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DAZZLE主宰・長谷川達也が目指す、誰でも親しめるダンスパフォーマンス

ぴあ

長谷川達也 (C)飯野高拓

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ダンスカンパニーDAZZLEが、最新作『NORA』を上演する。これまで、観客の投票によって結末が変わる「マルチエンディング」や、建物1棟全てを舞台に観客が物語を体験していく「イマーシブシアター」に挑戦してきたDAZZLEだが、今回は男子新体操チームBLUE TOKYOと共に、また新しい試みを行うという。演出・脚本を手がけるDAZZLE主宰の長谷川達也に聞いた。

親しみを持ってもらうには物語が必要

──「すべてのカテゴリーに属し、属さない曖昧な眩さ」を標榜し、1996年に結成されたDAZZLE。どういう思いを込めているのでしょうか?

DAZZZLEは大学のストリート・ダンスのサークルから生まれたのですが、サークルの必修としてジャズ・ダンスに触れる機会もあり、「己を見てくれ」というふうに自己表現の要素が強いストリート・ダンスに対して、ジャズ・ダンスでは自分以外の感情や風景などになりきるところが面白くて。それで、身体の使い方はストリート・ダンスがベースだけれど、表現の内容や精神的な部分に違ったものを作ってみたらどうかと思ったんです。もともと僕には、白でもないし黒ではない、間を取るようなことをやりたいという思いがあり、あのスローガンが生まれました。

──DAZZLEの特徴を語る上で欠かせないのが、ストーリーです。

ある時、ダンスを知らない友人とダンスパフォーマンスを観に行ったんです。ある程度年齢がいっている大御所の方のダンスの技術の素晴らしさに僕が感動している横で、友人は、何がいいのかわからない、ブレイク・ダンスのようなアクロバティックなパフォーマンスの方が面白かった、と。それを聞いて、誰でも親しめるためには物語が必要なのではないかという発想に至りました。

当時、ストリート・ダンスの世界で物語のあるものを作っている人はほとんどいませんでしたし、僕自身、映画や漫画やゲームが好きだったので、そういう面白さが詰まった舞台を観たいとも思ったんです。個人的には、物語がないダンスも好きなのですが。

玉三郎さんから教わったこと

──2011年に『花ト囮』という作品でLegend Tokyoで優勝し、韓国・ルーマニア・イランの演劇祭にも招聘され、2015年には坂東玉三郎が演出を手がけてDAZZLEが主演し一部振付も担当した『バラーレ』を上演……と、この10年のDAZZLEの活躍には目覚ましいものがあります。それらの経験は、今にどう繋がっていますか?

ストリート・ダンスのコンテストには沢山挑戦して良いところまでは行くものの、優勝はできずにいました。ストリート・ダンスのシーンではストリート・ダンスではないと言われ、コンテンポラリー・ダンスに興味を持ってそちらの世界に入ってみるとコンテンポラリーじゃないよね、と言われて、それで構わなかったけれど、どこで評価してもらえるんだろうとは思っていて。でもLegend Tokyoは、エンターテインメントとしてストリート・ダンスを評価する初めてのコンテストで、審査員にもエンターテインメントの世界で活躍する方々が入っていらした。そこで優勝でき、今までやってきたことを肯定された気持ちになりました。

DAZZLE (C)飯野高拓

玉三郎さんとご一緒させていただいた『バラーレ』は、クラシックの楽曲を使って振付をするという企画で、特にストラヴィンスキーの〈春の祭典〉は非常に複雑な楽曲。しかも玉三郎さんからは物語性ではなく身体表現として見せてくれと言われたため、今まで自分が振り付けてきたものを総動員しても全然足りなくて、出がらしのような状態から、それでも作らなければならずとても苦しい思いをしました。面白いものができたかどうかは観た方が判断されることですが、作りきったことは自信になったし、自分の中の引き出しを増やすことができたと思います。

玉三郎さんからはあらゆることを教えていただき、目からウロコの連続。バレエを勧めていただいたのもその一つです。教わっていた先生が地元に戻ってしまったので今は受けていませんが、2年ほど続けました。身体の感覚がストリート・ダンスとは全く違うので、軸が全然取れず、ひたすら入門クラスでしたが、そこから実際の身体の使い方も、表現における精神的な部分も、変わっていった気はします。

──そして、DAZZLEとして新たな挑戦をしたのが、2016年、結成20周年記念公演として作った『鱗人輪舞(リンド・ロンド)』。観客投票によるリアルタイムマルチエンディングを導入しました。2017年には観客が建物内を移動しながら世界観を楽しむイマーシブシアター『Touch the Dark』を上演し、今年6月にはお台場ヴィーナスフォートで日本初の常設イマーシブシアター『Venus of TOKYO』をスタートさせました。今回の『NORA』に繋がる流れですね。

初の観客参加型公演『鱗人輪舞』で得た手ごたえ

まだまだ知名度がないグループですが、面白そうだ、と思ってもらうにはどうしたらいいんだろう、と考えた結果、観客が作品に関与することに行き着いたんです。『鱗人輪舞』では裁判のシーンで観客に投票してもらい、それによって結末が変わるという仕掛けを作りました。物語を二つに分ける分、製作量も増えますし、選ばれなかったらその場面はやらないかもしれないという難しさもありましたが、観てくださった方々が、面白かった、別のパターンも観たいと言ってくれて、僕の中ではうまくいったのではないか、と。

