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カニエ・ウエスト、Gang Starr、ダベイビー……ヒップホップシーンをさらにかき回すアルバム5選

リアルサウンド

19/11/17(日) 8:00

・Kanye West『Jesus Is King』
・Gang Starr『One Of The Best Yet』
・DaBaby『KIRK』
・Youngboy Never Broke Again『AI YoungBoy 2』
・Guapdad 4000『Dior Deposits』

Kanye West『Jesus Is King』

Kanye West『Jesus Is King』

 カニエ・ウエスト、9枚目のオリジナルアルバム『Jesus Is King』はゴスペルをふんだんにフィーチャーしたものに。今年に入ってから「サンデーサービス(日曜礼拝)」と名付けたライブイベントをスタートしたカニエ。インスタレーション、そして宗教色の濃いこのイベントは、主にLAの高級住宅地(そして、カニエらの住まいでもある)のカラバサスで催され、入場できるのは超VIPのみ。ブラッド・ピットやケイティ・ペリー、コートニー・ラブらも参加する一大セレブ名所としても知られるようになったほどのイベントです。今年の4月に行われた『コーチェラ・フェスティバル』では出張版サンデーサービスが行われ、全世界に生中継されたのですが、そこで我々はようやくこの催しが何なのか、そしてカニエが現在目指している音楽世界が何なのかを把握できたのでした(現在では、全米各地で催されることもあり、中には一般にチケットが開放されている公演もある)。今作では、下品な言葉を一切使わず、自らのピュアな信仰心を音楽というギフトにして我々に届けてくれたカニエ。しかしながら、かつて『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』や『Yeezus』で示したようなエクスペリメンタルなサウンドや構成、『The Life Of Pablo』に顕著だった自身のイズムと宗教性とのケミストリー、そして初期のカニエ作品のようなサンプリングサウンドなど、これまでの彼の作品と大きく乖離しているわけではありません。ただ、そこには紛れもない主題として『Jesus Is King(イエス様こそが王)』という観念が存在するのです。

 常に常識を覆すような言動と作品を世に送り出してきたカニエですが、特にここ数年はトランプ大統領に対する強い憧憬の念や、自身が抱える精神的疾患、そして、著しく宗教的な方向へ舵を切るそのスタイルなど、彼を巡ってはさらに多くの意見が飛び交っていました。ただ、本作は難なくビルボードの“総合アルバムチャート”首位を獲得し、同時にビルボードの“クリスチャンアルバム”、そして“ゴスペルアルバム”部門でも1位に輝いたのです。さらには“R&B/ヒップホップアルバム”、そして“ラップアルバム”部門でも同じく1位を制しているため、ビルボード史上初、ジャンルをまたいで計5部門でトップを勝ち取ったアルバムに認定されており、いささか逆風めいたとも言える状況下においても、こうして数字でキッチリ結果を残しているカニエには本当に脱帽するばかり。ちなみに米ヒップホップサイトの『DJBooth』は本作を「ブランケットのような包容力を持ったアルバム」と評していました。ある意味、カニエにとってもっとも実験的なアルバムであると同時に、攻撃的な歌詞はほぼ一切なく、カニエによる愛と導き(ガイダンス)に溢れた内容の作品です。それにしても、いつかサンデーサービスに行ってみたいものですね。

Gang Starr『One Of The Best Yet』

Gang Starr『One Of The Best Yet』

 DJプレミアとMCのグールーによる泣く子も黙るヒップホップデュオのGang Starrが、まさかの新作アルバム『One Of The Best Yet』を発表しました。2010年に癌を患いこの世を去ったグールー。2003年に、これまで事実上のラストアルバムとなっていた『The Ownerz』がリリースされてから実に16年ぶりとなる新作です。一部のリスナーにはよく知られた話ですが、『The Ownerz』発表後のプレミアとグールーは決して良好な関係であるとは言えない状況下にありました。グールーはプレミアと距離を置き始め、新たに出会ったDJソラーという人物とともに新たなレーベル<7 Grand>を設立して自身のキャリアを再スタートさせ、病に倒れてからもDJソラーがグールーの代理人的立場に立ち、プレミアには入院中の面会謝絶を要求したとも言われてきました。そしてグールーの死後、ソラーとグールーの遺族との間で、グールーの遺作を巡って約10年にわたる裁判が行われていたとのことです。結局、ソラーが遺作の権利を破棄し、遺族らに対して17万ドルの払い戻しを求める判決が下されたとのこと。プレミアは、未完成のバースやフックなど含め、約30曲分のグールーのボーカルデータを手にし、今回のアルバム制作に着手したそう。ただ、この裁判沙汰はまだ続いており、『One Of The Best Yet』に使用されているグールーのボーカルは、ソラーが共作したものも含まれるとして、アルバムへのクレジットなどを求めているそう。

 こうしたイザコザが背景にあるものの、実際に完成したアルバムはすべてのGang Starrファンを納得させる出来に仕上がっているのではないでしょうか。プレミア自身、『New York Times』のインタビューで「Gang Starrらしいアルバムに仕上がったし、グールーも気に入ってくれるものになった」と答えていました。アルバム完成までに18カ月を要したそうですが、「アルバムを完成させてしまうのが惜しいほど」と語るほどに没頭し、様々な感情を抱きつつ仕上げたそうです。リードシングル「Family and Loyalty」にフィーチャーされたのは、現シーンきってのリリシストとして知られるJ.コール。世代を跨いだグールーとコールのバースの掛け合いはたまりません。全体的に今の(正確には、グールーが生前にレコーディングした時期の、ということですが)ヒップホップシーンを憂うリリックが多いように思うのですが、そのラップにぴったりとスティックするように設えたプレミアのビートはどれも秀逸。M.O.P.やジェルー・ザ・ダマジャ、Group Homeにビッグ・シャグ、フレディ・フォックスら、往年のGangstarrとの親交の深さを感じさせるゲスト陣も流石のセレクト。ぜひ爆音で聴いてください。

