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PFF入選、野村奈央監督の劇場デビュー作『からっぽ』Xmasレイトショー

CINRA.NET

18/11/30(金) 19:00

映画『からっぽ』が12月22日から東京・ポレポレ東中野で公開される。

野村奈央監督の劇場デビュー作となる同作は、23歳のフリーター・渡良瀬まち、モデルになったことをきっかけにまちと暮らすことになる19歳の画家・岡崎由人、まちの前に現れる27歳の芸術専門のライター・糸川洋の3人の人間模様を描いたクリスマスムービー。武蔵野美術大学の卒業作品として制作され、『第40回ぴあフィルムフェスティバル』コンペティション部門「PFFアワード」エンタテインメント賞などを受賞した。

出演者は打越梨子、カワチカツアキ、須田暁、木村知貴。期間中は野村監督、キャストの舞台挨拶やトークイベントの開催を予定している。詳細は『からっぽ』の公式Twitterを確認しよう。

野村奈央監督のコメント

いったい私は死ぬまでに、何人になるのよー!
さむいね、と言い合える相手もいない冬の訪れに、ひとり叫んでみる。
私は、私を眼に映した人の数だけ存在します。今、これを読んでくれている無数のあなたの中に、今も私は増え続けています。だいぶ自意識過剰です、すみません。
私らしさ、なんて言葉は呪いだと思う。
ほんとうの私、なんて私の中をどんなに探しても見つかるはずがないのに、思春期頃からじわじわ呪いをかけられて、ましてや、私は人間である前にどうしようもなく女なので、男の人の眼によって、呪いの強度はぐんぐん増していったのです。怨念。
そして厄介なことに、呪いは魔法とも呼べます。
当時の恋人に、「お前らしくてかわいい」というようなことを言われた時に、すごく怖くて、あ、この人の好きな私、これか、よしよし、と、超少なく見積もって、私が仮に24面あるとしたら、ただれた23面はないことにして、私らしい、らしい一面を最前線におきました。
勿論、めちゃくちゃ好きだったからです。
呪いは魔法なので、たとえ一面としか呼べない私だったにせよ、確かに彼の中に描かれた私は、多くに愛される形をしていたし、そのように振舞っていれば生きやすくて、もう私、この一面だけに、なろうと。からっぽさに気がついてなお、一面でしかないものを引きのばして、からっぽの器に貼り付けました。側からみたらたいそう立派な、はりぼてです。
でも、一生そんな風にやり過ごせるわけもない。だって私は24面ぜんぶ、無数の描かれた私すべて、あまさず私なのでありました。
危ないことがひとつあって、はりぼてをはりぼてだと思わなくなったら、はりぼてが重さを持ちはじめるのです。くだらない嘘が、からっぽの私に詰まっていく。
お前らしいとか、芯のある人間とか、ブレナイ私とか、そういうのに騙されないでほしい。呪われないでほしい。お前らしくない私も、そう振舞っている私なのだから、私に変わりはないはずです。もっといえば、私は、私たちはみんなからっぽなんだと思います。からっぽである、ということは唯一、正直でいるための土台です。
からっぽな私、がその都度正直であることだけが、唯一、私らしさ、と呼べるものだと思います。それ以外の私らしさなんてものは、くだらないです。主義主張と同じように、本当にくだらねえもんです。
春になったら、たぶんまた新しい出会いがたくさんあって、どんどん私は増えていきます。冬は正直な季節です。そんな季節にいったん呪いが解けたらなあと思います。同時に魔法も解けてしまうけど、からっぽの器を魔法でいっぱいにした私では、重たくって雪山は下れません。くたばります。
ちなみに呪いは、愛する他者と私とでかけるものなので、私自身で必ず解くことができます。絶対。
からっぽ観た人が、軽くなれますように。私のささやかなクリスマスプレゼントが、からっぽ、です。

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