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竹内涼真がより気になる存在に? 『竹内涼真の撮休』にみる、『撮休』シリーズのマジック

リアルサウンド

20/11/5(木) 20:00

 本作の「前作」と呼んでいいのだろう。WOWOWが2020年3月〜5月に放送した『有村架純の撮休』のレビュー(参考:有村架純以外では成り立たない絶妙な企画 『有村架純の撮休』は二つの点で異色の作品に)を書いた時、自分は同作を「2020年の日本において有村架純以外にはできない絶妙な好企画」と評した。その好評を受けてということか、あるいは新型コロナウイルスの感染拡大以降、人気俳優の「撮休」も当たり前のこととなって、その意味が変わってしまったからなのか(多分それは関係ない)、今回の『竹内涼真の撮休』で早くもその時のレビューは覆されてしまったわけだ。これは、実際に見て確認しなくてはいけない。早速、第1話の「薫るスパイスカレー」の回を一足早く見させてもらった。

 冒頭のお約束シーン、プロデューサーが担当マネージャーに突然翌日が撮休になったことを告げるやり取りから、『有村架純の撮休』とまったく同じ(頼りないプロデューサーを黒田大輔が演じているのも同じ)作りとなっている『竹内涼真の撮休』。全8回という構成も前作を踏襲したものだが、演出陣は廣木隆一、内田英治、松本花奈の3人とも『有村架純の撮休』から一新された顔ぶれなので、当然のようにテイストは異なる作品となるだろう(『有村架純の撮休』は演出家や脚本家によって有村架純のキャラクターだけでなく、作品のテイスト自体が大きく変わっていた)。注目すべきは、第3話と最終回の第8話を手がけている松本花奈、そして今回取り上げる第1話の脚本を手がけている首藤凜と、20代の女性の演出家や脚本家が起用されていることだ。ちなみに、首藤、松本はともに、2019年に山戸結希監督が企画・プロデュースを手掛けたオムニバス映画『21世紀の女の子』にも参加していた。彼女たちが竹内涼真のファンであるかどうかはわからないが、少なくとも「竹内涼真のファン層」の視点というものを理解しやすい場所にいることは想像できる。

 さて、そういう意味では、きっと自分は性別的にも世代的にも「竹内涼真のファン層」の属性からかなり遠い存在ということになるだろう。映画だと『青空エール』や『帝一の國』や『センセイ君主』、テレビドラマだと『過保護のカホコ』(日本テレビ系)や『ブラックペアン』(TBS系)や『テセウスの船』(TBS系)と、気がつけば彼の出演作をこれまでそれなりに見てきてはいるが、自分が竹内涼真「その人」について知っていることは極めて少ない。『青空エール』ではまるで本物のように高校球児の役が様になっていたのに(同作で竹内涼真を初めて認識した自分は、てっきり高校の野球部出身の少年をスカウトしたのかと思ったくらいだ)、本人は東京ヴェルディユースの出身だという意外なエピソードが印象に残っているくらいだ。

 自分の竹内涼真の第一印象は「デカいな」というものだった。特に共演相手の女優が小柄だと、そのデカさは際立つ。念のために所属事務所のプロフィールページを覗いてみたが、185cmとやはりかなりデカい。なんで身体がデカいことがそんなに気になるのかというと、世界の映画界で活躍しているアジア人男性俳優は大体みんな身体がデカいからだ。例えば渡辺謙は184cm、パク・ソジュンは185cm、ソン・ガンホは180cm(ちなみに俳優ではないがポン・ジュノも182cmある)。身体のデカさは、日本の男性俳優、特に若い男性俳優の海外での活躍が限定的なもの(例えばハリウッド映画ではしばしば、日本人のキャラクターなのに日本人の俳優がキャスティングされない)になっている理由の一つで、それを苦々しく思ってきた自分は、若くてデカい日本の俳優を見るとつい期待してしまうのだ。

 そんな竹内涼真の身体のデカさからくる異物感は、『竹内涼真の撮休』の第1話「薫るスパイスカレー」でも存分に強調されている。不意にやってきた撮休日。スーパーで買い物をした帰り道、竹内涼真は以前から気になっていた近所のカレーのスパイス屋に立ち寄るのだが、お店の中に入る際にも身体をかがませないとドアをくぐり抜けることができない。妖艶な雰囲気を漂わせるスパイス屋の店主・薫(小池栄子)は、竹内涼真にお店で料理をしていかないかと誘う。竹内涼真の背中に回ってエプロンの紐をしめながら薫は言う。「大きいね」。それに対する竹内涼真の一言。「すみません、デカいですよね」。

 竹内涼真くらいデカくてハンサムだとその存在感を消すことも難しくて、街を歩けば、すれ違う女性の多くはその人物が竹内涼真だと気づかなくても振り返るだろう。ましてや、その人物が竹内涼真だと気づいたらーー。当たり前の話だが、きっと竹内涼真からは自分のような男には想像もつかないような世界が見えているに違いない。ところが、第1話「薫るスパイスカレー」に出てくるスパイス屋の店主は映画やテレビを見ない生活をしていて、竹内涼真が竹内涼真であることを知らない。そこがこのエピソードのポイントとなる。

 以前、知り合いの独身のミュージシャンがこんなことを言っていた。「自分は自分のことを知っている女性とお付き合いできないんです」。ちなみにそのミュージシャンは国民的とまでは言えないまでも、当時は頻繁にもテレビに出ていたかなり有名なミュージシャンで、「彼のことを知らない女性」という条件は恋愛対象を相当狭めることになるはずだった。さらに言うなら、出不精の彼が「彼のことを知らない女性」と知り合うシチュエーションとなると、こちらはもうほとんど想像がつかなかった。しかし、有名人の一部には、同じような難儀な志向を持つ人が少なからずいるのではないだろうか。

 本当の竹内涼真がどうなのかはわからないが、「薫るスパイスカレー」の竹内涼真は、人気者である自分のことを知らない薫に対して、普段のガードを下げて(それは、入店した時にかぶっていた帽子や眼鏡をすぐにとって素顔を見せることでも表現される)、だんだん惹かれているような様子を見せていく。少なくともこの第1話を見る限り、『竹内涼真の撮休』はメタフィクション的な楽しさを追求していた『有村架純の撮休』よりも、ファンタジー的な要素が強い作品になっていきそうな予感がする。

 このように、「竹内涼真のファン層」とはかけ離れている自分のような人間が見ても、『竹内涼真の撮休』を見ると、見る前よりも確実に竹内涼真が気になる存在となってくる。このシリーズの持つマジックは、そんなところにあるのかもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■放送情報
WOWOWオリジナルドラマ『竹内涼真の撮休』
WOWOWプライムにて、11月6日(金)スタート 毎週金曜深夜24:00〜放送(全8話)
出演:竹内涼真、小池栄子、渋川清彦、藤野涼子、松本穂香、佐野勇斗、佐津川愛美、藤原季節、富司純子、松本まりか、山本浩司、岡部たかし、森川葵、吉村界人ほか
監督:廣木隆一、内田英治、松本花奈
脚本:狗飼恭子、ぺヤンヌマキ、ふじきみつ彦、舘そらみ、松本哲也、玉田真也、竹村武司、首藤凜
音楽:つじあやの
主題歌:平井大「Holiday」(テレビ朝日ミュージック/avex)
制作協力:ホリプロ
製作:「竹内涼真の撮休」製作委員会
(c)「竹内涼真の撮休」製作委員会
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/satsukyu2/

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