Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

声優 入野自由にとって“音楽”は自分自身を表現できる場 尾崎雄貴、向井太一、chelmicoら楽曲収めた『Life is…』に表れた感性

リアルサウンド

20/11/13(金) 6:00

 声優を中心に舞台俳優としても活躍している入野自由が、3枚目となるフルアルバム『Life is…』を11月4日にリリースした。昨年、ソロ活動10年周年を迎え、これまでに3枚のアルバムの他にもミニアルバムを6枚もリリースしており、精力的に活動を続けている。

 入野は4歳の時、先に子役として俳優デビュー。声優としては、2001年に映画『千と千尋の神隠し』ハク役を筆頭に、『機動戦士ガンダム00』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『ハイキュー!!』『聲の形』『おそ松さん』といった人気作品に参加してきた。その芸歴から、長きにわたって声優界とファンに大きな影響を与えてきた存在だ。

 幼いころから舞台に出演してきた入野は、2010年以降、演劇・ミュージカルにも活躍の場を広げている。『屋根の上のヴァイオリン弾き』などの作品に出演し、2020年12月には『ピーター&ザ・スターキャッチャー』の主演ピーター役を務めるそうだ。声優という枠にとらわれることなく、表現者・役者としても日々成長を続けている。

 彼がソロアーティストとして活動し始めたのは2009年からだが、海外留学直前にリリースされた2ndアルバム『DARE TO DREAM』(2016年)には、Mummy-D(RHYMESTER)、マツキタイジロウ(スクービードゥー)、尾崎雄貴(BBHF)が参加しており、ソロ活動を通して音楽への理解が深まっていた影響が強く表れた作品であった。2018年以降に発売された楽曲や作品でもこの方向性は徐々に推し進められ、今作『Life is…』へと繋がっていったのではないだろうか。

 『Life is…』では、これまでに入野とつながりがあった尾崎雄貴、sooogood!、向井太一に加えて、和田唱(TRICERATOPS)、DECO*27、Kai Takahashi(LUCKY TAPES)、chelmico、佐藤千亜妃、Mega Shinnosukeなど、出自、世代、サウンドもバラバラなアーティストたちが参加している。一見、無作為のように思えるかもしれないが、彼が尊敬している、または交友関係からつながった面々に声をかけたという。

入野自由 3rdフルアルバム「Life is…」全曲試聴動画

 2019年にソロ活動10周年を祝した『Kiramune Presents IRINO MIYU Live Tour 2019 “TEN”』を開催しているが、同ツアー中、今作の最後に収録された「だって愛は半端ないじゃない」(作詞/作曲/編曲:sooogood!)を制作、ライブでも披露された。この頃からコロナ禍を経た1年以上の時間をかけて、今作の制作は進められていったようだ。

 オープニングを飾る「やってみればいい」は、尾崎雄貴が作詞/作曲/編曲を手がけた楽曲で、Galileo Galilei時代から彼を特徴づけていた80’sフレーバー溢れるエレクトロポップスだ。一聴してすぐに分かる尾崎節は、ボーカルにエフェクトをかけているところにも表れている。

 Kai Takahashiが作詞/作曲/編曲を務めた「Tokyo」についても同じことがいえよう。優しいキーボードの音色から始まり、派手さはないがしっかりと主張するドラムとサブベースの2つのサウンドが音像定位の真ん中にあることで、非常に心地よくグルーヴしていく。LUCKY TAPESとは違った、Kai Takahashiらしさにあふれた曲だ。歌と歌との間に吐息交じりで「(エイ)」と合いの手を入れるあたりまで、Kai Takahashiらしさが随所にあふれている。

この2曲以外の楽曲も含め、作家個々人の色や個性が強く出ているのも本作の特徴であろう。

 向井太一とCELSIOR COUPEによる「Alive」は、鍵盤楽器とボーカルをメインにしたバラードではあるが、各楽器とボーカルにエコーがうまくかかっていることで立体性や奥行きを感じさせ、16分ないしは32分で刻まれるハイハットなどでリズムキープしていることで、ダルっとした印象を残さない聴きごたえを生んでいる。Kai Takahashiの楽曲とともに、2010年代のR&B〜ベッドルームポップの影響を強く感じさせる楽曲だ。

 女性作家陣に目を向けてみると、chelmico(Rachel、Mamiko)とESME MORIによる「M-9.10」が耳を打つ。押韻、ピッチアクセント、イントネーションがメロディラインの影響でかなり変わるchelmicoのフロウとライミングは、きっと入野も四苦八苦したはずだ。

 「音楽は自分自身として表現できる場ということがあるので、パーソナルなテーマをここに持ってきたっていうのもあります」(参考)と語る入野は、昨年自身が味わったつらい経験や、このコロナ禍という状況を経て、「触れた人がホッとできるような、優しい作品を作りたい」と思ったそうだ。

 そんな思いを作家陣と共有しつつ、入野自身も3曲の作詞を担当している(「確かにそうだ」「どうしようもなく辛い夜は」「優しさは誰のためにあるんだろう」)。いずれの3曲も聴き手に寄り添い、励ますような楽曲であるのは、彼が入野自由らしさを追求し続けてきたからこそではないだろうか。

 実は、今作にはギター中心のロックサウンドはほとんどなく、アタック感が強かったり、強烈に激しいエフェクトがかかったサウンドを中心にした楽曲がないのも特徴だ。おそらく彼のディスコグラフィ史上、もっとも聴き手を温かく迎え入れる作品となったに違いない。

 入野のライブを見た声優の畠中祐は、「これほどまでにレベルの高いアーティスティックなことを、先輩方はやっているんだと衝撃を受けました」と語っていたように(参考)、彼のパフォーマンスや活動には目を見張るものがある。コロナ禍の状況は年明け以降も続く見通しだが、そういった中でもチャレンジを試み、自身の嗜好性と感性を表現しようとする入野自由のさらなる活躍から目が離せない。

■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
Twitter

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む