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リリー・フランキー&池田エライザが語る、『The Covers』が伝える“音楽の豊かさ”「誰かが歌い継ぐ限りその歌は生き続ける」

リアルサウンド

20/12/27(日) 18:00

 NHK BSプレミアムにて放送中の音楽番組『The Covers』。パイロット版として初回放送されたのが2013年10月、レギュラー化したのは2014年春である。毎回豪華なミュージシャンがゲストとして登場し、それぞれ思い入れのある楽曲をカバーするという、一風変わった音楽番組。しかし、そこで飛び出す音楽話はかなり深いものばかりで、ミュージシャンとしてのルーツや幼い頃の思い出、名曲についての解説、今の活動に影響を与えた出来事など、多岐にわたるトークを貴重な生パフォーマンスとともに堪能することができる、実は“最も音楽番組らしい番組”こそが『The Covers』なのである。そして、宮本浩次のカバーアルバム『ROMANCE』がキャリア初のアルバムチャート首位に輝いたことが象徴するように、歌謡曲や昭和の名曲の魅力が、“現在の視点”を通して再解釈され、注目を浴びている。そんなシーンの動きを先読みするかのように放送されていたのが『The Covers』であり、この番組が日本の名曲の素晴らしさ、カバーすることの意義を様々なアーティストに発信していったと言っていいだろう。今回リアルサウンドでは、12月27日の『The Covers’ Fes.2020』テレビ放送に向けて、2回にわたる『The Covers』インタビューを行う(第1回は、番組プロデューサー・川村史世氏へのインタビュー)。

 そして第2回は、リリー・フランキー&池田エライザへのインタビューである。初期からMCを務め、キレのあるトークや質問で番組の顔役を担ってきたリリー。2018年4月からMCを務め、番組内では自ら歌唱することも多い池田。音楽はもちろん、映画など幅広い方面でクリエイティブな才を発揮する両名の掛け合いは、番組名物の一つと言っていいほど面白く、ゲストミュージシャンからもルーツや思い出などを的確に引き出していく。もちろん互いに世代として捉え方が異なる部分はあれど、『The Covers』を通して確かに同じものを受け取り、歌謡曲や日本の名曲が歌い継がれていくことの意義を見出しているという。今回は『The Covers’ Fes. 2020』収録直後のリリーと池田に、『The Covers』だからこそ味わえる歌の魅力から、自身の音楽観・人生観に至るまでたっぷりと話を伺った。ぜひ楽しんで読んでほしい。(編集部)

「“こういう曲で育ってきたんだ”という愛おしさが感じられる番組」(リリー)

ーー『The Covers’ Fes. 2020』、素晴らしい内容でしたが、お二人ともいかがでしたか。

リリー・フランキー(以下、リリー):今年はこういう音楽番組が収録できないような状況から始まって。『The Covers’ Fes.』も通常通りにできるのか分からなかったんですけど、客席がいつもの3分の1にも満たなかったとはいえ、やっぱりお客さんに来ていただけて音楽を聴けること自体が幸せですよね。

池田エライザ(以下、池田):ライブは一方通行なものじゃなくて、お互いに共鳴し合うものですよね。相手が見えるからこそ、同じ時間を共有できている喜びが強く生まれるものだなって、改めて感じました。今回『The Covers’ Fes. 2020』に出てくださった方も、久しぶりに人前で歌ったという方が結構いらっしゃって。

リリー:今年初めて人前で歌ったという人も結構いたよね。この番組は普段の収録も全部生演奏・生歌なので、カバー曲のために何日もスタジオに入って練習してもらわなければいけない。ある種の大きな枷を与えてしまっているんですけど、でもやっぱりカバーをする曲に対して皆さんリスペクトや思い入れがあるので、どんなにベテランなミュージシャンでも、最初に音楽に触れた時のキラキラや初期衝動をちゃんと持ってきてくれる。それがいつも本当に楽しいですよ。

ーーとてもよくわかります。もっと言うと、他の音楽番組にはない『The Covers』ならではの魅力って何だと思いますか。

リリー:テレビで観る音楽番組の中で一番商売っ気がないから、逆にミュージシャンは素の感覚で来てもらえるんじゃないですかね。その人がミュージシャンになる前のもともとの生活とか、「この人、こういう曲で育ってきたんだ」っていう愛おしさが感じられる番組だと思います。初めて彼女の実家に行った時に、「この椅子にいつも座ってたんだ」というのが見えるような優しい気分になれますね。

池田:昭和歌謡とひとことで言っても、時代によってヨーロッパからアメリカまでいろいろなサウンドが混ざっていて、かなり広い世界なんだなって知れたのは、この番組に来てよかったことですね。だから年齢も性別も関係なく、いろいろな人に楽しんでもらえるきっかけがある番組かなと思います。

