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WANIMA、余分なもの全てそぎ落として手にした“逞しさ” 約10カ月ぶり有観客ライブ『Boil Down 2020』を振り返る

リアルサウンド

20/12/22(火) 19:00

 この日のライブ中盤、8曲目は鉄板曲のひとつ「Japanese Pride」だった。目の前が〈スカスカのフロア〉であっても〈このままじゃ終われない〉と誓った時代の歌で、再びライブハウスから奇跡を起こそうと、当時のKENTAは〈今は立派な君のパパも 一度は聴いてたんだHi-STANDARD〉と大先輩の名前を出している。

 そのバンド名は、この日のライブで〈WA・NI・MA!〉に変わっていた。突発的なアドリブではない。繰り返される2番も歌うは自分たちの名前であった。なるほど、止めたのだなと思う。ただやんちゃな若造でいること、誰かの背中を追いかける次世代ホープであることを。まずは、WANIMAの名前と楽曲は全国に知られた自負がある。そして、その音楽をまだまだ必要としてくれる人がいるのなら、今日も明日も明後日も死ぬ気で引っ張り続けていく。KENTA(Vo/Ba)の表情からは、はっきりと、そんな覚悟が見て取れた。

 コロナ禍により30公演中アリーナ16公演がストップ、2月29日のサンドーム福井での公演を中止して以来、およそ10カ月ぶりとなる有観客ライブだ。なお、この『Boil Down 2020』は一年を締めくくるスペシャルな忘年会になるよう立ち上げた新企画で、観客と共に新しいライブの楽しみ方を見つけながら、来年以降も毎年12月に開催していく予定だそうだ。

 8000人を収容できる東京ガーデンシアターでは、現状を鑑みたガイドラインに沿って前後左右の席が空けられ、ジャンプと拍手はOKだが声出しや席移動はNGだとする規制のアナウンスが響いていた。それでも暗転の瞬間は「おおぉ」と驚くような声が上がる。わかる。理性で止められないのだ。あの瞬間の興奮と、その数秒後に爆発する喜びが、画面越しにもリアルに伝わってくる。そう、『Boil Down 2020』はチケットを入手できないファンのためにリアルタイムで配信が行われていた。実際の客席と同じくらいチャットの世界も興奮の坩堝である。

 新たなSEとして初公開された新曲は「Boil down」。本日初公開されたライブのための新曲だ。ツアーやイベント用に新曲SEを用意するのはWANIMAにとって恒例で、たとえばメジャー1stフルアルバム『Everybody!!』の1曲目「JUICE UP!!のテーマ」も同じ位置づけにあった曲だ。ただ、それがハチャメチャな勢いの祭囃子だったのに比べ、今回の「Boil down」は地に足のついた戦いのテーマといった趣。一語一句がすっきりと聴こえ、サビではリズムが4ビートに切り替わる、壮大な広がりを持つロックナンバーだ。その幕開けが今のWANIMAらしい。

 SEに続いて始まったのが別れの歌「エル」であるのが象徴的だった。言葉巧みに笑わせ、満面の笑顔で楽しませ、どんな手を使ってでもアゲていく。いわゆる三枚目の手法が一切ない。目を閉じて歌に集中するKENTAは間違いなく二枚目のシンガーに見えた。かっこいい、という以上に、責任ある大人の顔なのだ。坊主に近い短髪になったKO-SHIN(Gt/Cho)も、後ろでどっしり構えるFUJI(Dr/Cho)も然り。3人はかねてから肉体を鍛えていたが、その努力が確実に実り始めている。演奏のタフさ、密度、隙のなさに驚かされた。少しチャラそうで、元気いっぱいで、でも憎めない熱いハートを持つ3人組一一まるで「少年ジャンプ」の主人公みたいなキャラ設定すら不要だと、3人は肉体と音だけで勝負をしているのだった。

 むろん、それってWANIMAっぽくないという声もあるだろう。KENTAの笑顔に象徴される無敵の明るさ、ボケとツッコミの成立する3人のMCなど、親しみやすいキャラありきでWANIMAに惹かれた人は多いと思う。チャラさの奥に強烈な痛みや悲しみが見えている。そんなギャップがデビュー当時の3人を魅力的に見せていたのも事実である。一瞬にしてパンクシーンからポップフィールドへと飛躍していけたのも、超ポップで実はシリアスな二つの顔があったから。どちらかだけで破格のスターは務まらない。

 ただし、勢いのある新人の季節はすでに終わったようだ。肉体と音を鍛え抜くことで終わらせた。ポップ&シリアスなままでもWANIMAは十分続いたはずだが、それよりは、ぐっと詰めていく時期だとの判断があったようだ。恒例のリクエストタイムでは消毒液と飛沫防止シールドを持って客席に降りていったり、実際のリクエスト曲「1CHANCE」も最初は全然思い出せなかったりと、愛嬌のあるシーンはたくさんあった。それでも無駄な遊びが何もなかった。トークにも演奏にも表情にも。しいて言うならイントロや曲間でKENTAが何度も〈Boil Down~Boil Down~〉とイベント名を歌にしていたくらいだろうか。Boil Downとはすなわち、煮詰めていく、の意味だ。

 必要なものだけでいい。その絞り込みがビシッと音に反映されていた。固定の笑顔を貼り付けていない3人の表情は、目の前にいてくれる全員を引っ張っていく気概に満ちている。パンク出身だからミスも味だとか、そういう言い訳を許さないタイトなアンサンブル。ぴたりと揃う鉄壁のハーモニー。とにかく逞しいし、ひたすら頼もしい。日々対面のライブツアーを繰り返していてはこのタフネスは手に入らなかった。良かったとは決して思わないが、コロナ禍がWANIMAをさらに変え、さらに強くしているのは事実なのだろう。

 アンコールは最新作『Cheddar Flavor』から「春を待って」。北日本が雪に埋まった寒波の日だったので、この一曲はことさら染みた。春は明るさや暖かさの象徴で、もっといえば会いたい人にすぐ会えるコロナ収束後の世界を指している。いつかの来年、必ず来る未来に向けて、確実に一語一句を届けようとするKENTAの表情がたまらなかった。

 最後に発表されたのは、『Cheddar Flavor』のツアーが来年4月から始まるというニュースだ。まだ出口の見えない日々、状況がどうなるかは五里霧中だが、こんなに強くなったWANIMAに会えるならいくらでも春を待てる気がした。今までのイメージを突き破る、どこにも隙のないロックバンドとしてのWANIMA。驚くほど新しかった。あとは生で確かめられる日を待とう。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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