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『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』が描く、現在のアメリカの社会状況とヒーローの内面

リアルサウンド

21/3/29(月) 14:00

 『ワンダヴィジョン』に続く、マーベル・スタジオのドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、フライトスーツを装着して縦横無尽に空を飛ぶヒーロー「ファルコン」と、超人的な力と機械の片腕を持つヒーロー「ウィンター・ソルジャー」が、ともに新たな敵に立ち向かう話題作だ。

 本作のポイントは、巨費を投じたマーベル・スタジオのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)映画並みのスケールでアクションが展開するという豪華さと、『ワンダヴィジョン』同様に、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)以降のヒーローたちの物語が描かれるところである。そして公式に発表されている、本作の「新たなキャプテン・アメリカ誕生を巡る物語」にも注目が集まる。

 アベンジャーズにとって、これまでで最強の敵だったサノスが起こした大量殺戮「デシメーション(指パッチン)」によって、宇宙の全生命体の半分が無作為に消滅した。キャプテン・アメリカやアイアンマンら残ったヒーローたちの驚くべき作戦で生命体は復活し、サノスを打ち倒したことで、世界は一応の平穏を取り戻した。もちろん、本作の主人公であるファルコンことサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)、ウィンター・ソルジャーことバッキー・バーンズ(セバスチャン・スタン)を含め、消えた人々が戻ってきたことは喜ばしいが、単純に「めでたし、めでたし」とはいかなかった部分もある。本シリーズの舞台となるのは、その後の世界である。

 「指パッチン」から、消えた半分の人々が帰還するまでに、5年もの歳月が流れている。現世に戻ってきた人々は、自分たち無しで5年間まわっていた社会に戻っていかなければならないのだ。それは深刻な社会問題となっていて、世界を救う戦いに身を投じたサムであっても、経済状況や人種への偏見にさらされ、生きづらさを味わっていた。そこには、様々な理由によって分断が深まっている、現在のアメリカの社会状況が色濃く反映している。

 第1話では、ファルコンたちの敵となる組織が示される。それが、「指パッチン」の世界を未だに支持している過激な団体「フラッグ・スマッシャーズ」である。この名前は、コミックでキャプテン・アメリカと因縁がある。また、巷には荒唐無稽な陰謀論が飛び交っているという噂も流れている。これもまた、現在のアメリカそのものを表していると感じられる部分だ。

 ファルコンことサムは、かつてキャプテン・アメリカから直々に、彼の象徴でありアメリカの正義の象徴ともなった“盾”を手渡されていた。「君が次のキャプテンになってくれ」という意味のプレゼントである。だが、第1話では、サムはその重責に耐えられず、盾をスミソニアン航空宇宙博物館に寄贈してしまう。

 ウィンター・ソルジャーことバッキーは、かつて悪の組織「ヒドラ」に洗脳され、多くの罪なき人々を殺めたが、いまでは自分の意志を取り戻し、ヒドラに所属する者たちの逮捕に協力するようになった。だが、毎日のように悪夢を見るなど、心に深い傷を負ったままだ。政府は、免罪する条件として、定期的にカウンセリングに通うことを義務づけている。

 「ウィンター・ソルジャー」という言葉は、もともと身体や心に傷を負ったベトナム帰還兵を指すものである。第二次大戦において華々しく活躍したキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースが氷づけにされて眠っている間にウィンター・ソルジャーは、ヒドラに人間兵器として利用されていたのだ。

 映画『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)において、「ヒドラとS.H.I.E.L.D.はコインの裏表だ」というセリフがあったように、アメリカにも二つの面がある。ユダヤ人を大量虐殺し、世界の覇権を握ろうとしていたナチスドイツと戦ったアメリカ軍の戦いは、世界の秩序に貢献した部分がある。だがその後、泥沼となったベトナム戦争やイラク戦争などは、世界各国のみならずアメリカ国内でも批判が高まったように、戦いの意義そのものを問われることになった。ロジャースがアメリカの戦いにおける陽の部分の象徴であるならば、バーンズは陰の部分の象徴といえるだろう。

 一方、ハイテクスーツに身を包んだサムは、世界で最新鋭の軍備を利用する現代のアメリカ兵の象徴ともいえる存在だ。そんな彼が盾を持つ自信が持てないというのは、いまの複雑な世界情勢の中で、アメリカが正しいと胸を張って言えるような状況にないことを暗示しているのかもしれない。だからこそ彼は、盾を手放すときに「この時代に相応しいヒーローが必要」と語ったのではないか。

 だが、そんなことをサムが思っているうちに、なんと2代目「キャプテン・アメリカ」が選出されるという出来事が起こるのが、第1話の衝撃的なラストであった。第2話では、その新キャプテン・アメリカが、サムとバッキー二人と対峙することになる。しかしその人物は、残念ながらスティーブ・ロジャースには、力の面でも人格の面でも、遠く及んでいないように感じられる。

 なんとなく雰囲気はいいが、その器ではない人間が、なぜか重要なポストに居座っている……。これは苦笑してしまうくらいに、日本でもよく見られる現象ではないか。サムの自信の欠如が、このような残念な事態を生み出してしまったのだ。サムとバッキーは、表面的には仲が良さそうには見えない。しかし、キャプテン・アメリカになれたはずだったサムに対して、バッキーが「なんで盾を手放したんだよ」と、腹を立てるシーンなど、二人のやりとりのほほえましさは、本作の大きな楽しみとなっている。

 本シリーズでは、そんな二人の内面や社会的な状況が、これまでの映画作品よりも、じっくりと時間をかけて描写される。これは、本作がドラマとしての強みを活かしている部分である。『ワンダヴィジョン』と同じく、本シリーズが終了する頃には、視聴者は主人公たちへの思い入れを深くしているはずである。

 第2話において、サムとバッキー、そして新キャプテンアメリカの混成チームは、何らかの方法で肉体を強化したスーパー・ソルジャーたちを擁する「フラッグ・スマッシャーズ」との緒戦にて完敗を喫する。とはいえ、互いを罵り合うサムとバッキーの戦闘スタイルは、現時点ではコンビネーションを全く活かせていない。この二人が息を合わせて真に協力たとき、どんな戦い方、どんな新しい力を発揮するのかに期待したいところだ。そのために、彼らは自分のこだわりを捨て去り、互いのことをより理解する必要があるのではないか。

 ルッソ兄弟監督による『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)における、正義のあり方を問う戦いや、悪でありながら正義を標榜したサノスとの戦いを経て、いまアベンジャーズはそれぞれ、サノスの残した思想や、フェイクニュースを広める敵と戦っている。その最前線のバトルを描く本シリーズは、まさに現在の世界の問題を基に、正義とは何かを考え続ける、ルッソ兄弟監督が主導した作品を継続した内容となっているといえよう。これほどエキサイティングなドラマシリーズが、いま他にあるだろうか。

 そして、真のキャプテン・アメリカとなるのは、サムか、バッキーか、それとも他の誰かなのか? 本作で誕生すると予告されている、真の二代目キャプテン・アメリカの正体にも大いに期待したい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』
ディズニープラスにて独占配信中
出演:アンソニー・マッキー、セバスチャン・スタン、ダニエル・ブリュール
監督:カリ・スコグランド
脚本:マルコム・スペルマン
原題: The Falcon and Winter Soldier
(c)2021 Marvel

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