Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

グランドシネマサンシャイン開館で激変した池袋映画興行地図。TOHOシネマズオープンは2020年!

毎月29日掲載

第12回

19/7/29(月)

池袋に新しいシネコン、グランドシネマサンシャイン(運営会社・佐々木興業)ができた。国内最高級クラスのシネコンである。これまで、池袋は既存館型の2つのシネコンが共存している地域だった。2つとは、佐々木興業のシネマサンシャイン池袋(6スクリーン、新シネコン開業に伴い、7月12日閉館)と、ヒューマックスシネマの池袋HUMAXシネマズ(6スクリーン)だ。従来は、部分的に上映作品も変え、2社の興行は比較的すみ分けができていた。それが、新シネコンの登場により、両シネコンの興行バランスが、確実に崩れる見通しとなった。

グランドシネマサンシャイン(以下、グランド)の開業は7月19日。21日(日)午後3時過ぎ、JRや地下鉄が交差する池袋駅を抜け、いつも以上に人混みでごった返すサンシャイン通りをまっすぐに行き、池袋HUMAXシネマズが入るビルを右手に見つつ、次の十字路を左に曲がるとすぐに目指す新商業施設が見えた。この中にグランドは入る。この日のビル周辺の人混みがまた、なかなかに凄かった。エレベーターには多くの人が並んでいるので、乗るのは無理と判断し、エスカレーターで4階にあるシネコンのロビーまで上がる。

広い4階フロアにたどり着いて、びっくり仰天した。立錐の余地もないほど、人で溢れているのである。開業時とはいえ、シネコンが、ここまで混雑している光景を初めて見た。ロケットスタートを見せた新海誠監督の『天気の子』や、その前の週に公開されて同じく画期的な出足となった『トイ・ストーリー4』、それに興収100億円を超えても順調な成績が続く『アラジン』など、例年ではありえないような稀有な興行を展開している作品が並んでいることもあるだろう。この4階に2スクリーン、その上の5階から12階までに計10スクリーンが入っている。超目玉のアイマックスレーザーシアターは、12階部分(より上)に位置する(座席数は542席)。

この新シネコンが最高級クラスたるゆえんは、アイマックスや4DXシアターなど、多様な設備が整ったスクリーンの充実ぶりもさることながら、4階エントランスの凝ったオブジェ、エスカレーター脇のポスター類はじめ、12階天井に設置されたLEDサイネージまで、非常に考え抜かれた造りになっており、これらがゴージャス感を醸すことによる。尋常ではない人混みは、何本かの話題作に加え、シネコン自体の新しさ、魅力にも要因があるように思われた。

では、池袋の興行地図はどう変わるのか。興収で判断してみよう。冒頭で述べた従来の2社のシネコンの年間興収を見ると、2018年実績ではシネマサンシャイン池袋は約12億0400万円。HUMAXは約9億9千万円だった(ともに6スクリーンの累計)。それが、グランドの開業でどうなるかというと、グランドは年間で30億円が一つの目安としている。従来の2つのシネコンの累計興収は約21億9千万円(あくまで、昨年の年間実績であるが)なので、グランドだけで、これまでの2つのシネコンの興収を超えてしまうことになる。だから、注目点はグランドの開業によって、この地区の興行のパイが、どこまで膨らむのかということになろう。

もちろん、これは現時点ではまるでわからない。ただ、グランドはスタート時点では、全国のシネコンのなかでもトップクラスに入る大健闘の興行を見せたという。HUMAXも、爆発的な出足となった『天気の子』が、3日間で6千人近くを動員して、全然影響がなかったという。ただ、他の作品では10~20%ほど下がったのではないかとの見解を見せていた。興行のスケールが圧倒的な『天気の子』の公開、及びグランド開業時の話題性などがあるとはいえ、この地区の興行のパイは間違いなく広がっているのが、このような現状から確かだと言えよう。

ちょっと、計算してみよう。1年間を通して、もしグランドが30億円の手前の25億円あたりの興収で推移し、HUMAXが昨年より10~20%ほど落としたとしたら、8億9千万円から7億9千円ということになる。そうなると、昨年のこの地域で上がった興収より10億円以上の上昇となり、動員では約77万人前後が増えるということである。『天気の子』のような作品があれば、また状況は大きく変わってくるし、あくまで推定の換算なのだが、その増加分は別の地域のマイナス分となることも充分に考えられる。池袋という場所柄、そのマイナス分は主に埼玉県のシネコンに出てくるのではないかとの見方もあり、今後はそのあたりにも注視していきたい。

と言いつつ、来年の夏になると、以上述べてきたような大雑把な興行の見取り図そのものが、無効になる可能性が非常に高いのだ。国内の興行最大手のTOHOシネマズが、グランドやHUMAXとそれほど離れていない場所に新シネコンを開業するからである。グランドより少ない10スクリーン規模だというが、強力なシネコンができることに変わりはない。こうなると、グランドへの影響はもちろんのこと、HUMAXの今後が非常に気にかかる。大きくはないが、老舗の興行会社であるヒューマックスシネマは、すでに新宿ジョイシネマや銀座シネパトスなどが閉館し、都内の映画館は今では池袋と渋谷のみになってしまった。設備が万全の新しいシネコンばかりが話題になり、多くの人が行きたがるのは世の常ではあるが、私はHUMAXをとくに応援したい。従業員たちの映画への強い思いを知っているからである。言葉は陳腐だが、がんばれHUMAXである。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞で連載記事を執筆中。著書に『映画業界最前線物語』(愛育社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む