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『スカーレット』における“料理”の役割とは? 細部までこだわり抜かれた生活のリアル

リアルサウンド

20/1/2(木) 12:00

 NHK連続テレビ小説において、どの物語でも重要な役割を担っているのが“食事”のシーンだ。現在放送中の『スカーレット』でも、主人公・川原喜美子(戸田恵梨香)の感情や成長を表すシーンとして機能してきた。特に喜美子の最初の勤め先である荒木荘では、美味しそうな料理が度々登場し、視聴者のお腹を空かせてきたものだ。

 そんな本作の料理指導を務めているのが、料理研究家の広里貴子だ。広里は食事をテーマとした2013年の連続テレビ小説『ごちそうさん』で料理指導を担当。以降、NHK大阪放送局制作の“朝ドラ”の料理指導をすべて担当している。

 “朝ドラ”における料理の役割から、出演者とのやり取りや、ひとつひとつの料理に込めた思いまでじっくりと話を訊いた。

●料理からにじみ出る生活のリアル

――2013年の『ごちそうさん』から作品に参加されていますが、最初のきっかけは?

広里貴子(以下、広里):きっかけは、大阪料理研究家の上野修三先生によるおかずの勉強会のお手伝いをしていたところ、そこに『ごちそうさん』制作統括の岡本幸江さん、現在『スカーレット』の制作統括を務めている内田ゆきさんも参加されていたんです。その縁から声をかけていただきました。以降、現在の『スカーレット』まで料理指導を担当させていただいています。

ーー『ごちそうさん』は料理がテーマの作品でしたが、以降の作品でもヒロインたちの生活を彩るシーンとして、料理は重要な役割を果たしてきました。作品ごとに携わる期間の違いなどはあるのでしょうか。

広里:料理の数の大小はあれど、最初から最後までどの作品も携わっています。登場人物たちの食事シーンや、台所は最後まで描かれるので。難しさの点で言えば、『ごちそうさん』は、料理の数は多くても慣れ親しんでいる郷土料理ではあったので、ハードルはそんなに高くありませんでした。難しかったのは昨年の『まんぷく』。ラーメン作りはもちろん、萬平さん(長谷川博己)が開発する栄養食品のダネイホンなど、未知の挑戦でした。

ーー今回の『スカーレット』ではどんな点に意識を?

広里:『スカーレット』では、川原家が暮らす信楽と、喜美子の最初の職場である大阪では、料理の面でもはっきりとした違いを見せることを意識しました。信楽は山奥にあることもあり、琵琶湖でとれる湖魚も料理にあまり使わないんです。だから、滋賀の山の里のものを使った郷土料理を取り入れています。ただ、裏設定として、大野さん(マギー)は信楽にずっと住んでいるから、親戚も滋賀近辺にいるはずなので、鮒寿司や鮎などを差し入れとしてもらっている、という提案をしました。

ーーなるほど。「劇中に登場する料理を作る」こと以外にも重要な役割を担っているんですね。喜美子の最初の勤め先である荒木荘では美味しそうな料理が多数登場しました。「おはぎ」など物語の中で重要な役割を担った料理は、脚本の時点でその詳細が書かれていたのでしょうか。

広里:台本には「おはぎ」としか書かれていません。なので、大きさや形のイメージなどは演出スタッフと相談しながら作っていきました。「男性の握りこぶし大ぐらいの大きさ」と言われたんですが、戦後間もない時期、しかも女中の立場でそのサイズのおはぎは作らないだろうと(笑)。そんなやり取りをしながら各料理をイメージしていきました。

――喜美子がちや子(水野美紀)に作る「お茶漬け」も本当に美味しそうでした。公式サイトのレシピ動画も人気です。

広里:まさか動画として載るとは思わなかったのでびっくりしました(笑)。でも視聴者の方からも好評なようで何よりです。喜美子が作るお茶漬けにも色んな裏設定を考えました。皆に作った夜ご飯に焼き茄子があって、その残りをお茶漬けにしてるとか、ちや子がイライラしているときは七味を入れてみるとか。でも、演出チームにプレゼンしたら「こんなにたくさんいらないです」と言われてしまいましたけど(笑)。あとは荒木荘の食事に関しては、いかに大久保さん(三林京子)が喜美子に影響を与えているかというのを大事にしました。荒木荘に来たときは喜美子は15歳ですが、大先輩である大久保さんから料理と人生を学んでいく。その過程が喜美子の作る料理を通しても伝わるようにできたらと思っていました。

