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ヴィジョニスト『Value』は“エレクトロニカの変容と進化”を示す重要作 小野島大が選ぶ新譜13枚

リアルサウンド

17/11/25(土) 10:00

 2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニック・ミュージック関連の新譜の中から目についたものを挙げていきます。

ヴィジョニスト『Value』

 サウス・ロンドン出身のプロデューサー、ヴィジョニスト(Visionist)の2年ぶり2作目が『Value』(Big Dada)。FKAツイッグスのツアーにも同行して名を挙げたこの鬼才の新作は、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやアルカ以降のエレクトロニカの変容と進化を鮮やかに示す重要作にして圧倒的な傑作です。アンビエント、インダストリアル、ダブ、ポスト・クラシカル、ノイズ・アヴァンギャルド、エレクトロニックR&Bなどが閃光のように交錯する、耽美的にして暴力的な異形の音響アートとも言うべき世界は、切り立った断崖絶壁に佇むような切迫した緊張感を伝えてきます。前作よりさらに激しく、さらに美しく、さらに劇的になった圧巻のサウンド。鼓膜が破れるような大音量で聴きたい作品です。

VISIONIST – No Idols (Official Video)
バス『Romaplasm』

 LAのビート・メイカー~シンガー・ソングライターのバス(Baths)の新作が『Romaplasm(ロマプラズム)』(Anticon/Tugboat Records)。才気が迸る素晴らしい傑作になりました。大病を患った経験を作品化した前作が“死”をテーマにしたダークでディープな作品だったのに対して、今作は陽性のエネルギーと解放感溢れるポップなアルバムとなっています。べたつかないクールな叙情性と温かみのあるエレクトロニックなサウンド、メランコリーを微かに漂わすボーカルと優美なメロディ、ポップとエクスペリメンタルを往還するシンプルだが計算されたアレンジ、練り込まれた音色など、あらゆる点で前作よりも進化したと言い切れる見事な作品です。特にポップソングとしての完成度が格段に向上しているのが素晴らしい。個人的にはかつてのトーマス・ドルビーを思い出しました。

Baths – “Out” (OFFICIAL VIDEO)
Baths – “Yeoman” (Official Lyric Video)

 スペインはバルセロナのDJサインフェルド(DJ Seinfeld)の1stアルバム『Time Spent Away From You』。ロンドンのロウハウス・レーベル<Lobster Fury>からのリリースです。荒々しい音色とタフなグルーヴ、都会的な洗練と叙情が見事に同居したディープ・ハウス・トラックは圧巻の一言。今年のダンス・ミュージックを代表する一作となるでしょう。

ディーゴ&カイディ『So We Gwarn』

 4ヒーローのディーゴと、BUGZ IN THE ATTICのメンバーとしても知られるカイディ・テイタムによるデュオ、ディーゴ&カイディ(Dego & Kaidi)の待たれていた1stアルバム『So We Gwarn』。セオ・パリッシュの主宰するレーベル<Sound Signature>からのリリースです。70年代ジャズ・ファンクを基調にヒップホップ、アフロ・ビート、ソウル、ラテン、ドラムン・ベースなどをミクスチャーしたオーガニックでパワフルなダンスミュージックで、90年代のアシッド・ジャズ全盛期を思わせる瑞々しいエネルギーに満ちた傑作です。私は配信で買いましたが、ヴァイナルで聴くと映えそうなサウンドでもあります。Apple MusicやSpotifyでは今のところ聴けないようです。

JAMES L’ESTRAUNGE ORCHESTRA『Eventual Reality』

 UKのハウス・ユニット、ソウル・レネゲイズのメンバーとしても知られるリッキー・リードの新プロジェクトJAMES L’ESTRAUNGE ORCHESTRAの1stアルバム『Eventual Reality』(BBE)。ジャガ・ジャジストやザ・シネマティック・オーケストラをもう少しポップに、ダンス・フロア寄りにしたようなエレガントでソフィスティケイトされたエレクトロニック・ジャズ~クロスオーバー~ディープ・ハウス~ダウンテンポを展開しています。生楽器とエレクトリックを巧みに融合したオーガニックで温かみのあるサウンドとソウルフルなボーカルが素晴らしい「Closer」を始め、楽曲もアレンジも演奏も良い。ぜひ生バンドによるライブを見てみたいですね。

The James L’ Estraunge Orchestra – Closer (Official Video)

The James L’Estraunge Orchestra – See You Tonight
Meute『Tumult』

 ドイツはハンブルグの12人編成バンドMeuteの1stアルバム『Tumult』(Tumult)。「テクノ・マーチング・バンド」という触れ込みですが、ローラン・ガルニエのダンス・クラシック「THE MAN WITH THE RED FACE」のカバーを含む内容は、まさしくテクノとブラス・バンドが合体したような人力ダンス・ミュージック。アンサンブルはシンプルですが、村祭り的な泥臭さとストリートの躍動感が楽しく、ライブは盛り上がりそう。来年のフジロックでどうでしょう。

