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人気絶頂の星野源、魅力は“こじらせ男のかわいさ”にアリ? 『逃げ恥』津崎役から考察

リアルサウンド

16/11/15(火) 16:00

 昨年、紅白歌合戦に初出演し、ミュージシャンとしての地位を確固たるものとしつつある星野源。今年始まったラジオ番組『星野源のオールナイトニッポン』も番組内で語る下ネタが評判を呼んでおり、所属事務所(アミューズ)の先輩で、かつて同じ時間帯で番組を放送していた福山雅治が担っていた“下ネタも言えるカッコいい男”という立ち位置を確立しつつある。

 俳優としては、松尾スズキが主催する大人計画に所属していることもあってか、知る人ぞ知る通好みの役者というイメージだったが、近年では『コウノドリ』(TBS系)や大河ドラマ『真田丸』(NHK)といったドラマに出演し、メジャー感を漂わせつつある。

 そんな星野のメジャー化の決定打となりそうなのが、現在、TBS系で火曜夜10時から放送されているドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(以下『逃げ恥』)だ。本作で星野はガッキーこと新垣結衣と契約結婚をする人間嫌いのサラリーマン役を好演。エンディングテーマの「恋」も担当しており、エンドロールで出演者が踊る「恋ダンス」も大きな話題となっている。

 海野つなみの同名漫画を原作とする『逃げ恥』は、ヒロインの森山みくり(新垣結衣)が家事代行サービスの仕事で知り合ったIT系の会社で働く津崎平匡(星野源)が、ふとしたきっかけから結婚を偽装した契約を結んで同居生活をする物語だ。夫を雇用主、妻を従業員に見立てて、会社のように夫婦の関係をシミュレーションしていく視点がユニークで面白いのだが、当初は契約として夫婦のフリをしていた二人が一緒に暮らしているうちにお互いに惹かれあっていく姿が見ていて実に楽しい。
 

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 みくりと津崎を筆頭に、49歳未婚のキャリアウーマンで、イケメンに偏見のあるみくりの叔母・百合ちゃん(石田ゆり子)や、女に対して醒めているイケメンの風見(大谷亮平)、津崎の上司でゲイの沼田(古田新太)といった個性的なキャラクターが、物語の都合で動くのではなく自分らしく生きているのが一番の魅力だろう。彼らを淡々とした目線で描写しながら、心の奥へと迫っていくのが本作の面白さだ。何より作品の核にあるのは、「感情よりも理性を優先して静かに暮らしたい」という気分ではないかと思う。

 恋愛をフィクションで描くと、感情の昂りを描こうとするあまり、情緒的な物語としてイベント化されてしまい、先日のハロウィンのように、みんなで楽しく盛り上がることが過剰に求められる。そんなムードに対して、うんざりしているが、表立って言うのも「どこか後ろめたい」と思っている“無理して恋愛を楽しんでいるフリをしたくない人たちの気持ち”を代弁しているところが本作の人気の秘密ではないかと思う。

 最終的な評価は、そんな「理性的であろうとする人間の魅力」をちゃんと描けるのかにかかってくるのではないかと思うが、同枠で放送されていた『重版出来!』(TBS系)が原作の魅力を存分に引き出した上で連ドラとしての面白さを生み出していた野木亜紀子のことだから心配は無用だろう。最終的には、うまく着地してくれると信頼している。

 とはいえ、最大の魅力はやはり主演のガッキーと星野源の存在感だろう。サブカル層から一般層へと人気を拡大しつつある星野と、20代後半に入り今までとは違う魅力が開花しつつあるガッキー、そんな旬の二人が共演したことで本作の面白さは倍増している。恋愛ドラマは主演俳優を盛り上げるために、片方が引き立て役になってしまうことが多いものだが、『逃げ恥』はガッキーが見たい男性ファンにとっても星野源が見たい女性ファンにとっても楽しめるものとなっている。こういうキャスティングは滅多にできるものではない。その結果、男女双方のファンがついていることが、『逃げ恥』の強さだろう。

 ガッキ-が演じる森山みくりは、大学院を出たが就職できずに派遣社員として働いていたが派遣切りにあってしまう。淡々と描かれてはいるが、みくりが置かれている状況はかなり過酷で、その姿は痛々しいものがある。漫画では海野つなみの白くて記号的な絵柄によって、深刻さが薄められていたが、ドラマ版ではガッキーのふわっとした振る舞いが、痛々しさを中和している。

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 一方、星野源が演じる津崎には、雇用主でありながらも、どこか頼りなく、それが母性本能をくすぐるかわいらしさにつながっている。津崎は恋愛経験がなく、他人が自分の生活圏に入ってくることを嫌っているタイプだ。

  『電車男』(フジテレビ系)や『モテキ』(テレビ東京系)など、モテない自意識過剰な男性を主人公にした恋愛ドラマが、00年代以降増えており、星野源は『モテキ』の主人公・藤本幸世のモデルとしても知られている。『モテキ』では、モテない男性の心理を露悪的に描いていたが、『逃げ恥』では、男性のこじらせた内面をかわいいものとして取り扱っており、そこに時代の変化を感じる。そんな自意識過剰な津崎のかわいさを、星野は見事に演じきっている。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『逃げるは恥だが役に立つ』
毎週火曜日よる10時〜
製作著作:TBS
原作:海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社“Kiss”にて連載中)
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:那須田淳、峠田浩、宮﨑真佐子
演出:金子文紀、土井裕泰、石井康晴
(c)TBS

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