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伊藤沙莉が明かす、『ステップ』飯塚健監督との信頼関係 「作品を重ねれば重ねるほど緊張する」

リアルサウンド

20/7/15(水) 8:00

 『幼な子われらに生まれ』『泣くな赤鬼』など、続々と映画化される重松清による同名小説を原作とした、映画『ステップ』に出演している伊藤沙莉。本作は山田孝之を主演に迎え、結婚3年目にして30歳の若さで妻に先立たれた主人公・健一(山田孝之)が、その一人娘である美紀(※中野翠咲、白鳥玉季、田中里念の3名が美紀の成長過程を演じる)を育てていくなかで、彼自身も成長していくヒューマンドラマだ。

 この作品で伊藤は、美紀の通う保育園の先生・“ケロ先生”を演じている。メガホンを取った飯塚健監督作品の常連俳優であり、健一親子が上る重要な一つの“ステップ”的ポジションを担った彼女に、自身の演技観や、飯塚監督との関係性や撮影秘話について話を聞いた。

【写真】劇中で保育士演じる伊藤沙莉

■現場にいた子たちに、“ケロ先生”にしていただいた

ーー今回の役を引き受けたのは、どういう流れでなのでしょう?

伊藤沙莉(以下、伊藤):だいぶ前からこの脚本を読ませていただいていて、飯塚監督さんと「やるなら、ケロ先生だよね」と話していたので、絶対にやりたいと思っていました。それからしばらく時間が経って、やっと出演できる時がきて。ケロ先生のことはずっと頭の片隅にあったので、お話がきて、最終決定が下ったときは嬉しかったですね。

ーー伊藤さんの登場シーンは愉快な時間が続きますが、実際の現場はどうでしたか?

伊藤:本当に保育園のようでした。美紀(中野翠咲)ちゃんをはじめ、みんなが「ケロ先生!」と呼んでくれて、カットがかかっても、子どもたちみんなと遊んだりできました。抱きついてくれたり、「これ見て~」「あっち行こう~」「遊ぼうよ~!」と誘ってくれて。そういう時間があったからこそ、私はケロ先生としてあの場にいることができたんだと思います。あの場にいた子たちに、ケロ先生にしていただいたと感じてます。

ーーあえて交流の時間を設けたりも?

伊藤:あえてというよりも、気がつけばみんなが寄って来てくれる感じでした。私が演じたケロ先生が登場するのは保育園のシーンだけなので、撮影日数は3日間くらいだったんですが、ほんのちょっとでも時間があれば、みんなが寄ってきてくれて。最後のお遊戯会のダンスをみんなで練習したのも、すごく幸せな時間でした。あと、やっぱりみんなまだ小さな子どもで、いつどのタイミングで「ん~」ってぐずっちゃうか分からなかったので、そこは一日一日、丁寧にやっていきましたね。

ーー演技経験がほとんどない子どもたちとだからこそ、生まれる面白さもありそうです。

伊藤:みんなありのままでいたのですが、美紀ちゃんに関しては、私が抱っこするシーンで、翠咲ちゃんが実際に寝なきゃいけなくて。本当に寝ているのとそうでないのとでは、体重のかかり方がまったく変わってきて、手のだらんとした感じとか、無意識な状態での筋肉の使い方も全然違ってくる。そこで寝てもらうのが大変でしたね。目をつぶって寝たふりをするだけだと、まぶたがピクピクしたりもしちゃうので、一度目が覚めちゃって「もうダメだ」となったり、監督がこだわり抜いて2日間くらいかけて撮りました。

ーー“寝待ち”みたいな(笑)。

伊藤:そうですね(笑)。結局2日目には、めちゃくちゃ遊ばせて、銭湯に行って、ご飯を食べて、一日をきちんと終えて、それで最終的に私の腕の中で寝ましたね(笑)。

■飯塚監督とは、一緒に作っているという感じがする

ーー伊藤さんは役の作り込みをかなりしていく方ですか?

伊藤:計算して演じることがあまり得意ではないけれど、俳優としてのステップアップのためにはやらなきゃと思っていて。でも、いざやってみると、うまくいかないんです。自分で自分のことがコントロールできない。私は、現場で生まれるもの、実際に相手に言われたことに素直に反応をするのが好きなので、予測してプランを立てることが苦手なんだろうなと。何かをガチガチに決めて現場に入ったことは、基本的にないですね。

ーー意外です。すごく計算して演じているんだと思っていました。当代きってのテクニシャンだなと。飯塚監督が本作で求めてくるものは、これまでとは何か違いましたか?

