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シム・ウンギョンの魅力は“映画そのもの” 『サニー』から『ブルーアワーにぶっ飛ばす』までを振り返る

リアルサウンド

19/10/13(日) 10:00

 心優しい夫がいて、仕事をバリバリこなす30歳のかっこいいCMディレクター。それが夏帆演じるヒロイン・砂田だ。とはいえうまくいっていない。映画の序盤で描かれるのは、クライアント先にイライラと早口で毒を吐き、仕事ですり減らした感情と不倫相手への苛立ちを込めて「いぬのおまわりさん」を替え歌混じりに絶叫する酔っ払いという、我々の想像を遥かに超えた、荒みきったアラサー女性を演じる夏帆である。そんな荒らぶる夏帆とは違う場所で、彼女にシンクロするかのように踊り狂っている謎の女が、その後砂田と行動を共にし始める、彼女の秘密の友達、シム・ウンギョン演じる清浦だ。

 『ブルーアワーにぶっとばす』は、悩み、葛藤し、ひた走る30代、砂田を全力で演じる夏帆を堪能する映画であると共に、影のようにぴったりと砂田に寄り添い、子供のように軽やかに映画の中を自由自在に駆け巡るシム・ウンギョンを堪能することができる映画だ。

 ブルーアワー。「誰そ彼どき」とも言う、一日の終わりと始まりに一瞬だけ訪れて、空が青色に染まる静寂の時間。不思議な言動を繰り返す女の子の後ろ姿を追いかけるように始まるこの映画自体が、ブルーアワーそのものなのだろう。「立ち止まったら死んでしまうマグロ」のようにひたすら突っ走るしかない砂田の人生に、つかの間訪れた、自分自身に立ち返るための静寂の時間。そして、観客は「誰そ彼(あれは誰だ)」と問いかけ続けることになる。駆け抜け、笑う子供の存在に。そして、時に滑稽な効果音まで味方につけておどけて見せて、無邪気に叫び、喜び、怖がり、納豆を食べ、「ださいっすね」と愛くるしく笑う清浦に。

 シム・ウンギョン自身が「『アラジン』のジーニー、『アナと雪の女王』のオラフみたい」と言及しているように(『ブルーアワーにぶっとばす』公式ホームページより)、どこか掴みどころのないファンタジーな存在でありながら、優秀な聞き役として、あるいは道化として主人公を導いていく清浦は、向き合っているようで向き合っていないように思われる変な構図の砂田と清浦の最初の場面からしてどこか違和を感じさせつつ、誰もが受け入れ、愛さずにはいられない、不思議で強烈な魅力がある。そしてそれは、映画『新聞記者』において日本映画界に衝撃と共に現われたシム・ウンギョン自身と重なるものがある。

 数々の代表作を持ち、韓国映画やドラマで活躍するトップ女優である彼女が日本の映画や演劇に立て続けに出演することになったのは、安藤サクラや門脇麦らが所属する事務所「ユマニテ」と彼女が専属契約を交わしたためだ。

 『新聞記者』における、どこまでも事実を追い求める記者役で見せたひたむきさと真摯さは心に強く残るものがあったし、映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』で演じた第一感染者役は、凄すぎて彼女を彼女として認識できないまま終わってしまうほどだったが、その後ノンストップで開幕するゾンビパニックの最初を飾るのに相応しい、これ以上ない迫力だった。

 だが何より彼女の魅力は、日本でもリメイクされた人気映画『サニー永遠の仲間たち』『怪しい彼女』において見せた、誰もが好きにならずにはいられない天真爛漫な可愛らしさにある。

 『サニー永遠の仲間たち』ではヒロイン・ナミの高校時代を演じた。なによりこの映画の中で愛おしくてしかたがないのは、高校時代のナミの切なく甘酸っぱい青春模様なのである。憧れの人を前に頬を赤らめて言わなくていいことばかり言ってしまうナミが、彼の優しさに浮き足立ってスキップして帰る時、一部始終を見ていた、全く関係のない人々までもがはやし立てる温かさ。ヘッドホンを巡る甘く切ない失恋。ナミのフワフワとした柔らかい、それでいて弾けるような、仲間たちから「タコ踊り」とからかわれるほどの軽やか過ぎるステップは、恋のトキメキと青春の沸き立つような喜びそのものに他ならず、観客の多くが自身の初恋の記憶を重ねずにはいられないのである。

 『怪しい彼女』は突然20歳の姿に若返ってしまった頑固で毒舌な70歳の女性が、青春を取り戻そうとするコメディであるが、シム・ウンギョンは70歳の心を内に秘めた20歳、オ・ドゥリを演じた。しっとりと歌い上げる歌声があまりに素晴らしいのももちろんだが、手に入れた若さという特権を存分に利用して、服装や髪型を変え、コロコロと表情を変え溌溂と日々を楽しみ、若者の予期せぬアプローチに狼狽する様はとにかくキュートである。70歳の心を持つ20歳は、こんなにもピュアで新鮮な存在になり得るのかと納得し、驚愕する。また、彼女がつけた偽名が『ローマの休日』に由来していることから、期限付きの時間だろうことが予測できる切なさも相まって、いつかは消えてしまうヒロインの姿がどうにも愛おしい。

 前述した2作のシム・ウンギョンがあまりに自由で軽やかなのは、どちらもヒロインにとっての「輝かしい過去」を演じているからだ。もしくは、「なりたかった自分」を。

 『ブルーアワーにぶっとばす』のシム・ウンギョンは、その系譜に属する。社会のあらゆる束縛からも重力からも解放されているかのような、不思議で自由な、子供のような存在。彼女の笑顔を見ていたら誰もが好きにならずにいられない。そのしなやかに動く身体全てが、映画そのものであるかのような魅力を持っている。

 一体彼女が何者であるのかは、ぜひ、映画館で確かめていただきたい。(藤原奈緒)

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