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土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.6 後編 ワールドワイドな演出家・振付師の仲宗根梨乃と対面(後編)

ナタリー

21/4/16(金) 17:00

左から仲宗根梨乃、土岐麻子。

アーティスト土岐麻子が中心となり、さまざまな角度からK-POPの魅力を掘り下げていくこの連載。6回目となる今回はダンスエンターテイナーとして世界を股にかけて活躍する仲宗根梨乃がゲストとして登場している。前編に続いて後編では、仲宗根がトレーナーとして出演している「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」の話題に始まり、ステージ上での心構えや、2人が考えるK-POPの魅力についてなどのトークが展開されていく。

取材 / 土岐麻子 文 / 岸野恵加 撮影 / 森好弘

練習生たちに「BE YOURSELF!」

土岐麻子 4月からオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」にトレーナーとして出演されるんですよね(取材は3月中旬)。公開されていたリアクション動画、観ましたよ。とにかく練習生の方たちを「Good!」って褒めていらっしゃるのが印象的で。

仲宗根梨乃 私はやっぱりそれぞれの個性を引き出したいんです。前編でも話に出ましたけど、日本人は自分を押さえ込んでまでも相手をおもんぱかるカルチャーがあるじゃないですか。そんなものはアートをやるとなったときに邪魔だなって思うんですよ。アーティストはみんないい子なんですけど、アートが濁るのはよくない。なので練習生にも、厳しいときはめっちゃ厳しいですよ(笑)。すべて優しくポジティブにやろうと思っているわけではなくて、目の前にいる人にそのとき必要なことを言ってます。

土岐 その瞬間瞬間で必要なことを感覚的に伝えてらっしゃるんですね。

仲宗根 そう、感覚。振り付けでフォーメーションを考えるときだけは論理的思考を使うから、白髪が増える(笑)。

土岐 (笑)。ダンスって踊るほうも観るほうも感覚的ですもんね。歌は言葉があるからストーリーみたいなものが少しあるかもしれないけど。

仲宗根 もちろん基礎がないといけないのは最低条件なんですけど、練習生たちにはもっと自由になってほしい、「BE YOURSELF!」でいてほしいなと思います。。20代以上の子は考え込んじゃうことも多いんですけど、10代の練習生の子たちはとにかくピュア。なんなら私のHelpなんかいらないんじゃ?くらい吸収していきますから、新鮮ですね。国民プロデューサーの皆さんにもプレッシャーをかけたいですよ。「皆さんが世界に通用するメンバーを選ぶんですからね。信頼してますよ」と。

土岐 プレッシャー(笑)。オンエアがすごく楽しみです。梨乃さんのこのパワーが電波に乗ったら、ファンがまた増えるでしょうね。

仲宗根 どうかな? 私けっこうクレイジーですよ。練習生たちにもずっと「不良になれ!」とか言っちゃってるし(笑)。

緊張してしまうときは、過去や未来に縛られている

土岐 個人的に聞いてみたいなと思っていたことなんですけど、私、長年ステージに上がっていても、いまだに怖いときがあるんです。K-POPのステージを観ているともう毎回すごく安心して観られるくらいみんなレベルが高いんだけど、彼らもやっぱり私と同じようにステージに上がるのが怖いこととかもあるんだろうなって。そういうことについてメンバーに声をかけることもありますか?

仲宗根 もちろん、もちろん。常にいいものを作りたいとお互いに思っているから、こまめに言葉をかけてます。それこそNCT 127の「NEO CITY」のときは初めてのツアーだから、最初めっちゃ緊張している子もいましたし。でも彼らはコンサートが始まる前にかけた言葉も終演後に伝えたアドバイスも、しっかり受け止めてちゃんと直そうとしてくれていましたね。

土岐 なるほど。ちなみに梨乃さんは、ステージに上がるときに気持ちをどうやって持って行きますか?

仲宗根 私も緊張するときはありますよ。でもそういうときはまず、初心に帰ってすべてに感謝します。ステージに立てるのは私1人だけの力ではない、って。私はアートの神がいると思っているので。あと、ファンって絶対に温かく受け止めてくれると思うんですよ。だからありのままでいいんじゃないかなって思います。

土岐 うーん。でもどうしても怖くなっちゃうのってなんなんでしょうね。自分に厳しくなっちゃってるってことなのかな。

仲宗根 もちろんそうでしょうね。呼吸を整えるのは大事ですよ。マインドフルネスって聞いたことありますか?

