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テイクアウト、自動調理、人工肉……コロナ禍で「食」の明日はどう変わっていく?

リアルサウンド

20/8/12(水) 8:00

 『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』はコロナ禍、SDGs、農業や飲食産業のDXを踏まえて「食」の明日を多面的に示す一冊だ。

 食べることはすべての人間に関わり、しかしたんに「栄養が取れればいい」「とにかく便利に短時間で済ませばいい」というものではない。たとえばコロナ禍で奪われたのは、複数人でお店でゆっくり時間をかけて会話することで関係性を育み、深め、確かめあう「コミュニケーション体験」としての食事の楽しみだ。

 機能性や味に留まらない食の価値をこれからどう再興し、新たにつくっていくのか。それに取り組んでいるプレイヤーの顔ぶれは? 世界の食産業の急激な変化に対して日本は(またも!)出遅れているが、巻き返しのカギは? といったことがわかる。

コロナ禍以降の外食/中食

 多くの人が真っ先に気になるのは、これから先、外食、それも大型チェーン店以外の飲食店はどうなっていくのだろう、自分の好きなあの店が続くための道はないものか、ということだろう。もちろん、事態は進行中であり、ニューノーマルへの対処法のパターンはまだ確立されていない。ただ飲食業のゲームのルール、潰れないためにやるべきことが変わったことは間違いない。

 本書では「たんなるテイクアウトでは、いくらおいしくても外食が提供していた体験性に比べると見劣りする」と一線にいるシェフ自身が語る。そこでひとつの方策として、たとえば「買ったあとに家庭であえて一手間加えてもらう要素を残す」「持ち帰るものであっても、複数人での楽しみにつながる価値を提供する」(あえて小分けにせず一定のボリュームを最小単位にして売ることで買った人が分け合ったり、いっしょに食べることを促す)といった施策を紹介し、従来の外食が提供していたのとはまた別の体験性をテイクアウト、中食においても実現することを提案する。

 また、立地が来店動機の多くを占め、近隣企業の飲み会需要で持っていた店は厳しくなった。したがって「店」単位ではなく、シェフやスタッフ「個人」に対するパーソナルな共感や関心によって顧客とSNSで(も)結びつくことが飲食業でも求められる動きが加速する、顧客に選ばれるための情報戦が激しくなる、とも言う。

食に対する多様なニーズそれぞれに応える未来が待っている

 コロナ禍で若干棚上げされた感はあるが、地球全体の人口増による食肉需要の高まりに伴うプロテイン(タンパク源)不足、大量の食肉製造のための環境破壊、フードロス、肥満や生活習慣病の蔓延などが依然として人類の大きな課題であることにも変わりはない。そうした視点から、植物由来の「人工肉」や肉の細胞を用いた「培養肉」などの話ももちろん扱われる。

 ただし従来からの大きな流れと、コロナ禍による大きな変化、このふたつの動きは必ずしも重なるわけではない。しかし本書はそのどちらも扱うため、かなりのボリュームとなっており、トピックは多岐にわたる。だから一から順に読むよりも、まずは自分の興味のあるところから読むといいだろう。

 本書でも指摘されているが、食関連市場は非常に大きく、同時に個々人の嗜好のバラツキも激しいため、非常にたくさんのニッチが成立する。食のニーズはきわめて多様だ。だからこそ読者はパラパラめくって自分の興味を入り口に読み進めていき、自分が「食」のいったい何に関心があるのか、食に何を求めているのかを確認した上で、それと関係するトピックをさらに読んでいくといいだろう。

 暗い未来像ばかり想像させられる今日において、ワクワクさせてくれるものも紹介されている。

 たとえばレシピアプリとIoT調理家電が融合して「スマホアプリでレシピを選ぶと調理家電と連動して材料を勝手に入れて自動で作っておいてくれる」といった近い将来実現するだろう家電像や、動物性タンパク質を使わない人工肉はムスリムやヒンドゥー教徒のように特定の肉が禁じられている人たちに新たな市場を開拓するものでもある、人工肉が最終的に目指すのは「肉以上の未知のおいしさ」である、といった話だ。

 食に対するニーズの多様さそれぞれに応えてくれるサービスや技術が同時多発的に猛スピードで開発されていっている。そのすでに訪れつつある未来が存分に味わえる一冊だ。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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