THE MAN WITH THE RED FACE (Laurent Garnier Rework) – OFFICIAL VIDEO
Meute – The Man With The Red Face | Live Plus Près De Toi

 ブルガリア出身のプロデューサー、キンク(KiNK)の2ndアルバム『Playground』は、ドイツのレーベル<RUNNING BACK>から。疾走感のあるファンキーなフロアキラーから、深く沈み込むダビーなダウンテンポまで、シャープで歯切れのいいテック・ハウスを披露しています。目新しさはありませんがツボを心得た明快なダンス・トラックは快感の一言。「Yom Thorke」なんてタイトルの曲もあります。

 イタリアのニノス・ドゥ・ブラジル(Ninos Du Brasil)の新作『Vida Eterna』(LA TEMPESTA INTERNATIONAL)。インダストリアル・トライバル・ハウスとでも言うべき音楽性で、リズム・パターンとしてはサンバですが、呟くような重苦しいボーカルやチャント、重心の低いグルーヴが、ダークで頽廃的で呪術的な、特異な世界観を作っています。終曲「Vagalumes Piralampos」ではなんとアート・リンゼイがゲストボーカルで参加。

Ninos du Brasil – Condenado por un Idioma Desconhecido [OFFICIAL VIDEO]

ラビット『Les Fleurs Du Mal』

 米ヒューストン在住のプロデューサー、ラビット(Rabit)ことエリック・C・バートンの2枚目のアルバムが『Les Fleurs Du Mal』。自身のレーベル<HALCYON VEIL>からのリリースです。前作『Communion』が大評判となり、一部ではインダストリアル・グライムなんて言い方をされてますが、アルカ以降を感じさせる鮮烈なサウンド・コラージュと不規則で切っ先鋭いビート、ざらついた電子音、荒涼とした心象風景を思わせるダーク・アンビエントな質感など、前作以上の狂気が溢れるレフトフィールド・テクノの傑作です。

Rabit – Bleached World

 

 

リー・ギャンブル『MNESTIC PRESSURE』

 英バーミンガム生まれ、ロンドン在住のプロデューサー、リー・ギャンブル(Lee Gamble)の3年ぶり新作『MNESTIC PRESSURE』は、コード9主宰の<Hyperdub>と契約しての一作。もともとジャングルやレイヴ・ミュージックからスタートした人ですが、本作ではドラムンベースを変形したような変則的ブレイクビーツ、ダブ・テクノやインダストリアル、ドローン~アンビエント、IDM系エレクトロニカからノイズ・アヴァンギャルドまで拡張した幻惑的なエクスペリメンタル・テクノを展開しています。何度聞いても底が見えない深い井戸のような作品。

 

Rødhåd『ANXIOUS』

 ベルリンの地下シーンから現れた鬼才レッドハット(Rødhåd)の1stアルバムが『ANXIOUS』(DYSTOPIAN)。ジャケット写真が示す通りのダークでディープでヒプノティックで禍々しいサウンド、ストイックでモノクロームな雰囲気がたまらない現代アンダーグラウンド・テクノの最前線です。意外にリズムのバリエーションも多く、起伏に富んだ展開もあり、ダンス・フロアの道具にとどまらないリスニング向けとしても秀逸なアルバムです。Apple MusicやSpotifyでは今のところ聴けないようです。

コール・スーパー『Arpo』

 UK出身、ベルリンを拠点とする電子音楽家、コール・スーパー(Call Super)の2ndアルバムが『Arpo』(HOUNDSTOOTH)。ちょっと初期のケンイシイを思わせるような静謐で繊細なミニマル~エレクトロニカ~アンビエントで、ゆったりと浮遊するような電子音は、ノスタルジックでセンチメンタルな側面とクールで未来的な響きが背中合わせになっていて、とても魅力的です。

 

ビビオ『Phantom Brickworks』

 ポップでカラフルな傑作『A Mineral Love』を出したばかりのビビオ(Bibio)の新作が『Phantom Brickworks』(Warp / Beat Records)。前作とは打って変わって、雨垂れのような官能的なピアノや弦楽器、シンセサイザーの音が静かに鳴り続ける完全なアンビエント・アルバムですが、これが実に素晴らしい。遠い彼方から乱反射した残響音がいつまでも鳴り続けている幻惑的な空間の中で白昼夢を見ているようなサウンドは、歌詞も歌もないのにエモーショナルで思索的。ビビオの内面が深いところから滲み出てくるような作品で、どこかノスタルジックでセンチメンタルなムードを漂わせているのは、ビビオのどの作品にも共通するもの。その意味で、これは『A Mineral Love』同様に重要なアルバムと言えます。

Bibio • ‘Phantom Brickworks III’ (Edit)

 ではまた次回。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

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