土岐 聞いたことはあるけど、やったことはないです。

仲宗根 簡単ですよ。5分から10分、呼吸に集中するだけ。あとは、そのときに自分が五感で感じていることを口に出して言ってみる。例えば、今私は座っていて、黒い椅子が目の前にあって、履いているスカートの布の素材を感じていて……そんなふうに口に出すだけで「今」に集中できて、ちょっと楽になる。人間ってやっぱり、過去や未来にいるときに不安になるんです。だから常に今を生きることが大事じゃないですかね。コンサートの楽しいところって、今を生きているというところだと思うんですよ。

土岐 なるほど……。確かに緊張しちゃうときって、「これから起こるライブで失敗しちゃったらどうしよう」「練習量が足りなかったらどうしよう」とか考えてるけど、それは過去や未来に縛られてるってことなんですね。

仲宗根 そう。もう、ある程度やってきたら「あとはどうにでもなれ」「なんくるないさー」ですよ。このコロナ禍ですし、私たち、生きてるだけで奇跡ですから。命のありがたさや、自然を大切にしていく心構えをちゃんと全員がリセットしないといけないと思います。

土岐 本当にそうですね。私、一時期持病でひどい頭痛があって。本番までに薬を飲んで治すんだけど、本番の15分前にスッとなくなったことがあって、そのときのライブはまったく緊張しなかったんですよ。「元気があればなんでもできる」じゃないですけど(笑)、そのことをふと思い出しました。

仲宗根 本当に、いらない固定観念はどんどん外していくのがいいと思います。頭痛は自分の中をコントロールできていないときに起こる場合があるんですよ。体って全部つながってるんですよね。体はマインドに影響するし、マインドも体に影響する。

土岐 もうそれをすごく実感してます……。20年くらいずっと運動してこなかったので、最近は立ってるだけでつらい(笑)。

仲宗根 まずは骨を正しい位置に戻すことですね。いいヨガの先生を知ってるので、今後土岐さんにご紹介しますよ!

土岐 わあ、ぜひお願いしたいです!

仲宗根 私も3カ月続けて痛みがやっとなくなってきたんです。私は今はもう裏方ばかりで、自分で踊ることをしなくなっちゃっているので、体にかなりガタがきてて。基礎がなってないしクセのある振りばっかりやってきたから、外の筋肉しか使ってなくて、だんだんズレてきてるみたいなんですよ。だからヨガの先生にだいぶ助けられてますね。

アートを追求する姿勢が素晴らしい

土岐 梨乃さんはアメリカと韓国、どちらの現場も肌で感じてきていらっしゃるわけですけど、近年はBTSがグラミー賞にノミネートしたりとK-POP旋風がさらに世界に広がっていますよね。梨乃さんもそういう実感はありますか?

仲宗根 はい。K-POPの世界的ヒットというとまず浮かぶのはPsyの「江南スタイル」(2012年リリース)ですね。あの頃はアメリカのラジオでも曲がかかってたので、「ここで韓国語が聴けるとは」ってちょっと感動しました。あとは私、SuperMの「We Are The Future Live」ツアーの演出もさせていただいてるんですけど、2019年にハリウッドのキャピトルレコードで彼らがショーケースをやって、アメリカのファンがたくさん集まってるのを見たときは「こんな時代が来たんだなあ」って思いました。

土岐 世界へK-POPが広がっていく大きな要因は、やっぱりこだわって緻密に作っているクオリティの高さなんですかね。

仲宗根 それはありますよね。韓国は今映画界もすごく盛り上がっていて、「パラサイト」がオスカーを獲ったり。アートをちゃんと追求する姿勢が素晴らしいと思います。あと、世界へ発信するという姿勢。

土岐 国民性なのかな、目指す道を定めたらものすごく勉強する人が多いなとも思っていて。韓国に行ったときに、知り合いの留学生の子がカフェで少し勉強したくてお店の人に聞いたら、断られたんですよ。向こうだと勉強するって言ったらそれは何時間も居座るっていうことになるらしくて(笑)、みんな6、7時間とかカフェで勉強するのが当たり前みたいで。だから音楽も、すごく勉強してアメリカの最先端を取り入れたりしているのかなって。

仲宗根 あると思います。あとヨーロッパからも取り入れてますよね。テミンのソロアルバム「Press It」に、ブルーノ・マーズも曲提供してますからね。

土岐 へえ、すごい!

