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『やまとなでしこ』が令和の時代に復活! 大人になって気づく、“合コンの女王”桜子に宿る夢と希望

リアルサウンド

20/7/7(火) 6:00

 20年前の名作『やまとなでしこ』(フジテレビ系)が令和の世に帰ってきた。平均視聴率26.4%、最高視聴率は34.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を叩き出し、2000年以降のフジテレビ系の恋愛ドラマ歴代トップ。2000年以降の同局系ドラマとしても歴代2位に君臨する、正真正銘のラブコメの最高傑作である。

参考:『やまとなでしこ』の松嶋菜々子はなぜ魅力的だったのか 恋愛ドラマ壊滅時代に再放送される意義

 筆者も含めて現在アラサー女性は放送当時10歳前後。本作が、恋愛や東京の何たるかを見せつけてくれたと言っても過言ではない。また同世代では、この作品を観て主人公の職業である客室乗務員に憧れを抱いた女性陣も少なくないだろう。

 さて、本作を観て育った女子たちが、主人公・神野桜子の年齢27歳に到達した今(桜子を演じた松嶋菜々子自身も当時28歳だった)、我々の目にこの作品はどんな風に映るのか。因みに、桜子は27歳という年齢を「女が最高値で売れるのは27歳。それを超えたら値崩れを起こす」と言い放っていた。

 主人公・桜子は玉の輿を虎視淡々と狙うCA、またの名を「合コンの女王」。毎夜、後輩を引き連れて合コンに参加しては、さらなる高み、つまり高スペック男性との出会いを目指して駆け引きを繰り広げるさまは、戦である。実際はボロアパートに住みながらも、自身の持つ美貌と抜群のスタイルをさらに引き立ててくれる最新のファッション、ヘアメイクなどに投じるお金(彼女にとっては必要経費だろう)に糸目を付けず、完璧に着飾って臨む合コンは彼女のステージで、正に「女は女優」を地で行っている。その意気込みたるや生半可なものではない。だから、彼女たちが合コンに向かう姿は美しいのはもちろんだが、圧倒的であり勇ましくもある。そこでの桜子の立ち振る舞いも計算し尽くされており、彼女の策士ぶりには目を見張るものがある。

 ただ、「婚活女性」という観点から見ると桜子は実はしたたかでもないようにも思える。こと、自分がずっと追い求めていたサラブレットの証「馬主のピン」を付けた中原欧介(堤真一)に向き合ったからというのもあるかもしれないが、こんなにも女性主導で自分の思いや願望をはっきりと主張できるのはお見事だ。

 「婚約者と別れたところなんです。あなたと巡り会えたから」なんてセリフも迷いなく伝える。そして、相手のテリトリーにもドカドカと踏み入れ、欧介のお屋敷だと思っていた豪邸にも臆することなく立ち入っていく。彼が「お金より心が大事」と伝えたときも、「お金よりも心が大事? わたし、貧乏なんて大っ嫌い!」とうっかり本音を吐露していた。

 桜子の全くブレずに自分の気持ちに常に正直なところが、結局憎めず羨ましく映るのだ。「選ばれるのを待っている」ばかりでなく、自分から欲しいものに手を伸ばしていく。媚びへつらうのではなく、自身にふさわしいと思える相手を「自ら選び取りに行っている」ところに、我々は夢と希望を見たのではないだろうか。自分のいる世界は自分で変えられるのかもしれない、と。シンデレラだっておめかししてお城の舞踏会に参加したからこそ王子様と出会えて、見出されたのだ。

 それはきっと欧介にとっても同じだったのだろう。数学を極めるために、MITに奨学金留学していた最中、父親が病に倒れ夢半ばで帰国を決めた。そのまま実家の傾きかけの魚屋を継いでいるものの、桜子とのデート中にまで数学の証明の話を持ち出してしまうほどに、実際には数学への諦めきれぬ情熱をずっと絶やさず秘めている。恋愛についても同様だ。7年前の留学時に付き合っていた彼女に振られて以来、失恋の痛手を引きずり恋に臆病になっている。そんなうだつの上がらない彼にとって、欲しいものに脇目もくれず一直線の桜子は、とびっきりに眩しく予定調和を狂わせる存在だった。桜子が気を許した相手にだけ魅せるコロコロ変わる表情も本当に見飽きない。東十条司(東幹久)やその他大勢の男性の前で見せる表情は顔面に笑顔が張り付いていて、彼女の本当の魅力を滲ませはしない。

 そして、実は彼女も彼女で、欧介は自分がいつしか失くしてしまったものを損わずに持ち続けていられる人だとどこかで気づいている。自分を極貧生活に追いやった父親の漁師という職業と近しいところにいる存在なだけでなく、自分は毛嫌うことしかできず、ある意味屈してしまった「貧しさ」に対して、彼はその中にあっても「本当に豊かで大切なもの」を決して見失ってはいない。

 したたかな女性というのは普通同性の前でも自身を取り繕ったりするものだが、彼女は目的意識が明確で、ある意味竹を割ったような性格。そんな桜子の中でも欧介に対する想いに変化が見られ始めると、「揺らぎ」が生じ始める。一人のどこにでもいる女性としての顔を覗かせ、後輩たちもそして何より彼女自身がその変化に驚き戸惑う。迷いを振り切るように強がって見せる彼女がいじらしく感じられる。実は彼女も欧介同様、本当に大切なものに対しては臆病で人一倍不器用なのかもしれない。

 桜子が自身の中に芽生えた欧介への好意を受け入れることは、ある面自分がこれまで拠り所としてきたものを真っ向から否定することにも繋がりかねない。長年信じてきたものを手放すということは、年齢を重ねれば重ねるほど難しくなるものだが、さて次週全く相容れないかに見える2人がどんな結末を魅せてくれるのか。その歩み寄りの瞬間を、アラサーになった今だからこそ見逃さないようにしたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。

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