ーー逆に以前は、日本の名曲や歌謡曲に対してどんな印象をお持ちでしたか。

池田:番組に出る前は、歌謡曲ってみんなが歌っていたから王道なんだろうなと思っていて。『ザ・ベストテン』みたいにみんなが同じ音楽番組を観て、みんなが口ずさめるから親しみある曲になっているのかなという印象だったんですけど、本当はそんなことなくて。大人になるとジブリ映画の見え方がガラッと変わるように、今は歌謡曲に対して奥深さを感じますね。音楽の底のなさみたいなものというか。

リリー:いわゆる歌謡曲ばかりをみんなカバーしているわけじゃないんだけど、そういうものを選ぶ人が多いのは、やっぱり大衆音楽の強さなんですよ。

ーーというのは?

リリー:テレビ、ラジオでみんなが覚えたことがその人の血になっているわけで。みんなが初めて聴いたポルカもサルサもカリプソも、実はすべてメイドインジャパンのもので、日本の大衆音楽を通して知ったんだっていう人が多いと思うんです。

池田:私の世代だと、嵐の皆さんをはじめとする様々なJ-POPにもいろんな音楽要素が詰まっていますよね。豊かな部分がたくさんある音楽だってことが分かります。

「自分の豊かさの可能性をポジティブに受け止められる」(池田)

ーーそして実際カバーすることによって、今のアーティストの楽曲にどのように影響を与えているのか、目に見えてわかることもありますよね。「歌い継がれることでスタンダードになる」という、番組のテーマと重なる部分も感じます。

リリー:人って亡くなった後も、思い出されるうちは死んでないと思うんですよ。思い出してくれる人が一人もいなくなった時に本当に死んでしまう。同じように歌も、誰かがどこかで歌っている限りはずっと生きていると思うから、そういう歌を作りたいなってきっとみんな思っているんでしょうね。

ーーリリーさんはそのことをどんな時に実感しますか。

リリー:生で音楽を聴かせてもらった時、無条件に感じますよね。ライブって相手に圧倒的に頭の中を支配されるから、ストンと入ってくるんですよ。聴き手が自分で劇場を作ってない、向こうの作った劇場に入れさせてもらえるので、それが生の音楽の強さですよね。家で聴いている時と違うのはそこだと思う。昨今は、生で音楽を聴くこと、歌うことが制限されているけど、それは人間の歴史の中で一番の悲劇の一つでしょう。共存していかないといけないんだとしても、どこかでそこに抗っていかないといけないのかもしれないし。

ーーそうまで感じるのは、リリーさんにとって音楽がどういうものだからなんですか。

リリー:いろんな仕事をしていても、やっぱり音楽は永遠の憧れですよね。音楽に対してはいつでもキラキラした気持ちで接していられるんだと思います。

ーー童心に帰るみたいな?

リリー:子どもの頃とさほど変わっていないまま音楽と接触しているんだと思う。他の仕事はなかなかそうはいかないけど、音楽に対してだけはそれができる。ずっと音楽に対して、尊敬を持ち続けているからなんじゃないですかね。

池田:私は『The Covers’ Fes. 2020』でも歌いましたけど、リハーサルまでは緊張しちゃって難しいなと思っていても、本番ですごくスカッと歌えると、自分の豊かさの可能性をポジティブに受け止められるので嬉しいんです。働いてばかりでロボットみたいになっている部分もあるのかなと思っていたけど、「全然そんなことなかった。やってて嬉しい!」と思えるのはやっぱり歌う時ですね。

ーー歌うことは、池田さんにとって表現欲求の原点みたいなものなんですか。

池田:うーん……実は私もともと人前で歌いたかったわけではなくて。本当に身近な人だけが自分の歌を知ってくれればいいと思っていたから、世のため人のために歌うところまで気持ちを持っていけなかったんですけど、『The Covers』スタッフの方々に「それでも音楽を楽しんでいる若者がいる姿を見せられたら、希望があるんじゃないか」と言われて。声をかけてもらって歌ったことで、「聴いて元気になる人がいると、歌うのも幸せな仕事かな」と思い始めましたね。少しずつですけど。

ーー池田さんは今回「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を歌われましたけど、歌唱力だけでなく本当に素晴らしい表現力をお持ちな方だなと感じました。ご自身ではどんな一面が出たと思いますか。

池田:歌詞のままですね。「こう見えたい」みたいなものはないけど、結局『The Covers』が私の歌の原点なので、「ゴッドファーザー」を歌える時間を『The Covers』好きなお客さんと共有できてることがホッとするんです。ホーム感みたいな気持ちで歌っていますし、幼少期にブルーノートとか福岡のGate’s7にさんざん親と一緒に行って、ああいう曲を聴きながら横でずっとゲームしたりしていたので、自分にはしっくりきているなって思います。

