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隙のない演技でみせる成河(私)×福士誠治(彼) ミュージカル『スリル・ミー』観劇レポート

ぴあ

『スリル・ミー』より 左:私役 成河 右:彼役 福士誠治 撮影:田中亜紀

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2003年にニューヨークで産声を上げ、2011年に栗山民也の演出により日本初演されたミュージカル、『スリル・ミー』。その10周年を記念した公演が、4月1日から5月2日まで東京芸術劇場シアターウエストで上演されている。トリプルキャストのうち成河×福士誠治の回を観劇したのだが、座席に着いてまず、久々に味わうこの作品に特有の“静けさ”に圧倒されてしまった。コロナ禍の劇場はどこも静かだが、観客の異常なまでの期待感と集中力から来るこの緊迫感は、それとは一線を画すもの。やがて客電が落ちると、唾を飲み込むことすらためらわれるような空気のなか、“私”と“彼”の物語が始まった。

猟奇的な誘拐殺人を犯した“私”が、収監から34年の時を経て、“彼”とともに起こした事件の真相を語り出す――。本作が10年にわたり観客を虜にし続けている理由は、まずはやはりこのストーリー、そして音楽にあると言っていいだろう。“私”による告白と、“彼”も登場する回想とを行き来しながら進むストーリーは、謎解きミステリーとしても、ふたりの歪んだラブロマンスとしても、また若者の心の闇や司法の限界といった問題を突き付ける社会派ドラマとしても味わえる。そんな重層的なストーリーを、観終わってからもしばらく身にまとわりつくような、不穏だがメロディアスな音楽が的確にあぶり出していくのだ。

そしてもちろん、再演の度にキャストの入れ替えが行われることも大きな理由のひとつ。全く同じ動きをしているはずなのに、演者によって作品の印象が大きく異なるが故に、何度も足を運びたくなるというのが本作の定説だ。しかも、19歳の少年と初老の囚人とを衣装やメイクの変化なしに演技力ひとつで演じ分ける“私”と、サイコパス然とした冷酷な麗しさと取り乱す様の両面を見せる“彼”、どちらも難役なだけに芝居としての観応えも抜群。この日の成河と福士も、各々の歌、セリフ、仕草、表情、そしてふたりの視線や接触の応酬、どれをとっても一分の隙もない演技で、観客を作品世界へと引きずり込んでみせた。

だがやはり、どんなに面白くてキャストが魅力的でも、「あの空間にまた身を置きたい」と思わせるものがなければ、ここまでの人気舞台にはなっていないのではないだろうか。隅々まで意志がみなぎっているような重厚なセット、ピアニストを出演者のひとりとして扱いキャストと息を合わせる様子ごと見せる趣向、セットの代わりに状況説明の一助を担う一方でキャストの表情に絶妙な陰影をつける綿密な照明……。栗山演出のもとではそのすべてが美しく融合しているため、冒頭で述べた緊迫感は、キャストの笑顔と茶目っ気が空気を一気に緩和させるカーテンコールまで、100分間にわたって持続する。配信では決して味わえないこの緊迫感に邪念なく身を任せるために、観劇する際にはぜひ、眠気が訪れたり咳払いが出たり腹の虫が鳴ったりする心配のないよう、体調を万全にして臨まれたい。

文:町田麻子 撮影:田中亜紀

ミュージカル『スリル・ミー』
原作・脚本・音楽:Stephen Dolginoff
翻訳・訳詞:松田直行
演出:栗山民也
出演:田代万里生(私役)×新納慎也(彼役) / 成河(私役)×福士誠治(彼役) /松岡広大(私役)×山崎大輝(彼役)
ピアニスト:朴勝哲 落合崇史 篠塚祐伴

【東京公演】
2021年5月2日(日)まで
会場:東京芸術劇場シアターウエスト

【群馬公演】
2021年5月4日(火)・5日(水)
会場:高崎芸術劇場 スタジオシアター
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/index.php

【愛知公演】
2021年5月15日(土)・16日(日)
会場: ウインクあいち大ホール
https://www.nagoyatv.com/event/

【大阪公演】
2021年5月19日(水)~2021年5月23日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
http://www.sankeihallbreeze.com/

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