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《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021》閉幕、マルタ映画として初ノミネートの『ルッツ』が最優秀作品賞に

ぴあ

最優秀作品賞を受賞したアレックス・カミレーリ監督『ルッツ』 ©Léo Lefèvre

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スサンネ・ビア、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン、白石和彌、中野量太、上田慎一郎、片山慎三など、現在第一線で活躍する国内外の映画監督を見出している《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021》が3日に閉幕。同日行われたオンラインでの授賞式で、各賞が発表された。

本映画祭での最高賞に当たる国際コンペティション部門の最優秀作品賞は、マルタ系アメリカ人のアレックス・カミレーリ監督が手掛けたマルタ映画『ルッツ』が選ばれた。最優秀作品賞に輝いた『ルッツ』は、あまりなじみのないマルタで製作された作品。本映画祭でマルタ映画がノミネートされたことも史上初で、開催前から話題を集めた1本だった。

主人公はマルタで代々続く伝統漁業を続ける漁師。漁業が下火になる中、自らのアイデンティティである漁師の仕事を続けるべきか、それとも家族を守るべきか?大きな選択を迫られた男の苦悩と葛藤、その決断が描かれる。

『ルッツ』©Léo Lefèvre

主演のジェスマーク・シクルーナはマルタの実際の漁師ながら、その自然な演技は高い評価を受け、今年のサンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック部門で俳優賞を受賞している。

今回、審査委員長を務めた俳優、映画監督の竹中直人は、この作品について「すばらしい作品ばかりだったんですけど、『ルッツ』がずしんと残っちゃったんです。なんといっても俳優のお芝居が見事でした。本物の漁師の方々なんですけど、みんな芝居がすばらしい。主人公の顔つきなんてたまらなかったですよ。表現せずして表現しているというか。表情を大きく変えることなく、静かに淡々とお芝居をなさっているのに、(こちらに)ずしっと響いてくるんです。

共演者の人たちもすごい。でも、みんな本物の漁師さんなんですよね。みなさんが役者にみえる。やんなっちゃうぐらいすごかった。『ルッツ』はとにかく好きな映画で、心に深く残りました。監督のクールでいて熱意を感じました。ひと言でまとめるのはとても難しいのですが、『ルッツ』は最高の映画でした」と大絶賛した。

国際コンペティション 審査委員長を務めた竹中直人

見事に最高賞を受賞したアレックス・カミレーリ監督はビデオメッセージで「この度は『ルッツ』をご評価いただき、大変光栄です。グランプリの受賞は本当に素晴らしいことで、優れた映画製作チームにも感謝の意を表します。私たちにとって、グランプリ受賞の知らせ以上の喜びはございません。マルタにいるスタッフたちも喜んでおります。

私たちは、この作品をたくさんの愛と信念をもって作りました。小さな場所の小さな物語が、遠い場所まで届くことができると信じておりました。今回の受賞によって、その信念に間違いはなかったと思いました。映像言語というものは、時間も距離も越えて私たちを結ぶ、普遍性のあるものだと思います」と語った。

続けて、「私は、今回の受賞を謙虚に受け止めたいと思います。そして私は人生と映画について、多くの偉大な日本の監督たちから学びました。ですので、私の映画人生の第一歩を、日本の皆さんと共有できたことはたいへん光栄です。数年後、次の作品を再び日本の皆さんにご覧いただけることを願っております。いつか日本を訪れたいと思っています」と明かし、コロナ禍で来日が叶わなかったことを残念に思いながらも、日本での受賞に感無量といった表情をみせた。

続いて、もうひとつの注目賞となる監督賞は、ドイツのマークス・レンツ監督の『ライバル』が手にした。

『ライバル』©Mila Teshaieva

ドイツで不法に働く母の元に、ウクライナからやってきて、さまざまな過酷な事態に見舞われる9歳の少年、ロマンの姿をまるでドキュメンタリーのように活写した本作は、レンツ監督がデビュー作以来、実に16年ぶりに完成させた作品。

ビデオで登場したレンツ監督は「この作品は完成に5、6年を費やし、皆で必死に作り上げました。今回、遠く離れた国で、監督賞を受賞しましたこと、本当に驚いています。私は今、映画の持つ感情やストーリーが地球のほぼ反対の土地でも届いたのだと、実感しております」と喜びを語り、「いま私は、火山が噴火したカナリア諸島で、まさに噴火の様子を撮影しています。今回の受賞によって、私の中には、熱いエネルギーと炎が燃えています」と今後への意欲を見せた。

監督賞を受賞した『ライバル』マークス・レンツ監督

審査員を務めた船戸慶子氏は、本作について「子どもが主人公でありながら、一切の甘えや優しさを交えず、東ヨーロッパのひとつの現実をある種生々しく切り取ってドラマとして成立させた監督の手腕が際立った作品でした」とまず語り、「一方で、男の子が最初に恋をするのは母親であるという、エディプス・シンドロームという現象についても考えました。

