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いきものがかり水野良樹の うた/ことばラボ

ニューアルバム『WE DO』について 後編

隔週連載

第19回

いきものがかり『WE DO』の歌詞を通して、水野の現在を探る最終回。さまざまなフィールドの名人、巨匠に共通する感覚を、彼もまた手に入れようと試行錯誤を続けているようだ。

── 「WE DO」と「アイデンティティ」は♪ラララ♪のパートが効いてますね。

水野 ちょっと♪ラララ♪好きになってるんですよねえ(笑)。

── (笑)、ご本人としては、「♪ラララ♪好き」という感覚なんですか。

水野 とくにあのころはそうだったかもしれないですけど、♪ラララ♪を入れたのは要素を作りたくなっちゃったのかなあ……? 今思うと、「WE DO」と「アイデンティティ」は肩に力が入ってる感じというか、「とにかく全力で投げます!」という感じはありますよね。だから、♪ラララ♪のブロックを付けてるのも、“1曲でも多く投げるぞ!”みたいな(笑)感じだと思うんですよ。

── でもそれは、♪ラララ♪と歌うことの有効性を感じているから付けるんですよね?

水野 歌自体が広くなるというか、大きくなる感じがするんです。「WE DO」については、最初“コンパクトな歌にしよう”と思ってたんです。それで3分くらいの曲ができあがったんですけど、そうすると“短いから、要素を増やせるな”という欲が出てきて(笑)、それで♪ラララ♪も付けて、ジェットコースターみたいに、どんどんいろんな要素が出てくるという曲で、最終的には4分くらいの尺になったんですけど、そういうふうに足し引きを考えた結果というところもあると思います。

── 「アイデンティティ」も、水野さんとしては力が入ってる感じがしますか。

水野 入ってると思いますね。あの曲は、CMのお話をいただいて、吉岡の声でテレビをご覧の皆さんが思わず注目するようなインパクトが欲しいというリクエストだったんですね。だから、どう声を響かせようか?ということを考えながら作っていったんですけど、それがなかなか難しくて……。とりあえず最後に広がる感じは欲しいなと思って♪ラララ♪につながっていったんですけど。

── あの曲の歌詞を書くにあたっては、吉岡さんが“自分の歌だな”と感じるような歌詞を書こうと思っていたそうですが、それは彼女の声をより響かせるためには彼女自身の納得度がより高い内容がいいなと考えたんでしょうか。

水野 納得度と言うと、それも理屈になっちゃうかなと思っていて、“確かにそうよ。私はこういうことを思ってる”とか“共感できるわ!”とか、そういう感覚もすごく大事だと思うんです。ただ、例えば今こうしてお話しさせていただいているときは、ひとことひとこと、頭で考えて納得してしゃべってるというよりはポッと言葉がこぼれてるような感じでお話ししてますよね。だから自然な会話ができてると思うんですけど、その“ポッと言葉がこぼれてるような感じ”というのが重要だなと思ってて……。今やもうスーパースターになられてますけど、講談の神田松之丞さんがすごくかっこいいなあと思ってて、テレビに出てたら観るし、DVDを買って観たりしてるんですけど、神田さんを観てても感じるのは、講談や落語は同じ話でも演者さんによって僕にはわからないレベルで上手い/下手がたぶんあって、名人と呼ばれる人は決まった内容を話してるようには聞こえないというか、そのお話の主人公が本当に今考えてボッとこぼした言葉のように聞こえるんですよね。

── 確かに、そうですね。

水野 それは技術があるからそうなるんだと思うんですけど、その「今考えてボッとこぼした言葉のように聞こえる」というのが大事だなと思うんです。この間、『ルパン三世』の新しい映画のエンディングテーマを大野(雄二)先生が書かれて、それに詞を書くという仕事をやらせていただいたご縁で、大野先生とお話しさせていただく機会があったんですけど、ジャズのアレンジで何が大事かというと、譜面に書いたフレーズでも、それを演奏する人が思わず弾いちゃったようなフレーズが一番いいんだ、と。そういうふうな感じが、何十年もやってるとつかめてくるんだということをおっしゃっていました。“すげえな”と思ったんですけど、それはポップスにも通じる話だと思うんです。その新鮮感というか、その感じをなんとか作れないかなって思ってるんですよ。

