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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

左:遠山正道、右:鈴木芳雄

遠山正道×鈴木芳雄「今日もアートの話をしよう」

遠山記念館『古筆招来 高野切・寸松庵色紙・石山切』

月2回連載

第27回

19/10/4(金)

鈴木 今日は、ちょっと足を伸ばして、埼玉県比企郡にある遠山記念館で現在開催中の特別展「古筆招来 高野切・寸松庵色紙・石山切」(10月20日まで)を見にきました。この遠山記念館は、遠山さんのお祖父さまの旧住宅と美術コレクションをもとに、1970年に開館したんだよね。

遠山 うん、そう。ここは祖父の生家でもあるんだけど、それを祖父の母・美以の住まいとして再興させたもの。祖父が1972年に亡くなったから、亡くなる直前に開館したということになる。

鈴木 そして住宅は2018年に重要文化財にも指定されて。

1936(昭和11)年に完成した遠山邸。2018年に重要文化財に指定された

遠山 ありがたいことに。展覧会を行っているこの美術館の建物も変わっているんだけど、これは今井兼次という建築家の最後の建築作品。

鈴木 今井兼次といえば、早稲田大学の建築をかなりやってるよね。いまでも簡単に見られるのは、例えば早稲田大学坪内博士記念演劇博物館や会津八一記念博物館。それに根津美術館も共同設計だけど、1954年に建築してる。今井さんが2代目美術館で、現在の3代目は隈研吾さん。あとは教会をかなり手がけてるよね。

遠山 そうそう。話によると、祖父と今井さんは旧知の仲で、長野県安曇野の碌山美術館の設立に祖父が協力したことが、お願いするきっかけになったらしい。実は遠山家は昔キリスト教徒だったのね。だからキリスト教建築を多数建築していた今井さんは、設計に適任って思ったみたい。

美術館外観

鈴木 なるほど。だから美術館の入り口の上には、天使がいるわけだ。中に入っても、ちょっとオリエントな感じがして、面白いよね。天井にフレスコ画が描かれてたりして。

遠山 ガウディにインスピレーションを受けてるから、そういうのも感じられるかも。ステンドグラスも凝ってて、それは遠山記念館の外の道路から見てみてほしいな。

もちろん住宅も見てほしいけど。

鈴木 住宅は、純粋な日本建築だよね。ここまでの規模のものはもうなかなか残っていない。それを維持して、かつ一般公開もしているというのは本当にすごいこと。でも今回はまず、展覧会をご紹介したいと思います。住宅はまたじっくりと。でもさ、お祖父さまはものすごいコレクションを築いてらっしゃるよね。10000点を超えるとか。

遠山 そうみたい(笑)。

鈴木 そうみたいって(笑)。

遠山 どれくらいのコレクションがあるか、私はよくわかってなくて(笑)。でもすごい量のコレクションがあって、それが世界各国のいろんなものというのは知ってる(笑)。

鈴木 (笑)。学芸員さんのお話によると、日本と中国の書画・陶磁器、人形、染織品、世界の工芸品と染織品など、11000点にも及ぶそう。ちなみにその大半が、染織品というから驚き。それに重要文化財も多数所蔵されているけど、それ以外にも重要な美術工芸品がたくさんあるよね。

遠山 うん、そのうちの3つが、今回のこの高野切たち。

鈴木 そうそう。今回の『古筆招来 高野切・寸松庵色紙・石山切』は、平安時代後期、11世紀中頃から12世紀初めを代表する、仮名の名筆たち。室町時代に茶室の床飾りに使われるようになったんだけど、近代の経済界の数寄者からすごく愛好されるようになった。特に高野切、寸松庵色紙、石山切の3種類は人気が高くみんながこぞって集めたもの。そういったものが遠山さんのところにはいっぱいあるわけよ。で、やっぱり「切」と言ったら、重要文化財の《佐竹本三十六歌仙絵 大中臣頼基》。

遠山 不勉強でごめんなさい、それは?(笑)

鈴木 (笑)。かつて旧秋田藩主の佐竹公爵家に二巻の絵巻物として伝わっていた、三十六歌仙絵巻で、通称「佐竹本」。これがちょうど100年前の1919年に一歌仙ずつ切られて(実際にはつないでた糊を剥がされて)、別々の所有者が秘蔵していたもの。それで遠山記念館には大中臣頼基の切が所蔵されているわけ。まあこの一歌仙ずつ切られたっていうのにもすごいドラマがあるし、このある意味事件を取り巻く出来事もすごく面白いんだけど、そういったことはこの佐竹本三十六歌仙をメインとした展覧会『特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』が、10月12日から京都国立博物館で始まるので、そちらでご覧ください(笑)。

そしてもちろん遠山記念館のも出品されるので、要チェック(編集部注:展覧会は11月24日までだが、《佐竹本三十六歌仙絵 大中臣頼基》は10月29日〜11月24日の期間限定展示)。

遠山 祖父、本当にいろんなもの集めてたんだ。実は私、寸松庵色紙があるってことだけは知ってたんだけど(笑)。でも確かに、さっき芳雄さんが床飾りって言ってたけど、住宅の方には床の間が10ぐらいある。そこに飾ることを考えて、いろいろ集めてたってことだね。小さい頃、いろんな書画が掛けられてた覚えがある。

鈴木 お祖父さまやひいお祖母さまもお茶されてたでしょ? やっぱり時の経済人や数寄者でお茶をされてる方、もちろん茶人にとってもだけど、書画や茶碗といったものはすごく重要で、茶会というものは、自分たちの集めたものをみんなに披露する場でもあったからね。で、いままでは遠山記念館のコレクションで展覧会をやっていたけれども、今回、初めて他館から作品をお借りしての展覧会とか。重要文化財を含む3種の連れが揃った豪華な展覧会になっている。

遠山 出光美術館さんや五島美術館さんからも借りてきて、さらにウチからは《伝紀貫之 高野切 古今和歌集》と《伝紀貫之 寸松庵色紙》と《伝藤原公任 石山切 伊勢集》が出ていると。ごめん。さらにいまさらなんだけど、「古筆」とか「切」っていうのはどういうことなの? 

鈴木 まず「古筆」というのは、古代中世の優れた筆跡のことを言う。そして「切」というのは、掛軸や手鏡なんかに貼りこんだりする目的で、絵巻や冊子だったものが解かれて、切断されて断簡になったもののこと。

遠山 なるほど。で、この3つは人気が高かったと。切られて、楽しむためにいろんな形に設えられたんだ。

鈴木 さっきもちょっと言ったけど、こういったものが需要されるようになったのは、やはり茶道のおかげというか、茶人たちが自分のものにしたいと動いたからだろうね。床飾りにするのにうってつけだし。彼らは自分が持ってるお宝をそう簡単には見せない。

遠山 どういうこと?

鈴木 ここぞ、という時に、自分のお宝を自慢するわけ。ある意味サプライズ。

遠山 それでお客さんが、“おお!! そんなの持ってたの!?”とかってなるんだ(笑)。

じゃあまずこの高野切っていうのは、どういうものなんだろう。

《伝紀貫之 高野切 古今和歌集》遠山記念館蔵
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