作品内の少年の母親はこの上なくチャーミングで。彼女のことを好きになるドイツ人の中年男に、ライバル心を燃やす少年の気持ちが痛いほど伝わってくる。ただ、彼を守ってくれる大人が誰もいなくなったとき、少年は自らを奮い立たせ自分の足で歩いていかなければならない。作品を通して、彼の存在感と物言わぬ主張に圧倒されました。そんな難しい役をこなした子役俳優、映像の美しさ、サウンド効果も含め、監督賞に値する作品だと思いました」と監督の確かな手腕を称えた。

国際コンペティション審査員 船戸慶子

一方、国内コンペティション部門は、短編部門で逢坂芳郎監督の『リトルサーカス』が、長編部門で萱野孝幸監督の『夜を越える旅』が、それぞれ優秀作品賞と観客賞をW受賞。

これは本映画祭としては史上初のことで、さらに今後の長編映画制作に可能性を感じる監督に対し贈られる「SKIPシティアワード」を酒井善三監督の短編『カウンセラー』が受賞。短編作品の同賞受賞も本映画祭史上初という初ものづくしの受賞結果となった。

上:『夜を越える旅』©夜を越える旅フィルムパートナーズ 下:『リトルサーカス』©Yoshiro Osaka

最後に今回の開催を振り返ると、映画祭が昨年に引き続きオンライン配信となったことが象徴するように、コロナ禍ということを映画祭においても、作品においても強く感じる機会となった。

ただ、入選監督や審査員からは前を向く言葉が並んだ。受賞した監督たちからは総じて、このコロナ禍でも映画祭を開催してくれたことへの感謝の意が伝えられ、各審査員からはコロナ禍に置いても映画作りをやめなかった作り手たちに最大級のエールが送られた。

その中で、国内コンペティションの審査委員長を務めた國實瑞惠氏は総評で「アニメ作品をはじめいろいろなジャンルの映画が並び楽しませていただきました。中でも、コロナ禍でありながら、海外撮影に挑んだ作品には、希望と強いエネルギーを感じました。かの今村昌平監督は語っています。『人間は汚濁にまみれているものか、ピュアなものか、胡散臭いものか、スケベなものか、優しいものか、弱弱しいものか、滑稽なものかを真剣に問い、総じて人間とは、なんとおもしろいものかと知り、そして、これを己にいったいなにかと考えてほしい』と。

わたしたちの前には、わたしとあなただけではなく、広い世界があり、うごめく人間たちが生きています。広い世界と自分を考え、意識して、映画作りをしていただきたいと思います。今回、受賞に至らなかった作品も含め、映画を志す人たちの活躍に大きな希望をもっております。このコロナ禍においての映画制作はほんとに大変だったと思います。本当にお疲れ様でした」と今回の映画祭に参加したすべての作り手の労をねぎらった。

国内コンペティション 審査委員長を務めた國實瑞惠

一方、国際コンペティション部門の審査委員長を務めた竹中直人も「どれもこれもすばらしい作品で1本1本に感情移入してしまいました。俳優さんの芝居もとてもすばらしく、ひとりひとりの俳優がその映画を愛して、その映画にしっかりと存在して、呼吸をして、どれも魅力的な映画ばかりでした。

監督の眼差しも鋭くて、それでいて優しくてきれいで、素敵な映画ばかりで、審査なんて僕に向いていないなと思いました。どれも最高の作品でした。ありがとうございました。いつかみなさんと、みなさんの作品と出合うことを楽しみにしています」と作り手たちとの再会を願う言葉で総評を締めた。

そういう意味で、コロナ禍にあっても決してくじけない、映画作家たちの熱を体感する開催だったといっていいかもしれない。

なお受賞結果は以下の通り。

<国際コンペティション>

■最優秀作品賞
『ルッツ』 監督:アレックス・カミレーリ

■監督賞
『ライバル』 監督:マークス・レンツ

■審査員特別賞
『シネマ・オブ・スリープ』 監督:ジェフリー・セント・ジュールズ
『ミトラ』 監督:カーウェ・モディーリ

■観客賞
『国境を越えてキスをして!』 監督:シレル・ぺレグ

<国内コンペティション>
■SKIPシティアワード
『カウンセラー』 監督:酒井 善三

<国内コンペティション>
■優秀作品賞[長編部門]
『夜を越える旅』 監督:萱野 孝幸

■優秀作品賞[短編部門]
『リトルサーカス』 監督:逢坂 芳郎

■観客賞[長編部門]
『夜を越える旅』 監督:萱野 孝幸

■観客賞[短編部門]
『リトルサーカス』 監督:逢坂 芳郎

取材・文:水上賢治

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021 公式サイト:
www.skipcity-dcf.jp

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