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テイラー・スウィフト、『フォークロア』&『エヴァーモア』が誘う新体験への入り口 コロナ禍で誕生した2作を連ねて聴き解く

リアルサウンド

21/1/22(金) 12:00

 現在、誰も体験したことがない新型コロナ禍により、エンターテインメント界もとてつもない被害を被っているわけだが、そんな中で2枚のオリジナルアルバムを発表し、まさに音楽の底力を示したのがテイラー・スウィフトだ。彼女が昨年末に発表した『エヴァーモア』の国内盤が、本日1月22日にリリースとなった。

 『エヴァーモア』は、昨年7月にノンプロモーションで突然リリースされ、10月には累計売り上げが100万枚を突破、昨年最大のヒット作となった通算8枚目のスタジオアルバム『フォークロア』の姉妹作として作られたもので、前作同様、まったく予想もしていなかったタイミングでの発表には本当に驚かされた。

Taylor Swift – willow (Official Music Video)

 彼女によると、前作のレコーディング中からどんどん曲が生まれてくる状態になったそうで、リモート中心ながら、それまで出会ってきたのとは違ったインディ系の人々との共演によってアイデアやアレンジが膨らんでいったのだろう。充実したレコーディングプロダクションは彼女のソングライター魂を刺激し、それまでアルバムのリリースはほぼ2年に一枚程度のペースであっただけに、いかにその共演が新鮮な体験であったのかがわかる。

 テイラー・スウィフトの出自はカントリー系のシンガーソングライターであり、2010年代に入ってからはメガヒットを連発、グラミー賞など各賞の獲得や幅広い活動からアメリカを代表するポップシンガーとなっていった。と同時に、2009年の『MTVビデオ・ミュージック・アワード』スピーチ時のカニエ・ウェスト乱入事件を始め、スキャンダラスな話題も振りまいてきた。

 しかし、音楽ストリーミングサービスでのアーティストにおける権利擁護や、昨年半ばの反トランプ発言などでもわかるが、はっきりと自らの言葉でメッセージを発し、主張を訴えるーーこの困難な時代をリードしていく女性シンガーにふさわしい強さを持った人でもあるのだ。

Taylor Swift – exile (folklore: the long pond studio sessions | Disney+) ft. Bon Iver

 そんな彼女が、今回の一連の作品でパートナーとしたのが米インディ界を代表するバンドの一組、The Nationalのアーロン・デスナーやBon Iverことジャスティン・ヴァーノンらで、彼らと共に作られたのが『フォークロア』であった。そのアルバムタイトルが示すように“伝承”の精神を汲みつつ、困難な時代と向き合うことで、アメリカンミュージックの過去と現在を冷静に浮かび上がらせることに成功した、奇跡のようなアルバムだ。

 これが自身の代表作となるほどのものと制作中に確信したのだろう、その手応えが、次の楽曲を引き出していく。そんな光景が『エヴァーモア』を聴いていると浮かんでくるのだ。

 『フォークロア』と『エヴァーモア』は姉妹作と言われるように、アーロン・デスナーを始めとしたインディ系の制作陣のラインナップは変わらず、むしろ今作の方がソングライティング面でのコラボレート具合など、より濃密なものを感じる。『フォークロア』では半分程度だったアーロンのプロデュースが、『エヴァーモア』では彼が明確にメインとなり、参加アーティストも前作に続きBon IverやThe Nationalのメンバー、Mumford & Sonsのマーカス・マムフォード、そしてHaimのようなフィーチャリングゲストやニューヨークの六重奏アンサンブルを奏でるyMusicのメンバーなど、何やら現USインディのエッセンスがまとめられたような趣もある。

Taylor Swift – coney island (Official Lyric Video) ft. The National

 そうしたすべての要素が、テイラー・スウィフトという伝統的なシーンから登場し、王道的にアメリカンポピュラーミュージックの世界を突き進んできた彼女に新鮮な光景をもたらしたのだ。

 それは深遠な森の中を探査するようなものであったはずで、入って進んでみると、新たな道や風景が現れ、出口かと思えば新たな入り口へと誘導するものでもあった。だからこそ、『エヴァーモア』は後ろ姿のジャケットだったのだろう。

 この優れた姉妹アルバム、しっかりと前を見据えたような姉『フォークロア』、そして、少し奔放であちこちに視線を拡げたり触ったりと興味を拡げていく妹『エヴァーモア』、どちらが優れているというわけではなく、そんな2作をパンデミックという異常な状況を逆手にとって生み出した経験は、テイラー・スウィフトをさらに大きなステージに運んでいくことだけは間違いない。

■大鷹俊一(オオタカ トシカズ)
ビートルズに衝撃を受けて以来、英ロック全般、パンク/ニュー・ウェイヴ以降
の米英ロックを中心に各種媒体に書き続けている。主な著作は『レコード・コレ
クター紳士録』(ミュージック・マガジン社)、『ブリティッシュ・ロックの名盤
100』(リットー・ミュージック)など。また監修本多数。

 

■配信情報
『evermore (deluxe version)』
配信中
配信はこちら

『Folklore』
配信中
配信はこちら

テイラー・スウィフト 日本公式サイト

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