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岩田剛典の演技の経験が集約 『名も無き世界のエンドロール』で表現された“人間の変化”

リアルサウンド

21/1/28(木) 12:00

 岩田剛典が裏、新田真剣佑が表、2つの世界でのし上がるバディを描く映画『名も無き世界のエンドロール』が1月29日より公開される。

 行成薫による同名の小説(当初は『マチルダ』という名前であったが改題)を原作とした物語は、クリスマスイブの夜、サンタの恰好をしたキダ(岩田剛典)とマコト(新田真剣佑)が携帯で連絡を取り合いながら、ある計画を遂行しようとしている場面から始まり、ふたりの過去のエピソードに移行する。

 キダとマコトは幼なじみ。そこに転校生のヨッチ(山田杏奈)も加わり、同じ境遇の3人は大切な仲間となり、いつも一緒にいた。やがて3人は高校を卒業し、キダとマコトは自動車修理工場で働く。そこに、政治家令嬢で、芸能界で活躍するトップモデルのリサ(中村アン)が、真っ赤な高級車を直してほしいと依頼に来る。彼女に興味を持ち、食事に誘うも断られてしまうマコト。その日以降、マコトは忽然と姿を消してしまい、キダはその後も自動車修理工場で働いていたが、ほどなくしてその工場も倒産。裏社会の組織で交渉屋として働き、マコトを探し出す。

 主演を務める岩田は、映画の記者会見でキダという役について「ある出来事をきっかけに人間が丸ごと変わってしまうような役でした」と語っていた。確かにキダは、学生時代は心優しく、穏やかなのに、裏社会で働くようになってからは、笑顔も見せない。それ以降は、心を閉ざし、ますます影が濃くなっていく。

 岩田は、演技を始めた頃には、ドラマ『ディア・シスター』(フジテレビ系)のハチや映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』の樹など、陽気で女性に対しても優しいイメージの役が多かった。しかし、『砂の塔〜知りすぎた隣人』(TBS系)のような、一見おおらかで純粋なのに、どこか闇を抱えており、見ているものを裏切る役も増えていった。映画『去年の冬、きみと別れ』やドラマ『炎上弁護人』(NHK総合)、映画『AI崩壊』など、そのうち、ダークな雰囲気を持つイメージの方が強くなってきていたように思う。

 岩田は、本作でも、そんな人間の変化のグラデーションを全開に魅せ、陰と陽の二面性を見事に演じている。キダには、目的を持ったとき、無鉄砲に突き進んでしまいそうな説得力があり、誰かのためにという気持ちが強いことが、その真面目さに拍車をかけているのだろう。そうなってしまうと、高校時代や整備工場にいたときの明るさも、自然と身をひそめる。

 なぜ、キダが変わってしまったのか、その変化が物語の中での重要な要素となっている。キダが微笑んでいられたのは、彼の周りに、信頼できる、家族とも言っていいくらい大事なマコトとヨッチがいたからだ。マコトのしかけるイタズラにいつもひっかかってしまうのも、安心しているからだろう。

 一方、交渉屋としてのキダは、それまでとはまったく逆で、緊張感を持ち、神経をとぎすませているような面が見える。ただ、それでもマコトといるときには、かつてと同じ明るさもあり、そんな瞬間を見ると、キダの本質に変わりはないのだと、岩田の笑顔にほっとさせられるのだ。整備工場時代には、ツナギに頭にはタオル、いつもより髪が長く、ワイルドで、デビュー直後を思い出させる姿が今となっては新鮮で、裏社会に入ってからは、黒の服でいることが多く、暗い雰囲気のある見た目からも、ひとりの人間の変貌を感じさせる。

 キダの物語は映画だけでは終わらない。劇場公開と合わせて配信されるdTVオリジナルドラマ『Re:名も無き世界のエンドロール 〜Half a year later〜』では、映画のラストから、半年後が描かれる。ここからは、ネタバレを避けたい方は、映画を観た後に読んでもらいたい。

 キダは依頼を受けて向かった場所で、ミチルという女性(松井愛莉)に出会う。ミチルから「1日あれば、世界は変わるんだからさ」と告げられるのだが、その言葉は以前、ヨッチが言っていた言葉だった。

 半年後のキダは、さらに深い孤独を抱えているように見えた。所属する組織のトップの川畑(柄本明)から依頼をもらうときには、髪はぼさぼさ、無精ひげ姿で、彼がほとんど誰とも関わらずに過ごしていたことがうかがえる。

 ミチルに対してはじめは、ぶっきらぼうだったキダ。しかし、彼女の遠慮のない、率直さに触れて、学生時代のような顔に戻るようになる。影はあるけれど、その中には優しさや温かさがあり、ドッキリをしかけられて、ニコニコしているような人柄に、もう一度戻る瞬間を見せるのだ。岩田は、“人間が丸ごと変わってしまうよう”な大きな変化を何段階にも渡って自然に、映画からドラマを通して表現していた。

 映画版に続いて登場する組織のトップ役を演じる柄本明は、決してあからさまな威圧感を出しているわけではないのに、ただならぬ空気を漂わせる。そして、ミチルが強制的に働かされている店のオーナーであり、恐怖ですべてを支配しようとしているが、力を誇示しようとすればするほど、どこか弱さを感じさせるケイを演じる金子ノブアキなど、岩田が彼らと向き合うのはかなりの挑戦であったように思う。そして、そんな“凄腕”の共演者から演技を吸収し、自らの芝居を発展させていたのではないだろうか。

 映画、ドラマを最後まで観ることで、キダがどんな生き方を選んでいくのか、彼の奥底に秘められた覚悟がうかがえる。そして、今まで岩田が数々の作品で演じてきた経験がこの一作に集約されているように思えた。ひとつの作品で、さまざまな表情を演じ切り、キダを生きている岩田の姿を見て、ドラマからその先のキダの物語も観てみたいと思った。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■公開情報
『名も無き世界のエンドロール』
1月29日(金)全国ロードショー
出演:岩田剛典、新田真剣佑、山田杏奈、中村アン、石丸謙二郎、大友康平、柄本明
原作:行成薫『名も無き世界のエンドロール』(集英社文庫)
監督:佐藤祐市
主題歌:須田景凪「ゆるる」(WARNER MUSIC JAPAN / unBORDE)
制作プロダクション:RIKIプロジェクト、共同テレビジョン
配給:エイベックス・ピクチャーズ
(c)行成薫/集英社 (c)映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会
公式サイト:https://www.namonaki.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/namonaki2021
公式Instagram:http://instagram.com/namonaki2021

■配信情報
『Re:名も無き世界のエンドロール~Half a year later~』
dTVにて、1月29日(金)21:00独占配信
出演:岩田剛典、新田真剣佑、松井愛莉、山田杏奈、石丸謙二郎、金子ノブアキ、柄本明
原作:行成薫『名も無き世界のエンドロール』(集英社文庫)
総監督:佐藤祐市
監督:菊川誠
脚本:相馬光
主題歌:須田景凪「ゆるる」(WARNER MUSIC JAPAN / unBORDE)
(c)行成薫/集英社 (c)映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会
公式サイト:https://namonaki.jp/dtv/

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