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ワークマン、コロナ禍でも業績好調の理由は? 「時代の流れを読む」戦略を分析

リアルサウンド

20/8/13(木) 10:00

 メディアでワークマンについて取り上げられる機会がここ数年で急激に増えた。

 もともと作業服や軍手、手袋といった職人向けでは圧倒的なシェアトップ企業だったが、18年後半以降、一般向けの新業態「ワークマンプラス」が大ヒットして客層が広がった。「ワークマン女子」という言葉が生まれ、ファッション誌やテレビ番組で「ワークマンコーデ」が取り上げられるようになっている。

 コロナ禍にもかかわらず、20 年1~3月の既存店売上高は前年比2桁超えを継続。4月は前年比5.7%増、5月は同 19.4%増。というのも、ワークマンは店を開け続けたからだ。もともと電力会社や建設会社といった社会インフラに関わる人たち向けの店であり、そういう人たちの仕事はコロナであろうと止まらない。そうやって開け続けたことで、ほかの店は閉まっていて買えないという人も呼び込んだ。

 ではワークマンのこうした好調ぶりは、たまたまのブーム、一過性の偶然の産物なのだろうか? そうではない。話題の酒井大輔『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』には、ワークマンがコロナ禍以降でもおそらく好調を続けるだろう理由が書かれている。

 ワークマン経営陣は、時代の流れをどう読み、手を打っているのか? 同書を元にこれを整理してみよう。

都心の屋内での娯楽よりも郊外の屋外での楽しみへ

 ワークマンの土屋哲雄専務は、まず、人々がコロナ禍によって外出・接触を控えることで、家族・家庭中心になったことを確認し、余暇の過ごし方は「都心でショッピングや美食を楽しむ」よりも「郊外で運動、散歩、ジョギング、キャンプ、サイクリング」に流れる、と読む。

 ワークマンプラスは低価格ながら尖った機能性を重視することでアウトドア、スポーツウェアとしても注目を集めてきたから、この流れはワークマンにとって追い風となる。

インフレからデフレへ

 残念ながら外出制限・自粛によって製造、サービス、飲食業を中心に経済の落ち込みは少なくとも短中期的に避けられない――場合によっては長期に及ぶ不景気になるかもしれない。すると所得は減り、高いものは買わなくなる。

 980円、1980円といった圧倒的に安い値付け、コスパの良さがもともと魅力だったワークマンにとっては、新たな顧客を呼び込む力にはなっても、客離れを起こす要因としては弱い。

モノ消費からコト消費へ

 これはコロナとは関係ないが、従来から「モノ消費からコト消費へ」とよく言われてきた。これもワークマンにはプラスに働くトレンドだ、と言う。「機能性重視」という「モノの魅力」で売っているように見えるワークマンと「コト消費」重視の流れの関係とは? この解釈がおもしろい。

 ワークマンの土屋氏は、コト(体験)にお金をかけるには、買うモノを安くしなければいけない、と言う。これはわかる。というのも、可処分所得が一定または減少していくと仮定するならば、コト消費が進むと、それだけモノへの消費は減るからだ。しかしモノ(服)をまったく買わないわけにはいかない――だから、ここでも低価格のコスパ重視というワークマンのポジショニングが活きてくる、と言うのだ。コトにお金をかけるなら、モノにお金はかけられない、だからワークマンのように安い(コスパの良い)モノなら売れる、と。

 とはいえ、同時に、服の体験性を高めるというコト売り的な施策をワークマン自身もやっている。ワークマンはインスタグラマーやYouTuber、ブロガーを中心とするインフルエンサーを巻き込んだアンバサダーマーケティングに非常に力を入れている。

 一般向けのワークマンプラスを始めるきっかけ自体が、東北など寒冷地での作業員向けを想定した防水防寒ウェアがSNS上でバイク乗りに「風を通さないのが最高」とバズって売れたり、油や水で滑りやすい中華料理店や鮮魚店などで働く人向けの「厨房シューズ」が「雨の日にタイルの上を歩いても滑りにくい」と妊婦にバズって売れたりということが続いたからだった。

 作業員・職人向けの尖った機能を持つ製品が、ワークマン側の想定とは異なる使い方をされてSNSで盛り上がって売れる、ということが連続して起こり、経営陣は「職人向けと同じ製品でも、売り方さえ変えれば一般向けでも十二分にいける」と気付いた。

 だから近年ではSNSに対して影響力を持つ人たちを積極的に取り込むことで、人々に「自分も同じようにやってみたい(着てみたい)」と思わせる、コト消費的な体験性重視の売り方をブーストしている。

人口減少、人手不足

 日本は人口が減っていき、人手不足が深刻になる。今はコロナ禍で仕事を失う人が増えているものの、マクロのトレンドで見れば生産労働人口の減少に伴う人手不足は避けられない。

 ところがワークマンは圧倒的に省人化を進めている。店舗に人が少なくても、労働時間が少なくても回るようなしくみづくりを徹底しているからだ。坪単位は100坪、駐車場は10台と店を標準化して全国一律に揃え(試験的に120坪の店舗も近年は開いているが)、人口10万人に1店舗と商圏を策定してフランチャイズ同士で食い合わないように設計。さらにすべてをマニュアル化して、誰でも運営できるシステムを確立している。

 ワークマンは値下げをしない価格戦略、いわゆるEDLP(エブリデイロープライス)だから、値引き札に付け替えたりといった面倒な作業が発生しない。そのうえ在庫管理と発注予測システムを構築し、各店舗のオーナーは一括注文ボタンを押せば一瞬で注文が完了する。オーナーを含むスタッフは午前7時の開店の10分か15分前に来ればすぐに店を始められ、日中にレジ閉め作業を行うから午後8時に閉店後すぐに帰れる。

 セブンイレブンの1店舗当たりの平均売上高は年間2.3億円程度、ワークマンは1億円台だがコンビニは24時間営業で1店舗20人程度の運営が多いのに対して、ワークマンは1日13時間営業でなんと平均4人程度で店を回している。「労働強度が高すぎ、儲からない」ではフランチャイズオーナーは集まらない。ワークマンは労働強度を下げ、儲かるようにして熱心なFCオーナーを集めている。

 ワークマン本部がFCのオーナーに求めるのは接客力など限られており(ただしその限られた面は非常に厳しくジャッジする)、そのことによって経営の難易度を下げ、ムリをさせずに稼げる運営のしくみを作っている。各店舗では大量のスタッフを必要としないから、オーナーがバイトの面接やシフト管理に悩むこともない。その地域で労働力の確保が難しくてもオーナー夫婦に加えて2名の計4人の雇用で済むならなんとかなる。

 買う側だけでなく売る側についても時代の流れを読んで手を打っているわけだ。

ムリをしなくても回るようにするしくみづくりに必死で知恵を絞る

 ワークマンが改革に取り組み始めた背景には、職人の絶対数が減っていくという危機感があったのだという。

 しかし、そこで従業員や関係者に属人的な努力を強いて勝つのではなく、時代の流れを読みながら、ムリをしなくても回るしくみをつくる、他社と競合して直接つぶし合うのではなく「戦わずして勝つ」ようなポジショニングをしているのが巧みだ。

 「がんばってなんとかしよう」「戦って勝つ」ではなく「がんばらなくてもなんとかなる」「真正面から競合と戦って消耗するのではなく、棲み分けて利益を確保する」体制づくりへの志向は、今までのやりかたではあちこちがしんどくなっていく(なっている)日本社会で必要なものだ。

 酒井大輔氏によるワークマン本には、そのヒントが詰まっている。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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