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『捨ててよ、安達さん。』『有村架純の撮休』“実名ドラマ”なぜ流行? YouTubeとの比較で考える

リアルサウンド

20/5/29(金) 6:00

 ここのところ、俳優がその人自身を演じる“実名ドラマ”がじわじわと広がりを見せている。『有村架純の撮休』、『住住』シーズン2、『捨ててよ、安達さん。』など、その放送・配信形態(『有村架純の撮休』はWOWOW、『住住』はHulu、『捨ててよ、安達さん。』はテレビ東京ほか)にバラつきはありつつも、2020年に入ってからだけでも注目作が目白押し。最近では、NHKがテレワークで制作したドラマ『今だから、新作ドラマ作ってみました』の一編「転・コウ・生」が、柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生といった俳優本人の姿を描いたドラマになっていたのも記憶に新しい。

参考:【ほか場面写真多数】キッチンで佇む有村架純

 そういった俳優自身が主役となる実名ドラマが一定の層から支持を集める一方で、真の“ドキュメンタリー”とも呼べるYouTubeやInstagramなどでの露出も存在感が大きくなってきている。本田翼や川口春奈、佐藤健、中村倫也などの俳優によるYouTubeチャンネルはとりわけ増加傾向にあり、自身のプライベートを気軽に撮影・公開できるツールとなりつつある。

 俳優自身の魅力が映し出される映像メディアという点では共通しているこの“実名ドラマ”と“俳優YouTube”。本稿ではそのそれぞれの利点を明らかにし、“幸福な相乗効果”の実態を紐解く。

・俳優のYouTube参入が実名ドラマとの相乗効果を生む
 川口春奈が1月31日に開設した『はーちゃんねる』は、実家に帰省する姿を自身のカメラで捉えたその2本目の動画「実家でお母さんに会ってきた!【Vlog】」が大きな注目を集めた。内容はタイトルのとおり、ある休みの日に長崎にある実家に帰省し、家族と一緒にごはんを作ったり食べたり、甥っ子をあやしたり、育った地元の町を紹介したり、ただ淡々と川口春奈のプライベートが映し出される動画だ。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の帰蝶役にも急遽大抜擢された人気女優の限りなく素に近い姿が、彼女のファンだけでなく多くの人に受け入れられた。

 女優が休みの日に実家に帰省する。面白いのは実はこれと同じことが、『有村架純の撮休』でも繰り広げられていたこと。突然撮影が休みになった女優・有村架純の架空の日常を気鋭の監督・脚本家たちが描いた実名ドラマ『有村架純の撮休』では、第1話「ただいまの後に」を是枝裕和が監督。有村架純の実際の地元である兵庫県に帰省するところまではリアルだが、母親役を風吹ジュンが演じていたり、その母親が隠していたあることが物語を駆動させたり、その内容はあくまでもフィクションとして描かれる。しかしフィクションでありながら、家族の背景を想像させる脚本と、家族映画を多数手がけてきた是枝監督が紡ぐ滋味深い世界観が相まって、YouTubeのリアルでは到底映し出せない俳優の魅力が浮き彫りになっていた。

 「物語」や「演じること」を通して人間の奥行きを垣間見せる実名ドラマと、「物語」や「演じること」から解放された姿が映っているからこそ目が離せない俳優YouTube。極めて対照的な関係にあるこの2つのメディアが両方受け入れられている現状は不思議かもしれない。しかし、俳優には演じる瞬間もあればそれ以外の普通の生活の時間もあるわけで、それが描写されたドラマとYouTubeの表裏一体の関係こそが、相乗効果的に俳優の魅力を最大化していると言えるだろう。バカリズムと芸人や女優との交流を描いた実名ドラマ『住住』は、『佐藤健チャンネル』における若手俳優たちのリアルな関係性を越すことはできない。しかし反対に、俳優YouTubeが到達できない笑いの豊かさがある。だから俳優を愛する私たち視聴者は、この2つのメディアによって彼らの多面的な姿に接することができるとても幸福な状況に置かれているのだ。

・「俳優+物語」=「実名ドラマ」だからこそできること
 安達祐実が本人役を演じる『捨ててよ、安達さん。』は、女性誌の企画で「毎号私物をひとつ捨てる」というコラムの連載を持ちかけられることから始まる実名ドラマだ。捨てられたいと願うモノが夢の中に人間化して現れ、自ら直談判するファンタジー的な物語が『勝手にふるえてろ』の大九明子監督らによってコメディ仕立てに織り上げられている。これも、まさしく雑誌で読むコラムが映像化されているような感覚で、安達祐実本人の魅力と用意された物語とのケミストリーによって唯一無二のドラマを創出。実名ドラマのさらなる可能性を感じさせるストーリーになっている。

 『捨ててよ、安達さん。』のように、俳優の影響力や人気を活かした実名ドラマという形式だからこそより複雑な意味をなす作品もある。NHKテレワークドラマの「転・コウ・生」がまさしくそうだった。登場人物は柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生、脚本は森下佳子と、NHK大河ドラマ『女城主 直虎』のチームが再集結したことでも話題を呼んだ本作。その元からある関係性はそのままに、「突然入れ替わってしまう」というフィクションを用いながら、「人々がコロナ禍に適応することを強いられていく」現状を鋭く捉えた。このドラマには「いつもテレビで観ている俳優だって、私たちと同じようにコロナの影響を受けているんだ」と親近感を覚えることができるし、「一緒に乗り越えよう」と暗に伝えるメッセージはきっと視聴者の励みになるはずだ。

 先日発表された坂元裕二脚本によるNHKドラマ『リモートドラマ Living』は、広瀬アリス、広瀬すず姉妹や、永山瑛太、永山絢斗兄弟など、実際の家族が「家族」役を演じると公示され、期待が高まっている。本人役を演じるというわけではないようなので実名ドラマとはまた異なるが、これは複雑な人間模様を描く坂元裕二脚本ならではの本格ドラマと、本人たちの関係値をそのまま活用するというフェイクドキュメンタリー的な要素が組み合わさったハイブリッドな作品であると予想される。このように、物語のあり方、俳優のあり方がどんどん多様化している現在。その先には、多様な側面から俳優に接することができる幸福な世界が広がっているはずだ。 (文=原航平)

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