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山本益博の ずばり、この落語!

第四回「柳家喬太郎」 平成の落語家ライブ、昭和の落語家アーカイブ

毎月連載

第4回

18/9/30(日)

手ぬぐいに扇子で「人」と書き、その都度3度飲み込む出番前の喬太郎師匠。お客さんに飲み込まれない「おまじない」。

 今、最も輝いている落語家のひとりである。「古典」と「新作」ともにいける二刀流。

 輝いている落語家に共通しているのは、現代語感と日常観察と生活的教養が優れていることなのだが、喬太郎がしゃべる江戸っ子の熊さん、八つぁんは平成の若者言葉を使い、『お菊の皿』の幽霊のお菊さんが「うざい!」などと言い放ったり、AKBの女子になったりする。それが、「古典落語」の範疇に収まっているのが不思議なくらいに違和感がない。

 『時そば』のまくらには立ち食い蕎麦の「富士そば」や「小諸そば」が登場し、コロッケそばを検証する。その観察眼の鋭いことと確かなことと言ったらない。目線がつねに低く、さりげない日常に即していて、変幻自在なのだ。

 柳家喬太郎は昭和38年(1963年)東京生まれ。大学時代は「落研」に属し、銀座の書店で働いたのち、平成元年(1989年)に柳家さん喬に弟子入りした。平成10年(1998年)NHK新人演芸大賞「落語部門大賞」、平成12年(2000年)に真打に昇進。平成16年度、17年度、18年度国立演芸場花形演芸会大賞、平成17年度芸術選奨文部科学大臣新人賞「大衆芸能部門」を受賞と、受賞歴も輝かしい。

 私が柳家喬太郎の落語を初めて聴いたのは、10年ほど前、銀座の「よみうり落語会」で、その時の高座は「新作」だった。噺の「まくら」から観客を自在に笑わせ、噺を軽妙に運んでいったのだが、「新作落語」だったということもあり、人物描写より情景描写が目立ち、感銘をうけるという高座ではなかった。

 それから、しばらくして、古典落語の『転宅』『紙入れ』を続けて聴いた。噺に登場する年増の女がぞくぞくするほどの色気が匂いたち、しかも現代語で男を手玉に取るしたたかな女だった。これを聴いて、立川談志の落語に登場する現代の「女」と共通する匂いを感じて、すっかり喬太郎のファンになり、注目する落語家の最右翼のひとりとなった。

 師匠である柳家さん喬に「女」を演じさせたら、今右に出る者はいないと言われるほど評価が高いが、「牡丹灯籠」のお峰のような曲のある女を描かせたら、弟子の喬太郎に軍配を上げたいほどの巧さ。

喬太郎師匠(右)と山本益博さん(左)

 私がプロデュースする「COREDO落語会」に出ていただくようになり、『転宅』も『紙入れ』も高座にかけていただいたが、とりわけ見事だったのが『おせつ徳三郎』である。なにより、その新演出に唸ったのだった。

 大店の娘おせつとその店で働く一本気な手代の徳三郎が叶わぬ恋の仲となり、徳三郎はおせつをあきらめ両国橋の上から飛び込む決意をする。そこへおせつが婚礼の席を逃げ出してやってきた。このおせつを探そうとする追手が「迷子やーい!迷子やーい!」と迫ってくる。二人は江戸の町を徘徊しながら、心中の場所を探し歩き、結局、木場の橋の上から「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」とお題目を唱え、飛び込むのだが、本来の『おせつ徳三郎』では、木場にある材木につかまって、二人とも「お題目(材木)で助かった」とオチがつく。

 人情噺『鰍沢』と同じサゲであることを嫌ったのか、一瞬にして現実に戻すことをよしとしなかったか、喬太郎は、この二人を助けなかった。「迷子やーい!」の声が闇夜の江戸の町に響く中、その声がフェードアウトすると、「二つの花びらが、大川を流れてゆきました」と締めくくった。この落語であって、落語でない見事な脚色、新演出は終生忘れ難いものとなった。

 このほかミュージカル仕立ての『歌う井戸の茶碗』や前座噺をアレンジした『世辞桜子褒厄誉(せじざくらこほめやくほめ)』など、彼の才能が落語の新しい世界を切り開いていく。先日、お会いしたとき「『船徳』は演らないのでしょうか?」と尋ねると、「演ってみたいのですが、今は時間がないんです」というお答え。「2年後で結構ですから、ぜひとも喬太郎師匠の『船徳』が聴きたいです」とリクエストした。それを快く受けてくださったので、2年後の『船徳』の若旦那徳三郎が楽しみである。

 新刊の『なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?』(徳間書店刊)によると、かつて、三遊亭円窓師匠が「喬太郎は20年に一人という逸材」と評したという。それを証明するかのような、今いちばん聴き応えのある落語家である。

『なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?』
柳家さん喬/著 柳家喬太郎/著
発売日:2018年8月29日
価格:1700円(税抜)
徳間書店刊

豆知識 「前座」

(イラストレーション:高松啓二)

 「高座」と同じく、仏教用語からきている。落語家になるには、誰かの師匠の弟子にならなくてはならない。入門を許されると、師匠の家に「住み込み」か「通い」で、前座見習いとして修業が始まる。協会に登録されると、「前座」として寄席での仕事を務めることになる。

 客席からは高座の座布団やめくりを返すことくらいしか見えないが、楽屋では、師匠連へお茶を出す、高座着を着るお手伝いをする、出囃子などで太鼓を叩く、「根多帳」と称する「本日の出演者のプログラム」を出番順に記録するなど、誠に忙しい。

 柳家喬太郎師匠に伺ったところ、師匠の高座着をたたむのにも、三遊亭、柳家、林家など、それぞれたたみ方の流儀があって、それを覚えないと師匠から叱られるとのこと。

 前座を務めているうちに「立て前座」に出世する。時には、高座に上がる師匠に「10分でお願いします」とか時間を調整するタイムキーパーの役割までしなくてはならない。

 現代で、最も「修業」らしい修業ではなかろうか。

プロフィール

山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。落語評論家、料理評論家。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論『桂文楽の世界』がそのまま出版され、評論家としての仕事がスタート。近著に『立川談志を聴け』(小学館刊)、『東京とんかつ会議』(ぴあ刊)など。

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