仲宗根 前編でも話しましたけど、韓国のプロデューサーたちは常にリサーチしてダイヤモンドを探してますね。だから本当に尊敬しています。コロナになってからの配信ライブも、韓国はXRとかARとかいろんな技術を取り入れていて、ピンチをチャンスに変えていろいろなことをやろうとしているのはすごくいいなと思いましたね。

自分の感覚を誇りに思おう

仲宗根 ちなみに、土岐さんが感じるK-POPの魅力っていうのはどのあたりなんですか?

土岐 言葉で表現しづらいところはあるんだけど、アイドルたちが圧倒的に、歌もダンスもすべてのパフォーマンスを自分のものにしているところ、ですかね。昭和のアイドルの価値観としてあったような「できなくてかわいい」みたいなものには、私は小さい頃から心惹かれなくて。アーティストを好きになったという感覚に近いです。とにかく自分の表現というものを1人ひとりがちゃんと持っていて、鈍器で殴られたような衝撃がありました(笑)。中学生のときに初めてバンドを観たときのときめきを、大人になってまた発掘できたというか。

仲宗根 なるほど。

土岐 あとは毎回カムバック(K-POPにおいて新作音源をリリースすること、およびその収録曲を引っ提げて音楽番組に出演するなどのメディア露出をするプロモーション活動全般)のたびにコンセプトを変えたりして、1人ひとりがいろんな人になるじゃないですか。ゴリゴリのラッパーになったかと思えば、次の曲ではすごくラブリーになったり。そこに無限の可能性を感じて。私はもうすぐ45歳だけど、40を超えてからどうしても新しいものに挑戦することに少しずつ臆病になり始めてたんですね。トラップやヒップホップも聴いていたけど、それを自分の作品に取り入れるとなると「聴いた人がどう思うかな」って抵抗があって。でもそんなときに七変化するK-POPのアイドルを観ていて、ものすごく勇気をもらったんです。「こういうふうになりたいな」って。

仲宗根 なればいいのに。

土岐 (笑)。だいぶ自分を広げてもらったような気がしています。

仲宗根 マドンナも一緒ですよね。長いキャリアで、時代に合わせた音楽を表現しているんだけど、マドンナ自身は全然ブレてない。私はその点で彼女をすごく尊敬しています。やりたい放題だけど、アートに関してはストイックっていう。

土岐 確かに確かに。私も、自分の作品でトラップもチャレンジしたし、なんでもかんでもやりたいことはやろうと思ってます。泉は全然枯れてないぞ、と。

仲宗根 いいっすね!

土岐 そういうところからこの連載も始まったんです。30、40代とかの大人の方々で、K-POPにハマっていることを周りがどうとらえるかわからなくて人に言えないみたいに思っている人たちもいるんですけど……。

仲宗根 え、なんで言えないんだろう?

土岐 なんででしょうね。アイドルにハマるなんて子供がやること、みたいなイメージを持つ人もいるからかな。

仲宗根 そんな人いたら説教したるわ!

一同 (笑)。

仲宗根 考え方をシフトチェンジしていってほしいですよね。「このカッコよさがわかる自分ヤベーやん」っていうほうに。何も恥ずかしくないし、誇りに思えよって思います。アイドルもみんな、命懸けて真剣にやってますからね。その子たちに対しても失礼だし、自分にも相手にもリスペクト、でいてほしいなと。

土岐 本当ですね。この連載では「他人の感覚を気にするより、自分の感覚を誇りに思おう」とこれからも発信していきたいなと思ってます。

(前編はこちらから)

新沼のコーナー

今回の新沼は、TREASURE。
私の推しグルのBLACKPINKが所属するYGエンターテインメントから去年デビューしたばかりということで、かなり気になっていた存在。ただ、人数多い!ってことで、動体視力が弱ってきている私は沼のほとりに行くきっかけを見失っていました。
しかしそんな中、読者のあさこあらさんからTREASURE沼の誘いのメールがありました。

「おすすめポイントは何といっても圧倒的なボーカルが3人もいることです」
ということで、シンガーという切り口で3人をピックアップし、プレゼンしてくださいました。

まずはバン・イェダムくん。
小さな頃から歌ウマキッズとして韓国では有名な存在だったようです。
「検索すると、まだ声変わり前に女の子のような高音でスティーヴィー・ワンダーを歌う動画に出会えます」とのことで、確認してきましたよ。
スティーヴィーが娘の誕生に際して書いたこの曲を、子供が歌うというシュールさも吹き飛ばす、楽しそうに歌う姿。こんな緊張感のある舞台でも、のびのびと歌ってるのがすごい。