── いきなり、すごく高いレベルにいってますね。

水野 いやいや(笑)。ただ、そういう考え方もあるんだと思って……。だから吉岡に歌ってもらうときも、吉岡にも“自分”があるから、“自分”と歌との距離をいつもすごく考えてると思うんですけど、何かふと声に出して歌ったときに自然な感じになるものにしたいなという気持ちは強かったと思いますね。

── 自分は吉岡さんの声を無意識のうちに内面化して、それを前提に曲を作っていたということを、この2年の間に痛感したという話を、この連載でも何度かされていますよね。

水野 そうですね。

── だから、今回また吉岡さんが歌う前提で曲を作って、それを実際に吉岡さんが歌ってるレコーディングの現場ですごくピントが合った気がしたということですが、その経験をした上でまたさっきの『ルパン三世』の曲のように、吉岡さん以外の人が歌う曲の歌詞を書くとどんな感じがしましたか。

水野 それは……、すごく表現が難しいんですけど、“やっぱり自分の曲なんだな”という感じになってきたんですよね。もちろん、歌ってくれるアーティストの方に喜んでもらいたいし、そのファンの方にも喜んでもらいたいと思って一生懸命がんばってるんですけど、どこまでいっても自分からは逃れられないから、結局自分の考えを提示して、それを選んでいただくということになるんですよね。みなさんの言葉を代弁するとか、他のアーティストの方が表現したいことを作ってあげますというのはおこがましい話で、僕が出せるカードを提示して、それを選んでもらうわけだから、結局それは自分の作品なんだということを、今はすごく思ってますね。このアルバムを作っている最中にも、他のアーティストの方の曲を書かせていただいてたんですけど、そのことをすごく思ったんですよ。そのアーティストの方からテーマをいただいて、それを踏まえて書いてはいるんですけど、そのテーマに対する自分の考え方がやっぱり出てくるし、僕のクセみたいなものも出てくるから。それはいきものがかりでも同じで、ただいきものがかりというのは不思議なグループだなとも思うんです(笑)。

── その「不思議」というのは、自分のものでもあり、みんなのものでもある、みたいなことですか。

水野 いや、自分のものではもうないですね。それは、まったく自分のものではないなと思います。

── とすると、「不思議」と感じるのは、自分の足場がどこにあるんだろう?みたいなことですか。

水野 このグループは誰がやってるんだろう?みたいな感じですかね(笑)。吉岡が歌ってるし、僕も山下も当事者として曲を一生懸命作ってるんですけど、でもその3人に一番スポットライトが当たるかというと、そうでもない感じがするんです。いきものがかりの歌というものを、僕らもみんなと一緒に眺めながら作っている。そういう感じでしょうか。いきものがかりの歌が、焚き火みたいにみんなの真ん中にあって、そこに薪をくべたり、時にはちょっと水をかけたり、ということを3人でやってる、と。そういう感じが最近はしてますね。その焚き火に、誰かが集まってきたり、「それだったら、ここに油をさしたほうがいいよ」という人が現れたり、っていう。防災責任者は間違いなく僕ら3人なんですけどね(笑)。でも、火そのものではないなという気がしています。

取材・文=兼田達矢 写真=映美 ヘアメイク=米倉小有吏 スタイリング=満園正明

アルバム情報

いきものがかり
『WE DO』

12.25 release/初回生産限定盤(2CD)¥4,200+tax 通常盤(CD)¥3,000+tax/EPICレコードジャパン

当連載は隔週月曜更新。次回は2020年1月13日アップ予定。新たな対話がはじまります。

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)

1982年生まれ。神奈川県出身。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。
2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。
作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。
グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。
またテレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。
2019年に実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ。

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