――作品に登場する料理はキャラクターたちの性格なども踏まえてイメージされていると。

広里:そうですね。喜美子が信楽に帰ってきてから、百合子(福田麻由子)に「お姉ちゃんの料理は美味しい」と言われます。荒木荘より川原家の方が食材は質素ですが、それでもマツ(富田靖子)が作るものとは違う雰囲気にできればと考えました。喜美子は大久保さんからいかに工夫して美味しくするかを学んでいる。大久保さんの性格を考えたとき、喜美子にはその点は徹底的に教えているはずだと。だから、喜美子が信楽に帰ってきてから川原家の台所にも変化があるんです。荒木荘ではまな板の置き方も提案しました。

ーーまな板の置き方にはどんな意図が?

広里:喜美子は大久保さんから「ちゃっちゃっとしなはれ」とよく言われていましたが、効率よく料理をするためにも衛生面でも、まな板は早く乾いた方がいいわけです。早く乾かすためには風通りがいいところに横向きではなく縦で置いた方がいい。すると、自ずと台所の導線のようなものが出来上がります。それを踏まえて美術さんにも小道具の配置をお願いしました。荒木荘では、手早く料理することを求められていたはずだから、常備菜みたいなものも用意しているという設定で、いろんな蓋付きの器におかずを入れていました。

ーー裏側までこだわったところから生活のリアルさがにじみ出ているんですね。劇中に登場する料理は撮影中は実際に役者さんたちも食べており、「とても美味しい」と聞きます。

広里:何作品も参加してきましたが、“朝ドラ”の現場は気力・体力が必要だと改めて感じます。キャスト・スタッフの皆さん全員、体調管理が大変重要です。私たちの仕事は体内に入るものを提供するわけなので、身体に害をもたらすことは絶対にあってはいけません。それと同時に、少しでも食事の部分でホッとするものを提供することができたらと思っています。もちろん、フィクションなので「美味しくみせる」ことがまず第一ではありますが、演じる役者さんたちにも本当に美味しいと思ってもらえれば自然な演技ができると思いますし、そう思って食べていただきたい。カットがかかった瞬間に、「もう食べたくない」となるより、そのまま食べてもらえるのが一番いいですから。

●料理の視点から観る『スカーレット』

――川原家の料理はどんなところを意識されているのでしょうか。

広里:喜美子が幼少期の頃、庭にいろんな作物を植えて畑を作りました。川原家の料理はその畑で収穫したであろう食材を使うようにしています。大根は抜いたあとに菜の花ができてくるので、どっちも使ってみようとか。『スカーレット』全体のテーマでもあると思いますが、喜美子は学び工夫し、考えてさまざまなことに挑戦していきます。料理においても、あるものをいかにうまく使うか、というのを大事にしています。三姉妹が縁側でスイカを食べるシーンがありましたが、実はその後の夕食でスイカの皮を使った漬物を出しているんです。戸田さんは喜美子を演じるヒントをそういった料理からも受け取って演技に生かしてくださるんです。本当にすごいなと感じます。

――スイカの漬物があったなんてびっくりしました。お話を聞いていると、広里さんが演出に与えている影響も非常に大きなものだと感じます。

広里:うれしいことに色んな意見を汲んでもらっています。川原家では常治(北村一輝)が度々ちゃぶ台返しを行ってきましたが、あそこでこぼれた味噌汁の具をマツさんはどうするんだろう、というのもマツを演じる富田さんと相談しました。ふきんに包んで捨ててしまう? いや、マツさんなら洗って鍋に入れるだろう、きんぴらとして炒め直すだろうとか。富田さんはそういったディテールをすごく気にしてくださるので、細かいところまでお話させていただいています。

――喜美子は結婚をして、子供も産まれ、陶芸家として新たな道程を歩もうとしています。今後の『スカーレット』を料理の視点から観るとどんなポイントがあるでしょうか。

広里:今後は「陶芸家・川原喜美子」としての歩みが描かれていきます。喜美子が作る料理にも、陶芸家としての発想や色使いなどが、さり気なく散りばめられていきます。喜美子の工夫や手先の器用さを、料理からも感じ取ってもらえたらうれしいですね。また、今後の『スカーレット』では大阪万博の時代がやってきます。喫茶店のシーンをひとつとってもそれまでコーヒーだけの店から、パンケーキなどの軽食を少し取り入れます。日本の洋食の特徴が万博を機に変わります。川原家に大きな影響が出るわけではないのですが、さりげない時代の変化にも注目してもらえたらと思います。

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