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いきものがかり水野良樹の うた/ことばラボ

w/塩塚モエカ(羊文学) 中篇

隔週連載

第36回

書き手としてのお互いの個性が見えてきたところで話題になるのは“ポップ”ということ。そこにどれだけ近づいていくのか、あるいはどれだけ距離を保つのか。グループとしての個性も関わって、それぞれに思いが巡る。中編は、そのテーマから。

塩塚 お話を聞いていて、水野さんは人のことをすごく考えて音楽を作っていらっしゃるなということを感じたんですけど、私は、愛されるとか、自分を主語にして考えちゃうなというところがあって。だから、私がポップな曲を書くのは、愛されたいという気持ちが強いときが多いような気がします。

水野 その“愛されたい”という気持ちに、たぶん僕も近いと思いますよ。

塩塚 そうなんですか?

水野 僕は、本質的には自分は愛されない、と思ってるんですよ(笑)。だから、曲を作ってるんです。曲だったら、自分を愛してくれない人も愛してくれるだろう、みたいな気持ちで。曲を愛されることによって、代わりに愛してもらってるという感覚に近いんじゃないかなと思うんです。だから、僕らの音楽はよく万人受けと言われるんですけど、それを目指すものに惹かれてしまうんですよね。たぶん、愛されたい願望が強いんだと思います。

塩塚 私の場合は、愛されるに違いないと思ってるかもしれないです(笑)。

水野 (笑)。それは、すごい!

塩塚 特に親にすごく愛されて育ってきたとか、そういうことでもないんですけど、きっと愛されるに違いないと思っていて、でも自信があるというのとは違うんですよね。「私がやってるよ! 聴いてよ!」みたいな(笑)。そういう感じで作ってます。それから、ポップなものを入り口みたいに捉えているところもあります。もともとアンダーグラウンドなものが好きで、そういう曲もつくるのですが、あえてポップなものと並べておくことで間口を広くして、深いところまで引き込みたいというのはありますね。

── 愛されたいという気持ちが強いときにポップな曲を作る傾向があるとして、そういう気持ちのときに書く歌詞に傾向や特徴みたいなものは何か思い当たりますか。

塩塚 歌詞の傾向というか、曲がポップだと逆にひねくれた歌詞を書いちゃったりします。気持ちを全部ストレートに書くのはまだ照れがあるのかもしれないです。今回のアルバムに「powers」という曲があるんですけど、その曲は自分のなかでは歌詞の内容もポップな方向にいっちゃったなという感覚があって、これまでは「前を向かなきゃ」みたいなことは言ってこなかったんですけど、それを言ってしまったなっていう。作ってるときにすごく悩んだんですけど、最終的には自分がそう思ってるんだったら書いていいんじゃないと思って……。

── 曲がポップだとひねくれた歌詞にしてしまうというところで、水野さんは大きく頷いてましたね。

水野 メロディと歌詞の緊張関係というか、どう引き合うかというのは感覚としてわかるし、話の後半の「前を向くみたいなことはあまり書きたくなかったけど書いてしまった」という、その言い方にすごく共感してしまったというか。僕らの場合は、前を向くというようなことをむしろよく書くんです。でも、それを伝えることというのはほぼ暴力だなと思う瞬間があるんですよね。前向きな言葉であったり、何かを信じていられる言葉というのは、半分は暴力であるような気がするから、それを投げるときにはその暴力性を軽減できる言葉も入れておきたい、ということも思うんです。ただ、いきものがかりというグループが求められているイメージというのも考えるから、その意味ではきれいごとをちゃんと言わないといけないという気持ちもあって、自分のなかでそのバランスを計るんですよ。それに近い感覚なんだろうなと思ったんです。曲がポップだったら歌詞はちょっとダークなほうに寄せるとか、その逆もあるだろうし。

塩塚 自分たちに求められているバンド像みたいなものは私たちも考えるんですけど、求められているものはいきものがかりさんとは逆だと思うんです。ポップなことはあまり歌わないとか……。最初のころは、今よりもっと暗かったので(笑)、明るいことをやると「羊文学がポップになってしまったぁ」みたいにいちいち言われるんですよ。でも意外でした。いきものがかりさんでも、そういう“像”に苦しむことがあるんですね。

水野 ありますよ! もう、像がいっぱいで(笑)。そっちのほうが重いくらいなので。いきものがかりさんという、僕らとは別の人格になってる感じですね。

塩塚 その感じはわかります。羊文学は塩塚だ、とずっと思ってたんですけど、そうじゃないというか、今のメンバー3人の合体でもなくて、その上に羊文学というものが存在しているんだよ、とスタッフからよく言われてて、そうなのかなと最近なんとなく思いはじめてるんですけど。

水野 グループって、そうですよね。もちろんメンバーで作ってるものなんだけど、そこを超えていくというか……。雲がどんどん大きくなっていっちゃったり、違う形になってたりするみたいな感じで。

塩塚 そうなんですよね。追いつけなくなってたり、あっちに飛んでいっちゃってたり(笑)。

── 羊文学は自分だと思っていたのが、そういう存在があるんだよと言われ、自分でもそれに納得するようになってきたときに、羊文学の曲の歌詞を書く上で影響というか、何か変化はあったりしますか。

塩塚 そこはあまり気にしないようにしようかなと思ってます。羊文学という人格があるとは言え、私の名前で出している歌詞だし私の声で歌うから、私が思ってもいないようなことは表現できないなとは思っているので。だから、自分が本当に思っていれば、どんなポップなことを言ってもいいし、どんな残酷なことも言ってもいいかなと思っています。

水野 自分で歌うということは大きいですよね。

塩塚 そうですね。どこまで行っても、自分のなかでは歌が中心にありますから。

水野 そこが、僕とは一番違うところでしょうね。僕は、歌わないから。歌う人が別にいるということで、コントロールできない部分が多いんですよ。

塩塚 「こういうふうに、歌って」とか、イメージを伝えたりされるんですか。

水野 ウチの場合はまったくしないんですよ。いつの間にか、それが暗黙のルールになってしまって、よほど向こうから聞いてこない限りは何も言わないで、渡すという感じです。

塩塚 へええ!?

水野 だから、吉岡(聖恵)が歌ったときに、いい意味で自分のイメージと違うという場合もあるんです。でもそれが吉岡の解釈だから、そこで人と人が混ざり合うというのがいいのかなと納得してるんですよね。

取材・文=兼田達矢

次回は12月7日公開予定です。

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)

1982年生まれ。神奈川県出身。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。
2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。
作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。
グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。
またテレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。
2019年に実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ。

羊文学

塩塚モエカ(Vo&G)、河西ゆりか(B)、フクダヒロア(Dr)からなる、繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティブロックバンド。
2017年に現在の編成となり、EP4枚、フルアルバム1枚をリリース、限定生産シングル「1999 / 人間だった」が全国的ヒットを記録。EP「ざわめき」のリリースワンマンツアーは全公演ソールドアウト。
2020年8月19日に「砂漠のきみへ / Girls」を配信リリースし、メジャーデビュー。12月9日にニューアルバム『POWERS』リリース。しなやかに旋風を巻き起こし躍進中。詞曲を手がける塩塚は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「触れたい 確かめたい feat.塩塚モエカ」に参加するなど、ソロでも活躍が期待される。

<羊文学 Tour 2021 “Hidden Place”>
・2021年1月31日(日)名古屋 BOTTOM LINE
・2021年2月11日(木・祝)大阪 CLUB QUATTRO
・2021年2月26日(金)東京 STUDIO COAST

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