リリー:逆にそういう経験がないと「ゴッドファーザー」をエライザが歌っても、なんか上滑りしてたと思うんですよね。

池田:そうかもしれない。憧れじゃなくて、馴染みいいものを無理なく歌わせてもらえるのが『The Covers』なので。

リリー:だから、その人の血になっているものを知れた時、愛おしさを感じるんでしょうね。

「同じ空間が違う場所に変わる感覚は、音楽ならでは」(池田)

ーー『The Covers』は、お二人にとっても人生や生活の原点を感じる機会になっているんでしょうか。

リリー:俺もあなたも日常的にいろんな音楽と接していると思うんですよね、仕事関係なく。でも『The Covers』に来ると、やっぱり自分にとって音楽がどういうものなのか、自分と音楽との距離感がわかってくるんです。

池田:常に自分を取り巻く何かしらが、いろんな方面に影響を与え続けていると思います。天気とかもそうですし。それを運命的だと感じることもあれば、偶然で済ませることもあるけど、なかでも音楽は要素として大きいかもしれないですね。

ーー最近だと、『The Covers』内で池田さんが好きだとおっしゃっていた崎山蒼志さんが、池田さん初監督映画『夏、至るころ』の主題歌を担当されました。

池田:それは私が『The Covers』を利用させてもらいました、ファンなので(笑)。でも『The Covers』に来てくださらなかったら、崎山くんが私の写真集を持ってるなんて知らなかったと思います、一生(笑)。

池田エライザ初監督『夏、至るころ』 予告!主題歌は崎山蒼志が書き下ろし

ーーそれも『The Covers』が引き起こした繋がりのひとつですよね。「音楽は要素として大きいかもしれない」とおっしゃいましたけど、音楽によってこそ感化・刺激されるものって具体的にどんなものを思い浮かべますか?

池田:『The Covers’ Fes. 2020』で聴いていても、やっぱり空間が概念的になるのがいいなって思うんです。氷川(きよし)さんがパーッと弾けた広いホールを作ったと思ったら、今度は鬼束(ちひろ)さんがいきなり三途の川のふもとみたいなところに連れて行ってくれたりとか。同じNHKホールにも関わらず、まったく違う場所に変わる感覚は音楽ならではだと思います。

リリー:ミュージシャンとか曲の支配力を目の当たりにするよね。

ーー池田さんの歌も会場の空気を一変する支配力を持っていたと思いますけど、リリーさんは聴いていてどう感じましたか?

リリー:素晴らしいですよね。最初は「せっかくだからエライザも何か歌いなよ」みたいな感じで、星屑スキャットの小さいコーナーから歌い始めたと思うんだけど、やっぱり歌の素晴らしさ、歌への想いがあるから少しずつ浸透していって、『The Covers’ Fes.』でも歌うようになったわけです。いきなり大風呂敷を広げたわけじゃなかったけど、気づいたらエライザが歌を主導する存在になっている。Sex Pistolsだって、もともとナイトクラブとか刑務所でしかライブやらなかったところから噂が広まっていて、みんな「見たい!」って言い始めたわけだから。

池田:不思議ですよね。

リリー:やっていくうちに、満を持してたくさんの希望を背負ってデビューっていうのが一番いいじゃないですか。

「不自由なものになってしまったら、音楽である意味がない」(リリー)

ーー宮本(浩次)さんも『The Covers』きっかけでいろいろなカバーをし始めたところから、気づいたらオリコンチャート1位になるカバー作品を作ってしまったわけですけど、そういった様々な“カバー”に対して、何か番組としての貢献を感じることはありますか。

池田:でも、皆さんもカラオケに行っていろんな歌をカバーしてますよね。歌うことで自分の原体験を思い出すことができたりとか、伝えたい想いを表現できたりすると思うので、実はカバーってすごく身近なことなんだと思います。

リリー:そうそう、カラオケで歌うのもカバーですよね。あと、シャイな子が「カラオケが嫌だ」って言う理由は、歌うことよりも、どの歌を選んだってことを知られるのが恐ろしいんだと思う。

池田:自分の本棚を見られるみたいなしょっぱさがあるんですよね。

リリー:それはミュージシャンも同じだと思うんですよ。

池田:でも、その理由も込みで話してもらえるのがやっぱり『The Covers』の甘酸っぱくて素敵なところだと思うんです。

リリー:人の曲を歌うと、「その曲を許容している」ことを発表するわけじゃないですか。だから度胸のいることですよね。みんな照れてると思いますよ。

ーー昨今はストリーミングサービスの普及で聴かれる音楽もすっかり多様化しましたけど、『The Covers’ Fes. 2020』に出演したGLIM SPANKYのように、若い世代が新鮮な感覚で歌謡曲を楽しんでいる状況があると思うんです。お二人は、歌謡曲のどんなところが今の時代に響くと感じますか。