伊藤:いえいえ(笑)。飯塚組では作品をやるたびに、「“初めての伊藤沙莉”を確実に見せていきたい」と監督が言ってくださっていて、すごくありがたく思っています。以前『榎田貿易堂』(2018年)という作品をやったときに、「全力でふざけるのを、一回やめよう」と監督に言われて、そこからいつもと違うものが生まれたりした気がします。『ステップ』で私が出した“面白み”は、最初のすっ転ぶところと、あとは“ケロジャンプ”かな? 「お母さんも、きっともっと抱っこしたかっただろうな」というセリフを「『きっともっと、ほっともっと』って言ってみようか」という指示が一回あったんです(笑)。でも全く「ほっともっと」の言葉が出なくて……。

ーー(笑)。

伊藤:「ここの場面の感情的に、『ほっともっと』は言えなさそうです」と伝えたところ、監督も「俺も思った。やめておこう」となりました(笑)。こういう“試み”を飯塚組の現場では毎回経験させていただいています。

ーー飯塚監督の演出にはどんな特徴がありますか?

伊藤:飯塚監督は、感情を誘うのが巧みだと感じています。だから、飯塚監督の求めている感情の到達点だったり、私自身が「ここまでいきたい」というところには、必ず連れていってくださる。ここまで愛情に溢れた作品を作ることができるのも、飯塚監督だからこそなのだと思います。

ーーあの“飛ばないジャンプ”、笑いました。

伊藤:あれは、「2回目のジャンプはどうする?」となったときに、「ああ、どうしよう……」と思って、「“飛びそうで飛ばない”、みたいなものをやってみて」と言われて、「何それ!?」と思ったんですけど、いざやってみたら、すごく笑ってくださって採用となりました。飯塚組のときはだいたいそんな感じです。“課題”みたいなものを毎回投げかけてくださるので、すごく一緒に作っている感じがするし、良い緊張感がずっと保たれていて、それでいて楽しく、みんな笑っている、理想的な現場だと思います。

ーーそれはやはり、今まで一緒に組んできた信頼関係があるからこそ?

伊藤:そうですね。“これで見限られたらどうしよう”というある意味での不安はありますし、作品を重ねれば重ねるほど緊張しますけど、その緊張感は私にはあった方がいいものなんだと思います。

■話題作『映像研には手を出すな!』、主演作『タイトル、拒絶』

ーー伊藤さんが声の出演をしていた『映像研には手を出すな!』(NHK総合)はすごく話題になっていましたよね。実写作品で全身で演じるのに対して、声だけの演技に難しさはありましたか?

伊藤:いつもの実写のお芝居だと、私は言葉による説明的なものがあまり好きではなくて、「これ、言葉じゃなくても伝わるものが絶対にあるはずですよね」という話をしているんですが、声優はむしろ言葉でしか伝えようがなくて難しかったです。表情で訴えかけることはできないし、いろいろと奪われた感じがしました。私が“浅草氏”の表情に言葉を乗せるので、アニメとして先に正解が出ているから、そこに寄り添って感情を作っていくのが特に難しかったですね。あと、リアリティを求めることもすごく大事だけれど、大袈裟な方がうまくいったりもして、そこの塩梅が難しかったです。

ーー昨年は主演作である『タイトル、拒絶』が第32回東京国際映画祭で上映されましたね。

伊藤:私は主演というポジションで出させていただいていますが、完全に群像劇なので、みんなに見せ場があって、全員が主役なような作品でした。いろんなデリヘル嬢がいる中で、それぞれの抱えている葛藤や恋模様を観ている人にぶん殴る勢いで突きつけるというか、そういうパンチのある作品です。いろんな視点があるし、いろんな考え方がある。「みんな頑張っているんだよ」というのを、真っ直ぐ伝えてくれる作品でした。

ーー今年も引っ張りだこですね。『ステップ』の“ケロ先生”は、出番は決して多くないものの、作品の中で背負っているものがとても大きい役どころでした。改めて撮影を終えて、メッセージをお願いします。

伊藤:親子二人の成長を見届けられるのは、すごくいい時間でした。「愛とは何か?」「家族とは何か?」など、誰しもの身近に当たり前にあるようなものを、とても丁寧に描いている作品です。私はこの作品を観て、もうボロボロに泣きました。めちゃくちゃいい映画が出来上がっているなと心の底から思います。

(取材・文=折田侑駿)

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