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二宮和也の芝居に心打たれる 身体の細部で放つ『浅田家!』のメッセージ

リアルサウンド

20/10/11(日) 10:00

 クローズアップされた指先が、そっと優しく写真の泥を流す。その動きは繊細でありながら、政志(二宮和也)の心の内を雄弁に物語っていた。

 二宮和也が3年ぶりに主演を務めた映画『浅田家!』が現在公開中だ。監督は『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)で日本アカデミー賞優秀監督賞・優秀脚本賞をはじめ国内の数々の映画賞を総なめにした中野量太。実在の写真家・浅田政志とその家族、そして浅田が仕事を通して出会った人々の姿が、実話を元に描かれている。

 二宮は14歳の時に『STAND BY ME』(1997年)で舞台初出演を果たした。そんな彼が役者として多くの人々から注目を集めたのは、蜷川幸雄がメガホンを取った『青の炎』(2003年)で殺人に手を染める少年・秀一を演じた頃からだろう。その後、クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(2006年)ではオーディションで役を勝ち取り、世界の有名監督に見初められた逸材であるとの評価を得た。さらに『検察側の罪人』(2018年)では第43回報知映画賞の助演男優賞、第42回日本アカデミー賞の優秀助演男優賞と立て続けに賞を受賞する。アイドルグループ・嵐の一員としてデビューした二宮は、歌やダンスでパフォーマンスを魅せるだけでなく、役者としての実力も広く知られるようになった。

 これまで役者としてあらゆる顔を見せてきた二宮。現在37歳であるが、本作では19歳から40歳までの政志を演じきった。21歳は、明るくブリーチされ、ワックスでアレンジされた短髪に腕一面の入れ墨姿。24歳では一転真っ黒に伸ばした髪に無精髭を生やした姿。その後も長い髪を一つに結んだり、髭を剃ったり伸ばしたりとその時々の心情に寄り添うような風貌で変化を見せた。だが、風貌は大きく変化しつつも、根っこの部分で人は変わらない。最終的に「政志はこういう人」だと強く訴えかけられる説得力は、二宮が脚本に対して丁寧に向き合ってきた結果だろう。

 二宮の芝居には、表情だけでなく、背中、指先、身体のパーツの端々にまで政志の心が宿っているようだった。たとえ表情の見えない海岸での後ろ姿でも、兄からプレゼントされたアルバムの文字を拾い上げる指先だけの寄りのショットでも、政志がどんな顔でどんな気持ちを抱えているのかが如実に伝わってくる。

 こうした身体の細部にまで心の宿る芝居は、“共鳴力”のなせる技だろう。政志という人間に強く共感し、共鳴し合うことで、それが観客に広がっていく。言葉以上に多くを物語る二宮の芝居によって、『浅田家!』に込められたメッセージはより強く放たれた。

 幸せで楽しいことばかりではなく、時にシビアな現実も描かれる。かといって、とんでもない結末に驚かされるわけではない。『浅田家!』はそんな作品だが、それは、“家族”が持つ不思議な力とよく似ている。笑い声が響く日もあれば、重い空気が立ち込めることもある“家族”というものとよく似たこの物語を、二宮は生き生きと演じきった。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■公開情報
『浅田家!』
全国東宝系にて公開中
出演:二宮和也、黒木華、菅田将暉、風吹ジュン、平田満、渡辺真起子、北村有起哉、野波麻帆、妻夫木聡
監督・脚本:中野量太
脚本:菅野友恵
原案:浅田政志『浅田家』『アルバムのチカラ』(赤々舎刊)
配給:東宝
(c) 2020「浅田家!」製作委員会
公式サイト:https://asadake.jp/

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