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【おとな向け映画ガイド】

酒で人生急展開!?マッツ・ミケルセン主演『アナザーラウンド』、観たらきっと元気をもらえる『テーラー 人生の仕立て屋』をご紹介。

ぴあ編集部 坂口英明
21/8/29(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(9/3〜4)に公開される映画は12本。少なめの週です。全国100スクリーン以上で拡大公開される作品は『シャン・チー/テン・リングスの伝説』『科捜研の女 -劇場版-』『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』の3本。中規模公開、ミニシアター系の作品が9本です。今回はその中から、人生を考える2本のおとな向け映画をご紹介します。

お酒、もう一杯!
『アナザーラウンド』

誰もが中年に差しかかると多かれ少なかれおちいる「ミドルエイジ・クライシス」という病。それを主人公の男が、いかにして、解消したかって映画なんですが。主演は、北欧の至宝とよばれ、中年男優にも関わらず、日本でもアイドル的人気のあるマッツ・ミケルセン。007の悪役なんかが似合う彼を、風采のあがらない、悩める中年の高校教師役にしたところが、まずこの映画の魅力です。

なんとなくふさぎがち。妻との関係もギクシャクしている。授業にも気が乗らない。そんなダメ教師に、ついに生徒が抗議。父兄も学校に来て、このままじゃ大事な試験に影響すると、吊し上げをくらってしまいます。そんなときに出席した先生仲間の飲み会で、ある学説が話題になります。「血液中にアルコール濃度を常に少しだけ保つと精神的にいいらしい」。ノルウェーの哲学者の説といいます。その量は0.05%。皆それなりに悩みを抱えていたんでしょう、翌日から実験を開始。これが大成功してしまいます。

気が大きくなって色々トライするようになり、授業内容が激変。生徒にもやる気が出てきます。どの先生も効果絶大。このままいけばよかったのですが……。ついふらふらと、もっと好転するのではと、酒量を増やしてしまうのです。そして、4人の先生が繰り広げるどんちゃん騒ぎ。ここからが天国と地獄の始まりです。

なんといっても、舞台は北欧デンマーク。ビールやワインなどアルコール度数16.5%以下のお酒は16歳から購入可。レストランなどの飲酒は18歳以上なら可能。映画の中で、高校生が飲んでいるシーンが多くあり、なるほどそういうお国柄なのかと納得します。

監督は、マッツ・ミケルセンとは『偽りなき者』で組み、マッツにカンヌ国際映画祭の主演男優賞をもたらしたトマス・ヴィンターベア監督。この作品も今年度の米アカデミー賞国際長編映画賞受賞を始め、各国の映画賞を獲得しています。

結末は、ちょいと泣かせる人生讃歌。ミドルエイジでなくても、このままじゃいけない、と考えているひとには、もっと気楽にやった方がいいんじゃない? といってくれる映画です。お酒に走るのはどうかと思うけど。

【ぴあ水先案内から】

植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)
「……エンディングに流れる主題歌 〽誰が何といおうと 人生は最高 大丈夫 気にするな 好きに生きればいい 多少アルコールに依存してもいいではないか、人生を愉しみなさいと励ましてくれるデンマーク映画だ。」

植草信和さんの水先案内をもっと見る

(C)2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

人生、メジャーでは測れない!
『テーラー 人生の仕立て屋』

アルチザンの矜持、そんな言葉が頭に浮かびました。ギリシャのテーラー、仕立て屋さんのお話です。

紳士服仕立て、テーラード・スーツというのは、どの国でもそろそろ下火の商売。父の代からこの家業を営む主人公ですが、客足は落ち、店の家賃が払えません。気位の高い父は病に倒れ、にっちもさっちもいかなくなって、彼は商売道具を荷車にまとめ、街頭で、露店の“移動仕立て屋”を始めます。でも、そんなところでスーツを買う人はいません。シャイな彼の前を通りかかるのは魚や野菜を買う女性ばかり。

ウェディングドレスを作ってくれない? お金はないけれど娘に贈ってあげたい。ある日そんな注文を受けます。背に腹はかえられない。恐る恐る、近所の裁縫上手な奥さんに教わりながら、女性の洋服、それも結婚衣装にチャレンジします。14歳から縫製の修行をしてきた彼、腕はいいのです。広場の、生魚を売る店の隣だろうと、きちんと三揃いのスーツを着て、ていねいなお客様対応もします。ちゃんとした仕事をすれば理解してくれる人はいる。お天道様は見ているのです! やがて……。

髪の毛をきちんと整え、磨き上げた革靴を履き、寡黙だけれど、凛として。まさに紳士です。この時代に、決して生き方がうまいとはいえず、かえってコミカルな印象さえありますが、なにか、共鳴してしまいます。演じているのは。ギリシャのベテラン俳優、ディミトリス・イメロス。監督と脚本は、この作品が長編初となるソニア・リザ・ケンターマン。本国の映画祭で国営放送協会賞など三冠を獲得。世界各国の映画祭でも絶賛されています。

太陽の国ギリシャ。エーゲ海沿いの町を、荷台に乗せた美しいドレスをはためかせ、オートバイでひた走る、三つ揃いを着たテーラーの姿は微笑ましく、きっと元気をもらえると思います。

【ぴあ水先案内から】

恩田泰子さん(読売新聞記者)
「……監督は、視覚的な魅力に富んだキートンやタチの映画を参照したというが、さもありなん。古き良きものの中にある普遍的な魅力を主人公の存在を通して、きっちり描き出している。そしてそれが、そのまま今の世の中からはみ出した者への賛歌にもなっている。……」

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(C)2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.

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