池田:こんな世の中ですから、歌謡曲の持つ「いい歌詞」が改めて注目されてきているのかもしれないですよね。詞の説得力への評価がリスタートしたというか、改めていい曲だなというのをピュアに感じられるタイミングが今なのかなって。

リリー:いわゆる歌謡曲と言われるものを若い子たちが新鮮に感じるんだとしたら、エライザが言ったように歌詞だと思うんですよ。日本の音楽界って、タイアップがついたりいろいろ鑑みすぎたことで、歌詞の面において口当たり良くなりすぎたんだと思うんです。でも昔の演歌や歌謡曲なんて大抵は不倫相手のことを歌っていたわけで、今となってはそういうことがもう歌われなくなったわけだけど、音楽がそこに対して不自由になってしまったら、もはや音楽である意味がない。今の若い子たちは生まれながらにして、そういうことを歌わない音楽をずっと聴いてきたわけです。赤の他人に励まされるだけの曲、清潔な恋愛の曲だけをね。でも生きていると、世の中はそういうことばかりじゃないわけで、それをロックとか歌謡曲がうまいこと歌っていたんですよね。

池田:その肩身の狭さを、みんな音楽を聴いて感じているんでしょうね。どんどんクリーンなことしか歌えなくなって、抽象的なことを歌えない現状も見ていると、音楽自体が二番煎じ、三番煎じなものになってきちゃっている。だからみんな、本当の一番目に恋焦がれていると思うんです。

リリー:旦那のもとへ帰っていくホステスの歌なんて、「〇〇のブルース」ってタイトルがよくついてるけど、ブルーなことを歌うのが本来のブルースですから。ブルースの発端はリズムとかの話じゃなくて、もともとはそこにあるんですよね。

ーーたしかに。

池田:あと、昔の歌の方が女が負けていないんですよ。

リリー:そもそも主人公が女だよね。

池田:そうなんですよね、「ルージュの伝言」とか。赤川次郎さんの小説もそうでしたけど、そういうマインドが今の時代にちょっとあるんじゃないかなって。紳士が流行る時もあるけど、凛とした女性がよしとされる時もある。今はそんな時代なのかなって思います。

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■放送予定
『The Covers’ Fes.2020』
NHK-BS プレミアム/BS4K
12月27日(日)22:30~24:00

【MC】リリー・フランキー、池田エライザ
【出演アーティスト】
鬼束ちひろ、GLIM SPANKY、秦 基博、氷川きよし、宮本浩次(五十音順)
【LEGEND Guest】寺尾 聰

■パフォーマンス曲
鬼束ちひろ
「飾りじゃないのよ 涙は」(中森明菜/1984年)詞・曲:井上陽水
「焼ける川」(鬼束ちひろ/2020)詞・曲:鬼束ちひろ

GLIM SPANKY
「まちぶせ」(石川ひとみ/1981)詞・曲:荒井由実
「東京は燃えてる」(GLIM SPANKY/2020)詞:松尾レミ 曲:GLIM SPANKY

秦 基博
「春よ、来い」(松任谷由実/1994)詞・曲:松任谷由実
「泣き笑いのエピソード」(秦 基博/2020)詞・曲:秦 基博

氷川きよし
「GET ALONG TOGETHER -愛を贈りたいから-」(山根康広/1993)詞・曲:山根康広
「雪の華」(中島美嘉/2003)詞:Satomi 曲:松本良喜
「白い衝動」(氷川きよし/2020)詞・曲:岩崎貴文

宮本浩次
「喝采」(ちあきなおみ/1972)詞:吉田 旺 曲:中村泰士
「異邦人」(久保田早紀/1979)詞・曲:久保田早紀
「ハレルヤ」(宮本浩次/2020)詞・曲:宮本浩次

【LEGEND Guest】寺尾 聰
「HABANA EXPRESS」(寺尾 聰/1981)詞:有川正沙子 曲:寺尾 聰
「出航 SASURAI」(寺尾 聰/1980)詞:有川正沙子 曲:寺尾 聰
「ルビーの指環」(寺尾 聰/1981)詞:松本 隆 曲:寺尾 聰

MC:池田エライザ
「ゴッドファーザー~愛のテーマ」(1972)
詞:L.Kusik 曲:N.Rota 訳詞:千家和也

■番組情報
『The Covers』
NHK BS プレミアム
MC:リリー・フランキー、池田エライザ
放送:日曜22時50分~23時20分

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