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阿部サダヲ演じる政治は明るいだけのキャラクターではない 『いだてん』第二部の“複雑さ”を体現

リアルサウンド

19/8/11(日) 6:00

 二部構成で現在は、新聞記者でありながら、入社一年目に大日本水上競技連盟(水連)理事に就いた田畑政治(阿部サダヲ)が主人公として物語を動かしている『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)。

 特に、少年時代にオリンピック選手たちと共に過ごすも、体が弱く一緒に泳ぐことのできなかったあの「まーちゃん」が、海に飛び込み、そのまま沈んだと思ったら、それが後の田畑政治とわかるシーンは印象深かった。子供から大人に切り替わるシーンというのは、工夫のしどころであるが、このシーンもかなり印象に残るものであった。

 政治は一部の主人公であった四三(中村勘九郎)とは真逆のキャラクターだ。四三は何か計画的に行動するという人ではなかったが、とにかく“走る”ことで、周囲の人々を動かした。一方、政治は考えた上で動き、あれこれ画策する。

 その裏側には、政治が幼いころから病弱で選手になることはできず、「続けていても大成はしない」ということを自分で知っているという事実がある。後に政治が水泳の総監督になった際、選手である高石勝男(斎藤工)が彼のいないところで「泳いでるとこいっぺんも見たことない。ほんまは泳げんのとちゃいますか」指摘するシーンもある。

 水泳でプレイヤーではなかったということは、どこか政治の後の行動にも影響を与えていたのではないか。新聞記者となった政治は、政治部に配属される。同僚の河野(桐谷健太)に「本気で記者を続けるのなら、特ダネのひとつとってきたらどうだ」と言われ、犬養毅(塩見三省)のところに行き、特ダネとなる情報を得て、初めてスクープをとることになる。

 しかし、その次に犬養毅と会い、満州問題を平和的に解決したい思いを「いかなる場合も武力で訴えてはならん。人間同士、向き合って話せばわかりあえるんだよ」「戦争は勝つほうも負けるほうもつらく苦しい。だがスポーツは勝っても負けてもすがすがしいものだ」と伝えられ、記事にしようとするが、「こんな“暗いニュース”ばかり読みたくないじゃんね」と切り捨ててしまう。しかし、果たしてこれは「暗いニュース」だったのだろうか……。その後の犬養毅暗殺、そして戦争へとつながることのほうが「暗いニュース」だったのではないだろうか。

 このとき、政治は犬養毅に対し、「(スポーツも)いや、勝たなくてはダメです」と語ったし、その後も日本代表監督の松澤(皆川猿時)の言う「オリンピックは戦争じゃない」という発言に対し、「勝ち負けがすべてだよ。これはアメリカとの戦争だ」と言い切る。この一言はその後、どんな風に物語に関わってくるのだろうか。

 ただ、政治という人は、悪人というわけではない。人たらしで、実行力があり、オリンピックを東京に誘致するのに一役かった人物である。多くの実行力のある人物が、ちょっと失礼で強引であったりするのに、どこかかわいらしくて憎めないということはよくある話だ。我々が日常生活で感じる実感ともどこかつながっているように思う。

 前出の監督・松澤は、高石から「(政治は)ほんとは泳げんのちゃいますか」と言われたとき、「たとえ泳げなくとも、それを補って余りある魅力がある。だからまーちゃんのためなら人肌脱いでやろうと思うんだよ。政治家だって嘉納治五郎だって、まーちゃんのことほっとけない、そう思わせる何かが、田畑政治にはある」と力説する。その「何か」の実態と、それによって起こった出来事がこれから描かれるのではないか。

 政治の「何か」については、8月4日放送の29回で少しだけ明らかになった。ロサンゼルスオリンピックに行った際、選手の鶴田(大東俊介)が「(田畑の行動は選手のことを考えた上での)計算づくではないか」とも指摘している。政治がいないと水泳代表たちの士気はあがらなかったのかもしれないし、政治が「日本を明るくするため」に動いているということもわかった。ノン・プレイング・キャプテンの価値を、プレイヤーであった高石も認めることとなった。

 29回で見せられた政治のキャラクターの明るい部分は、一言でも言い表せる。しかし、それまでに描かれてきた政治の裏にある複雑さを、戦中、戦後の日本の様子と並行して描く……ということは、戦中、戦後のオリンピックの在り方も、単に「日本が元気になった」という明るい面だけではない複雑さがあるはずだ。そのことが、第一部とはまったく違う、『いだてん』の第二部の魅力であるように思うが、果たしてこの先はどうなるのだろうか。(西森路代)

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