それから時が経ち、YGの練習生時代に出た番組企画の中ではショーン・メンデスの「There's Nothing Holdin' Me Back」もカバーしています。
あさこあらさんが
「自信がなさそうな様子で歌い出しますが、どんどんノってきて聴いている人を自分の世界に引き込んでしまう圧倒的歌唱力とリズム感。それでいて『どうだうまいだろう」という押し付けがましさが一切なく、ライトで心地よいボーカル』
と言うように、ここでもやはり自分のフィーリングを楽しむように歌っている姿に引き込まれます。


そしてグループデビュー前の昨年6月には、ソロ歌手としてオリジナル曲「WAYO」をデジタル音源にて発表しています。
グッとくる曲ですが、WINNERが制作しているという先輩後輩エピソードにもグッときちゃいます。


2人目に紹介してくれたのは、パク・ジョンウくん。
「なんとまだ16歳。性格も茶目っ気があり、元気いっぱい! イェダムくんは大人びていますが、ジョンウはまだ子供子供してて、それが微笑ましい。近所にいる普通の高校生のような感じ。でも歌になると雰囲気ががらりと変わります」

あの名曲「Superstar」のカバーでは、歌声に真面目さや勤勉さを感じました。


また、中学生のオーディション時に歌ったアデルの「When We Were Young」はこちら。
って、さっきからずっと、選曲が良過ぎるな。


3人目に紹介してくれたのはあさこあらさんの推し!
「グループ1の人気者、キム・ジュンギュくんです。非常に特徴的な、中毒性のある唯一無二の歌声の持ち主です」
ということで、オーディションの映像と、オフィシャルでのカバー映像を教えてくれました。

おお。オーディションのときから、完成された節(ブシ)がありますね!


個人的にはBLACKPINKのプロデューサーでもあるTEDDYの楽曲で歌ってみてほしい!なんて思いました。

「もちろん歌だけではなくパフォーマンスも最高」ということで、TREASUREのアルバムとMVをチェックしてきました。アルバムでは私、「BE WITH ME」が好きだなぁ~
この「BOY」も良い。
低音ラッパーもいて、ダンスもカッコよくて、そしてなんといってもさわやか。


確かな技術と個性で、これからカムバのたびにもっともっといろんな面を見せてくれそう。日々の楽しみが増えました。
あさこあらさん、ありがとうございました!

このコーナーでは、私をこれから新しいK-POP沼にハマらせてくれる情報を引き続き募集します。こちらのフォームから、ぜひあなたの沼を熱くプレゼンしてください。

土岐麻子

1976年東京都生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2019年10月にソロ通算10作目となるオリジナルフルアルバム「PASSION BLUE」を発表。2021年2月17日にカバーアルバム「HOME TOWN ~Cover Songs~」を発売し、3月6日にはワンマンライブ「TOKI ASAKO LIVE 2021 Spring『MY HOME TOWN』」を東京・日本橋三井ホールで行った。

TOKI ASAKO OFFICIAL WEBSITE
土岐麻子staff (@tokiasako_staff) | Twitter
土岐麻子(@tokiasako) ・Instagram写真と動画

仲宗根梨乃

1979年沖縄県生まれ。マイケル・ジャクソンに憧れ19歳で渡米し、ブリトニー・スピアーズ、グウェン・ステファニーのワールドツアーや、アヴリル・ラヴィーン、ジャスティン・ビーバーなどの数々のミュージックビデオ、映画、CMなどにダンサーとして出演する。2008年のSHINeeのデビュー曲を皮切りに少女時代、東方神起、BoA、SUPER JUNIOR、f(x)、Red Velvet、NCT 127、超新星など数々の韓国アーティストの振付を担当。またジャネット・ジャクソン、ブリトニー・スピアーズ、国内ではCrystal Kay、AKB48、SMAP、DREAMS COME TRUEなどの振付にも携わる。近年ではコンサート演出も手がけ、自身も女優として活動。2021年4月より配信される「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」にトレーナーとして出演している。

Rino Nakasone Official site
Rino Nakasone 仲宗根梨乃 (@RinOkinawa) | Twitter
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