DaBaby『KIRK』

Da Baby『KIRK』

 今年の顔となるラッパーを選べと言われたら、ダベイビーの名前を挙げる方も多いのではないでしょうか。今年の3月に発表したデビューアルバム『Baby On Baby』がヒットとなり、特にシングル「Suge」はネット上でも大きくバズり、プラチナムシングルに。彼の楽曲を多く手がけるプロデューサー、ジェットソンメイドの手腕も手伝って、瞬く間に旬のフロウを作り出したのでした。「Suge」のヒット後、たった数カ月の間にチャンス・ザ・ラッパーやYG、J.コールやミーガン・ジー・スターリオン、リゾにリル・ナズ・Xらと数多くのコラボ作品も発表し、前作から6カ月という驚異の短スパンで2枚目のオリジナルアルバムをリリースするに至ったのでした。今回も、やはり軸になるのはとことんベースを効かせたサウンドと、ファニーかつストリートマナーを兼ね備えたダベイビーのフロウです。「BOP」はアップデート版「Suge」とでも言いたくなるようなパンチのある1曲。ニッキー・ミナージュとの「iPHONE」やミーゴスとの「RAW S**T」とはゲストとの良バランスを見せつけるような楽曲です。そして、ダベイビーの活動初期から彼のバックグラウンドに根差く信仰心を表現した「GOSPEL」にはチャンス・ザ・ラッパー、グッチ・メイン、そして注目の新鋭シンガーであるYKオシリスが参加。今回も勢いある内容で、前作同様あっという間にアルバムが終了します(前作は31分、今作は35分)。今年のトレンドを語る上で絶対に外せない作品であることは間違いありません。

Youngboy Never Broke Again『AI YoungBoy 2』

Youngboy Never Broke Again『AI Youngboy』

 1999年、ルイジアナ州のバトン・ルージュに生まれたヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン。NBAヤングボーイの名でも知られる新人ラッパーですが、保護観察期間中の違反行為によって3カ月間収監されており、釈放後初の作品として『AI YoungBoy 2』がリリースされました。まさに最近の若者! という感じですが、彼のファンベースは基本的にSNS〜ネット上にあります。2019年10月11日にリリースされた本作は、なんとビルボードの“総合アルバムチャート”で1位を獲得しました。ニールセンが発表した数字によると、本作は発売初週で11万枚相当のセールスを記録。うち、アルバムとしてカウントされたのはわずか3,000枚分で、他はすべてストリーミング再生でカウントされた数字によるものとのことでした。ということは、『AI YoungBoy 2』をチャート首位まで押し上げたのは、ストリーミングで単曲再生された楽曲が作り上げた数字が主ということになります。今作は初週1億4500万回の再生回数を記録したとのこと。ちなみにカニエ・ウエストの『Jesus Is King』は約1億9700万回の再生回数だったとのことです。両者のキャリアを世界的な知名度を考慮すると、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインがストリーミングで築き上げた数字はなかなかのものではないでしょうか。

 しかもこのアルバム、ワーナー傘下ではありますが自身のインディレーベルからのリリースで、特に目立ったプロモーションもしておらず、大物ゲストが多数参加しているわけでもありません。唯一、Quando Rondoとノーキャップという同世代ラッパー2名がフィーチャーされています。彼が支持されている理由の1つは、なんと言っても生々しいリリックにあります。本作でもそのキレ味は抜群。そして何より、SNSやYouTubeで培ってきたファンベースのデカさを再度実感させられるアルバムでした。加えて、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインは現在、ジュース・ワールドの新曲「Bandit」にフィーチャーされており、こちらもチャート急上昇中。ますます人気が加速していくのではないでしょうか。

Guapdad 4000『Dior Deposits』

Guapdad 4000『Dior Deposits』

 聞き慣れないラッパーかもしれませんが、個人的にリリース日以来ヘビロテしているのが、カリフォルニアはオークランド出身のラッパー、グワップダッド4000のデビューアルバム『Dior Deposits』です。フィリピンとアフリカンアメリカンとのミックスとのことで、カンボジアやマニラにも親戚が住んでいるとのこと。彼が応えているインタビューなどを見るとアジア人としてのカルチャーにも自覚的で、そういった意味でも応援したくなるアーティストです。今年リリースされたJ.コールによる一大レーベルプロジェクト『Revenge of the Dreamers III』にも参加しており、そこで彼の名前を知った方も多いと思います。約3年かけて仕上げたというこのアルバムは、その甲斐あってか御大のE-40の他、モジーら同じ地元の注目アーティストらも参加。「Izayah」にはアトランタのキー、ヒューストンのマクソ・クリーム、そしてマイアミのデンゼル・カリーといった個性の強いラッパーらが集結し、ユニークなマイクパスを聴かせてくれます。そして、グワップダッドが最も得意とするのは、シンガーとのナイスなケミストリーを生み出すことではないでしょうか。リード曲としても知られる「Gucci Pajamas」ではソウル界のレジェンド、チャーリー・ウィルソンをフィーチャーし、さらにはチャンス・ザ・ラッパーまでもが参加するという濃厚な一曲。官能的かつどこかドリーミーな魅力もあるミッドチューンで、新人とは思えぬ完成度の高さ! トーリー・レインズとの「Stuck With It」も何度もリピートしてしまう良曲。すでに次作も制作中であり、なんとスヌープ・ドッグやアンダーソン・パークらも参加する予定だとか。さらにはあのドレイクも注目する存在ということもあり、今後のヒップホップシーンに新たなスパイスを加えてくれそうなアーティストです。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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