもいつからか、私自身を見てくれるようになった。視界に入れてもらえるようになった」と話していた。もとより役者としての実力はあったところに、どこかで女優Aではなく、伊藤沙莉が求められている実感を得て、役者としても新たな扉が開いたのかもしれない。また、今でも「鏡を見るのは苦手です」と語ったり、周囲からはギフトに思える特徴的なハスキーボイスも、「苦手だった」と話しており、コンプレックスを抱えたうえで女優業に臨み、自分の役柄や相手役に向き合うからこそ、深さを感じさせ、共感を呼ぶのではないだろうか。

 2020年は、ドラマでは1月に『ペンション・恋は桃色』(フジテレビ系)でリリー・フランキー演じる頼りない父とふたりでペンションを切り盛りする、脚が少し不自由だけれど、しっかり者の娘を演じ、3月には単発『三浦部長、本日付けで女性になります。』(NHK総合)で、40代で「女性になりたい」と思い立った総務部長を演じたムロツヨシの部下役でフラットに立った。思うに、こうした役を演じる際に、伊藤から発せられる空気には、寄り添ったり、見守ったりというより、ただ“隣に立つ”感じがある。だからこそ、妙な上から目線さや、嘘くささがない。そしてこのフラットさゆえに、『これは経費で落ちません!』や『三浦部長~』のような信頼できる後輩、部下も、『獣になれない私たち』のような困った後輩も、いずれも自然に見せられるのだろう。

 同じく3月、『有村架純の撮休』(WOWOW)の第2話では、鉄板ともいえる女友達役を好演。そして4月からは『いいね!光源氏くん』が放送され、ヒロインとして引き付けた。また、テレビアニメ『映像研には手を出すな!』(NHK総合)での浅草みどり役で、声の演技でも印象を残した。

 映画では、『劇場』、『ステップ』、『タイトル、拒絶』、『十二単を着た悪魔』、『ホテルローヤル』と主演作を含め、実に5本の公開作に出演(齊藤工のプロジェクト『TOKYO TELEWORK FILM』にも参加)。加えて、声優として『小さなバイキング ビッケ』日本語版と、アニメ映画『えんとつの町のプペル』に参加した。セックスワーカーの女性たちを見つめた『タイトル、拒絶』は、昨年の東京国際映画祭で上映されており、伊藤は東京ジェムストーム賞を受賞。舞台作品が基の生々しいパワーに加えて、ここでも伊藤のフラットさが役をリアルに響かせている。また『ホテルローヤル』では、回想シーンなどではなく、現役の高校生役で制服姿を見せ、同年代の岡山天音と教師と生徒という役柄で共演。童顔を生かしていた。

 ほかにもドキュメンタリー作品でのナレーションや、バラエティ番組『ただ今、コント中。』(フジテレビ系)など、実に幅広い活躍を見せた。特に、今年からグンと増えたCM出演は、その人気と好感度の高さを如実に表している。

 巧さに加えてオーラを獲得し、厚みを増した伊藤。画面からはキラキラした輝きが漏れ出ており、取材の際の伊藤も、本当にいつも元気で明るく、強烈に惹きつけられる。Twitterで「【さり】ではなく【さいり】です」と明記された名前の読み方も、十分に浸透したはず。ヒロインからヒール役、親友、そしてまだ見ぬ伊藤沙莉と、深さとフラットさを併せ持ちながら、これからもさまざまな役を見せていってくれることに、なんの疑念もない女優である。

■望月ふみ
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。

■放送情報
よるドラ『いいね!光源氏くん』
NHK総合にて12月26日(土)0時30分〜放送
出演:千葉雄大、伊藤沙莉、桐山漣、入山杏奈、神尾楓珠、小手伸也ほか
原作:えすとえむ
脚本:あべ美佳
音楽:小畑貴裕
演出:小中和哉 田中諭
制作統括:管原浩(NHK)、竹内敬明(テイク・ファイブ)
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/hikarugenji/
公式Twitter:https://twitter.com/nhk_purpleamore

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