イマーシブシアターは、ニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演されていた、イマーシブシアターの代名詞みたいな『Sleep No More』の話をメンバーから聞き、実際にニューヨークに観に行ったらすごく面白くて。シェイクスピアの『マクベス』がベースになった作品とのことでしたが、僕自身の勉強不足もあってか、お話というよりは世界観を味わうものに思えたので、DAZZLEでやるならもう少し物語的につかんだり解決できたりするようにしたいと考えて作ったのが、『Touch the Dark』です。

DAZZLE新作公演『NORA』ロゴ

こうやって、マルチエンディングの舞台を作り、作品の中に観客が入るイマーシブシアターをやったら、もうあとはマルチストーリーしかない(笑)。小さい頃、ゲームブックというものがあって。選択肢があり、Aだったら何ページ、Bだったら何ページ、とめくっていくとお話が展開していったのを思い出して、その舞台版として『NORA』を構想しました。

──ストーリーは何パターン準備しているのですか?

軸としては2本ですが、そこにもう少し細かい分岐を幾つか設けているので、細かく言うと何十通りにもなります。主人公の行く道が変わったり、些細な選択かと思いきや後々それで大きく事態が変わっていったり。観客の皆さんに専用のプレートを掲示してもらうことで次のシーンが決まるので、ダンサーも瞬発力を問われます。願わくば、準備した全てのシーンを演じさせていただきたいですね。

“マルチストーリー”の新作『NORA』の内容は?

──『NORA』はもともと去年3月に公演するはずが、新型コロナの影響で、開幕1週間前に中止・延期に。2ヶ月後の5月にはその世界を疑似体験する映像の配信をYouTubeでやっていらっしゃいましたよね。

当時は中止なのか延期なのかもわからない状況でしたが、映像で見せていくことに色々な方が取り組んでいた時期で、我々もやりたい、やらなければ、と。その際、『NORA』に関わる何かを、それもマルチストーリーを再現する仕組みで映像化しようということになりました。

DAZZLE (C)飯野高拓

──公演のリリースによれば、「すでに配信停止になった曰く付きのオンラインゲーム「東京C」を背景に、誰が何の為にそれを製作したのか、その謎を解き明かしながら、翻弄されていく者たちの姿を描く、マルチストーリーの舞台作品」、と。選択によって変わっていくとは言え、変わらないテイストというと?

現代か近未来の東京をイメージした、厳しく規制の敷かれた社会が舞台です。人々が抑圧されていて、それを開放するものとして、オンラインゲームがある。今、オンラインゲームの世界では“オープンワールド”と言って、自分が好きなところに行って何をしてもいいというゲームが多いんです。そこでは、悪人になっても善人になっても、極端な話、人を殺してもいい。戦争体験ができるゲームは大人気です。戦争に行きたいわけはないけれど擬似的に体験したいと願っている人は沢山いるということですよね。それは人間の本能の一部なのかもしれない。『NORA』は、理性と本能、現実と非現実みたいなところを行き来し、そこにどんな正義あるいは悪があるのかを問う作品になっています。

──私たち観客は、あたかも自分がゲーマーのように舞台上の物語を選択し、見ながら翻弄され、さらにゲーマーが翻弄されている舞台上の世界を見る、と。つまり、舞台上でも現実と非現実が入り交じる瞬間があり、その舞台上の世界全体が観客にとってはフィクションという非現実で、それでいてどこか自分たちの現実世界とも接続しているという感じでしょうか?

そうですね。そして、ゲームでは生身の人間がゲームの世界の、生身ではない人間を動かすわけですが、この舞台ではそのゲームの世界の人間も生身の人間が演じる。その面白さと怖さがあるかもしれません。演じる我々も、どういった選択をされるのかわからないので。

タイトル『NORA』の意味はぜひ公演を観て感じてもらえたら

──BLUE TOKYOの皆さんの身体とDAZZLEの皆さんの身体は、明確に分かれているのですか? 例えばBLUE TOKYOの人たちがゲームの世界の人という役割とか?

DAZZLEとともに新作『NORA』の世界をつくるのは、男子新体操アスリートが結成したアクロバットプロパフォーマンスユニット「BLUE TOKYO」

特にそういうわけではなく、分かれている場面もあれば混在している場面もあります。BLUE TOKYOの彼らは、アクロバティックなことをものすごく美しく迫力をもってこなし、団体で一糸乱れず動くこともできる。その非現実的とも言うべき凄さが今回の作品に入ったらすごく魅力的になると思い、声を掛けさせてもらいました。

──NORAというのは、普通は女性の名前ですが、具体的には何を表すのでしょう?

あるメッセージを込めたネーミングになっていますので、そこはぜひ作品をご覧いただければと思います。選択によって物語が変わる上に、観客の皆さんが生きてきた環境や、その日の精神状態、体調によっても、もしかしたら感じることが違うかもしれません。それが舞台の良さでもあるので、毎回、作品中で何かを感じていただけたら嬉しいですね。

取材・文:高橋彩子



DAZZLE新作公演
『NORA』
演出・脚本:長谷川達也
振付:DAZZLE
音楽:林ゆうき
出演:DAZZLE / BLUE TOKYO

2021年6月25日(金)~2021年7月4日(日)
会場:東京・あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2110349

DAZZLE公式サイト
http://www.dazzle-net.jp/

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