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和田彩花の「アートに夢中!」

ENCOUNTERS

毎月連載

第49回

2020年10月11日、六本木に新たなアートコンプレックス「ANB Tokyo」がオープンした。ANB Tokyoは、アーティストの⽀援やコミュニティー形成など、⽂化が息づく社会システムを醸成していくことを目的に昨年設立した一般財団法人東京アートアクセラレーションが運営。ギャラリーやアーティストのためのスタジオ、コミュニティーラウンジが混在するアートコンプレックスビルだ。11月8日まで、特別に4つのフロアを使用したオープニング展『ENCOUNTERS』を開催。文字通り予期せぬ「遭遇」から生まれる新しい創造をテーマにした本展には、26組のアーティストが参加。都市、ストリート、エコロジー、パーティーといった異なる4つのテーマで、各フロア別々のキュレーターが展示を企画している。六本木の新名所となりそうな「ANB Tokyo」。和田さんはこの場所でどんな出会いがあったのか。

ANB Tokyo 『ENCOUNTERS』

実は知り合いから、元カラオケ店のビルをほぼ丸ごとリノベーションして、現代アートを紹介する場所「ANB Tokyo」が六本木にできると紹介されて、興味を持ちました。展覧会は10月11日からでしたが、その前日には、オープニングライブが配信され、まずはそれを見たんです。ANB Tokyoの異なるフロアで5名のミュージシャンが同時にライブ演奏を行い、1名のダンサーが各フロアを縦断している、そのパフォーマンスがとっても素敵だったんです。

ちなみにその様子は現在YouTubeでも見ることができるので、ぜひ皆さんに見てもらいたいんですが、いい意味でとてもカオス。展覧会でパフォーマンスを行うというのはよくありますが、今回はそのどれとも違うというか、ひとつの展覧会のはずなのに、各フロアで展示されている作品の毛色も違うし、ライブのパフォーマーも違う。でもそれをダンサーがうまくつなぎ合わせているんです。音と映像と動きと歌が混ざって、そこに作品があるという空間がすごく魅力的で絶対に展覧会を見に行こうって思ったんです。

それにライブパフォーマンスはやっぱり興味があって。私自身もやっていることなので、ほかにどんな表現方法や見せ方があるのかなってすごく惹かれて、知りたいって思うんです。ライブって基本的にはホールやライブハウスで行うもの、というのが一般的ですが、こうやってアートスペースでもできる。やっぱりアートと関わり合いながらライブができるってすごくいいですよね。

3F NIGHTLIFE

展示風景より。MES×Houxo Que《NIGHT DISTRICT》 2020

まずは「NIGHTLIFE」と題された3階。レーザーやライブ・テーピングを駆使した作品を発表するMESと、蛍光塗料を使ったペインティング作品やディスプレイを用いた作品を展開するHouxo Que(ホウコォ キュウ)さんの2組がコラボレーションした作品が展示されているんですが、まるでディスコやクラブのような空間。レーザーや点滅を繰り返すディスプレイ画面など光が飛び交い、一瞬どこに迷い込んだのかわからなくなってしまいました。

展示風景

展示空間はまさしくディスコをイメージしているそうなんですが、ただのディスコの再現ではなく、かつて六本木にあったディスコ「トゥーリア」で実際に起きた照明装置の落下事故をモチーフにしています。祭壇を想起させるようなDJブースや、レコードのスクラッチとお地蔵さんを撫でる映像が連動する作品が展示され、賑やかな作品だけど、そこには痛ましい事故の痕跡も提示されていました。

でもこの作品と会場を見ていて、自分が立っているステージとすごく似通っているって思ったんです。レーザーやモニターは普通にライブで使っているし、照明が落ちる事故というのも実は自分にも起こりうるかもしれない……。そんなライブを彩る装置や、起こり得る事故の世界をアートにしている。とっても自分と地続きというか、関連性の高い作品であり、こういう表現の仕方があるのかと、とても関心を持ちました。

4F 楕円のつくり方

展示風景より。スクリプカリウ落合安奈《明滅する輪郭》 2020年

4階は「ストリート」と「家族」の2つのテーマを中心に企画された会場ですが、その中でもスクリプカリウ落合安奈さんの作品が好きでした。

日本とルーマニアのハーフであるスクリプカリウ落合安奈さんが、2つの祖国で収集したいわゆるファウンド・フォトと呼ばれる、撮影者や被写体が誰かわからない写真を使用した作品。なぜか写った人物の顔にビニール袋が縫い付けられているんです。これまで私は写真から人の息吹を感じたことがなかったんです。でもそのビニール袋があるだけで、写真の中に写っている人の息吹そのものを感じました。

実際にスクリプカリウ落合安奈さんは、ビニール袋によって「呼吸」を可視化し、それは自己と他者を行き交う成分を表しているんだそうです。さらにビニールや写真は永遠に残ることはなく、いずれは朽ちていくもの。時が経ってビニールが朽ちてしまうと、写真には縫い跡の点線だけが残るそうなんですが、経年劣化が楽しめる、という意味でも新しい写真作品だな、と思いました。

6F And yet we continue to breathe.

コンクリートや梁がむき出しとなっている6階のフロアには、六本木で自生する植生を持ち込んでいるそうです。まさしく人と自然をテーマにした空間。

これまで私は人の手が入っていない広大な自然や、大都市と人間の関係性については考えてきたけど、そこに身近な植物を絡めて考える、ということはしてきませんでした。それは私が生きている環境で自然や植物を感じないから、というのが本音。私は自然豊かな群馬県で生まれ育っているから、自然に簡単に触れ合うことができない東京って実は息苦しくなることがあるんです。

でもこの会場には、六本木に自生する植物や盛土が展示され、実は見落としているだけで植物は都会の中で生きているんだな、それって人間に近いな、と思わされました。

展示風景。片山高志作品

その中でも、植物と人間の境界線を独自の視点で描いている片山高志さんの作品が好きでした。

一見すると写真を加工したかのような作品なんですが、実際にはラッカーを塗って光沢を出したパネルに、水彩で描いているそうなんです。テカリを出すことによって、水彩が染み込まないようにしているそうなんですが、その技法によって不思議な画面が形成されています。

描かれているのは、植物とか風景なんですが、なぜか一部だけ切り抜かれたような、浮かび上がるような人工的な白い壁や四角形が画面に登場するんです。この描かれなかった空間によって、ただの風景画じゃなく、人間と自然や都市の実際の関係性って何なのかを私たちに考えなさいって言われているような気がしました。

六本木で現代アートを見る

六本木って私にとってこれまであまり縁のない場所でした。夜の街っていうイメージもあるし、世代的にも六本木がギラギラと輝いていたバブルの時代とか、ディスコっていうのは、人から聞くもので、自分にとっての現実とはあまり結びつかなかったんです。でもそういう場所に、新しいアートコンプレックスができたと同時に、実は現代美術をたくさん扱っているギャラリーが多いことに改めて気づいたんです。なんだかこの展覧会を機に、六本木が自分にとって身近になったような気がしました。

今回は各フロア本当に全部が全部違って、各フロアの中で何を表現できるかとか、キュレーターによって全然見せたいもの、選ぶアーティストも違うとか、展覧会場と地域の歴史や事実との結びつきとか、ただ作品を見せるだけじゃないっていうのが面白かったです。

あと、今回は新しい現代アートと出会わせてもらったな、と思いました。いままで知らなかった作家さんがたくさんいて、いろんな手法と考えで作品を制作している。今、同じ時代に生きている作家さんたちがこれからどういう作品を提示して行ってくれるのか、とっても楽しみです。

構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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