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大島幸久 このお芝居がよかった! myマンスリー・ベスト

8月の1位は、現在の日中・日韓関係を彷彿とさせる劇団チョコレートケーキ『無畏』、初の別役作品で強烈な印象を残した尾上松也に“主演男優技能賞”!

毎月連載

第21回

20/8/31(月)

劇団チョコレートケーキ『無畏』チラシ

8月に観たお芝居myベスト5

① 劇団チョコレートケーキ『無畏』 駅前劇場 (8/9)
② オフィス3〇〇『消えなさいローラ』 本多劇場 (8/23)
③『八月花形歌舞伎』 歌舞伎座 (8/3)
④『イヌビト ~犬人~ 』 新国立劇場 中劇場 (8/8)
⑤ 新宿梁山泊 音楽劇『風まかせ 人まかせ』〜続・百年 風の仲間たち〜 ザ・スズナリ (8/12)

*日付は観劇日。8/1〜31 までに観た13公演から選出。

劇団チョコレートケーキ『無畏』より、陸軍大将・松井石根を演じる林竜三 撮影:池村隆司

無畏(むい)』は古川健の怒りを込めた脚本、日澤雄介の人間関係が明確な演出によって骨太な舞台になった。南京大虐殺という日本にとって「負」の事件に切り込み、その首謀者の陸軍大将・松井石根に光を当てた。参謀や司令官は松井の命令を無視、つまり天皇の意思さえ拒むのだ。南京事件は日本が敗北への道を進むことになる。真の戦争責任を問いかけるが、現在の日中関係、日韓関係を重ねて見るのを避けられない。出ずっぱりで松井を演じた林竜三、弁護士の西尾友樹、教誨師の岡本篤が役柄の性根を的確に描いていたのが良く分かった。


オフィス3〇〇『消えなさいローラ』より、渡辺えり(写真上)、渡辺えり 尾上松也(写真下)共に撮影:横田敦史

消えなさいローラ』は渡辺えり、尾上松也の二人芝居だ。家を出た弟トム、その帰りを家で待つ姉ローラ。『ガラスの動物園』の後日譚と言えるが、作者・別役実の手にかかると推理劇や復讐劇、また喜劇へと様相が絡まってくる。渡辺えりはローラと母親、尾上松也はトムと葬儀社の男のともに二役を演じ分けた。演出も兼ねた渡辺はもはや死んでいるのか、幻想なのかと錯覚させる母親の境界線を行くような芝居。別役作品は彼女に合っている。尾上松也は「この人に注目!」で書く。

『八月花形歌舞伎』特別ポスター

八月花形歌舞伎』は公演再開の歌舞伎座第一弾。待ちに待った歌舞伎ファンは拍手だけで応援、舞台上の役者はソーシャルディスタンスを保ったままの演技。初の四部制という試み。とにもかくにも歌舞伎が帰ってきたのはめでたい。

第一部が愛之助と壱太郎の舞踊『連獅子』、二部が勘九郎、巳之助、扇雀で『棒しばり』、三部は猿之助、七之助らでの『吉野山』と舞踊3連発。四部の『与話情浮名横櫛』で芝居になった。圧巻だったのが『吉野山』の猿之助の忠信実は源九郎狐。最後の引っ込みになる。ここで衣装のぶっ返りから高く跳ねるジャンプ4回。花道では海老反りまでやった澤瀉屋型。『半沢直樹』でのような顔のアップはないが、全身で猛烈な存在感を見せつけた。

『イヌビト~犬人~』より、右から松たか子、長塚圭史 撮影:細野晋司

イヌビト~犬人~』はコロナ禍でこそ生まれた長塚圭史の作・演出。かつては狂犬病が大発生した町で今度はイヌビト病の感染が広まる。観客はマスク、俳優もマスク着用の密を避けた演技。ダンスの振りになる演技が目立つ中、案内役など二役の松たか子が吠えたイヌの声の変化が今も耳に残る。

新宿梁山泊 音楽劇『風まかせ 人まかせ』〜続・百年 風の仲間たち〜 チラシ

風まかせ人まかせ』は趙博の作を主演・演出の金守珍が豪腕で猛者たち出演者を操った。仲間と集う喜びが満ちていた。中山ラビの歌う姿はオーラで光った。

★この人に注目!★

『消えなさいローラ』にて、渡辺えりと共に二役を演じ分けた尾上松也

『消えなさいローラ』を観た日、ハプニングに遭遇した。大きなテーブルを前にローラか母親か、渡辺えりに迫る尾上松也。ユニバーサル葬儀社の男である。と、渡辺「あなたはユニバーサル探偵社の人でしょ」。その一瞬、私はギョッと驚きながらも、探偵社と錯覚してしまった。沈黙し、渡辺の顔を見つめて続く台詞を待っている松也。ミスに気がついた渡辺。その瞬間、「そうです。私はユニバーサル探偵社の者です。」と切り返したのである。何という即興。さすがは歌舞伎で鍛えられている。その場面からは“喜劇”の空気に。この日は千秋楽のマチネー、オンライン生配信の回だった。カーテンコールで「やっちゃいました」と渡辺。「それが生の舞台です」と松也。彼にとって初の別役作品は観客に強烈な印象を与えた。“主演男優技能賞”としよう。

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

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