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声優音楽の“今”は、一体どうなってる? 元祖・林原めぐみから新人注目株・イヤホンズまで徹底解説

リアルサウンド

19/10/19(土) 8:00

 声優とはその名の通り、声の芝居に特化した俳優のことを指す。アニメーション作品における声の出演が彼らにとって最もポピュラーな活動の場となる。しかし彼らは“声のスペシャリスト”だ。アニメのみならず、ゲーム作品のキャラクターボイスや、外国映画および海外ドラマの吹き替え、ナレーション、ラジオのパーソナリティなど、いわゆる“プロの声”が求められるありとあらゆる現場がすべて彼らの戦場となるのだ。

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 さらに言えば、本来は役者であるはずの彼らが近年、歌手としても活動するケースが珍しくない。むしろ、ある程度以上に名前が売れていながら歌手活動をしていない声優を探すほうが難しいほどで、声優の仕事の中に「歌」が含まれることに疑問を持つ人など、現代ではほとんどいないだろう。

 特筆すべきは、その多くが音楽的にハイクオリティであり、アニメファンや声優ファンのみならず、熱心な音楽ファンからも好意的に受け入れられている点である。本業ではないはずの音楽というフィールドで、なぜ彼らは質の高い仕事をすることができるのだろうか。

●声優アーティストの誕生
 近年ではあまり使われなくなったが、“声優アーティスト”という言葉がある。声優でありながらアーティスト活動、つまり音楽活動をしている人たちをそう総称した。声優と歌手を兼任する活動形態自体は、古くは潘恵子の時代から脈々と受け継がれていたものではあるが、明確に“声優アーティスト”という言葉および概念を定着させたオリジネイターは、林原めぐみであると考えられる。

 『らんま1/2』の女らんま役や『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ役、『名探偵コナン』の灰原哀役、『ポケットモンスター』シリーズのムサシ役など、数々の当たり役で知られる林原。1989年にOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』のイメージソング「夜明けのShooting Star」を歌ったことでシンガーとして注目を浴び、同年にシングル『約束だよ』でCDデビューを果たしている。以降、本人名義でヒット曲を連発する人気シンガーへと成長していった。

 それまで声優の歌手活動と言えば、あくまでアニメのキャラクターとして90秒間の主題歌やノベルティ的な立ち位置に過ぎないキャラクターソングを歌う程度のものでしかなかった。もちろん前述した潘や、のちの笠原弘子など、必ずしもアニメ用ではない楽曲を本人名義で発表していた先人もいるが、声優業と音楽業の両方でビッグビジネスを成立させたケースは林原が最初だ。事実、彼女の成功を契機に“声優アーティスト”の数は一気に増え始める。同時期に人気を博した椎名へきるや國府田マリ子らの活躍もあり、それは“シーン”と呼べるほどの規模に拡大していった。

 なお、林原以前にも飯島真理というビッグネームが存在するが、彼女の場合、声優としての活動はほぼ「超時空要塞マクロス」のリン・ミンメイ役のみ。人気アニメの主要キャラクターを長く務めたことも、歌手として偉大な足跡を残したことも事実だが、「声優と歌手を両立していた」とは言い切れない部分があるため、ここでは先駆者と定義しない。

●ラウドロック王政が敷かれる
 声優で初めてソロ歌手として日本武道館公演を行った椎名を始め、同じく初めて『NHK紅白歌合戦』に出場した水樹奈々らは、主にヘヴィなラウドロックサウンドで人気を博した。その影響からか、90年代から00年代にかけての“声優アーティスト”シーンはメタルサウンドが主流であった。同時にアニメソングシーン全体でも同様のサウンド傾向が支持されるようになり、10年代も終わりを迎えようかという現在でもなお、“ベタなアニソン”と言えば「歪んだギターと重いビートで進行するテンポの速いマイナーキーの曲」を指す場合がほとんどだ。

 そうした音が好まれた最大の理由は、ライブが盛り上がりやすいことだろう。非日常性が求められがちなアニメ世界との相性がよかったという側面もあるが、声優の音楽ライブはアイドル現場にも似たところがあり、「観客がいかに騒げるか」が重視される傾向にある。ペンライトを振りながら「オイ! オイ!」と勇ましいコールを入れて激しくヘッドをバンギングするためには、アップテンポの8ビートが最も効率的だ。さらに、声優ならではの歌声の太さや伸びやかな高音を最大限発揮するという目的においても、ハードでシリアスな音像は効果的に機能した。

 そうして形成された声優ラウドロックの土壌は、のちの平野綾や喜多村英梨、LiSA、藍井エイルなどにも引き継がれていき、長きにわたって多くのアニソンファンたちを熱狂させ続けている。

 それと同時に、田村ゆかりや堀江由衣に代表されるような80年代的アイドルポップおよびテクノポップ、ファンタジー&シアトリカルポップ路線も一定の支持を得ていた。いわゆるロリータボイスとの相性が抜群であること、ヘヴィロックと同様にファンがオタ芸を打ちやすいことなどがその理由と考えられる。「ライブで燃える」こともさることながら「萌える」ことも重要視されていたからだ。この路線は桃井はるこに受け継がれたことでシーンとして確立され、三森すずこ、小倉唯、春奈るなといった直系のフォロワーを生み続けている。

 いずれにせよ、“声優アーティスト”シーンにおいてライブ現場での機能性が極めて核心的な要素として重用されていたという事実に、疑念を差し挟む余地はない。

●我が道をゆく坂本真綾という“異端”
 そんな中で、水樹らとほぼ同時代に若干の異彩を放っていたのが坂本真綾だ。決してライブでの機能性を軽視していたという意味ではないが、どちらかというと録音作品としてのクオリティを重視した楽曲で高評価を獲得した。菅野よう子プロデュースによる緻密で繊細な音楽世界と、それを余すところなく表現しうる坂本のボーカリストとしての力量が相まって、まるで「本業のミュージシャンが全力で作りあげたアルバム」であるかのような高品質な音楽作品をシーンに送り出したのである。彼女自身の歌声は、シリアスで英雄的なものでもなければ、妹系ロリータボイスとも一線を画していた。どこまでもナチュラルでヒューマンな温かみを持ち、それでいて芯の強さを秘めた、青い炎のような独自の魅力を当初から持ち合わせていたのである。

 これがこだわりの強い音楽ファンたちの心を捉え、「歌い手が声優であるかどうかなど本質的な問題ではない」「重要なのは音楽が優れているかどうかだ」というフラットな目線を呼び込んだ。それまで「所詮声優さんの副業でしょ?」という色眼鏡で見られがちだった“声優アーティスト”界は、彼女の音楽が知られていくことで徐々に偏見から解放されていったのである。また、のちに世界的に再評価されていくこととなるシティポップやジャパニーズAORを丁寧に歌い続けていた“ポスト飯島真理”こと牧野由依の存在も、決して無視できないだろう。この路線は、のちの中島愛などに受け継がれていくことになる。

●アニソンがチャート侵略を開始
 風向きが変わったことで、00年代~10年代にかけてもうひとつ重要なパラダイムがシフトする。90年代にサブカル界隈で人知れずハイセンスな音楽を作り続けていた“渋谷系”アーティストたちが、声優業界に流入してきたのだ。最も象徴的だったのは、ROUND TABLEの北川勝利が花澤香菜を、元Cymbalsの沖井礼二が竹達彩奈を担当したこと。それ以外にも、クラムボンのmitoや空気公団、カジヒデキ、元Love Tambourinesの宮川弾など、そうそうたる面々が声優プロデュースを手がけ始めたのである。余談だが、このムーブメントは一部で“アキシブ系”などと呼ばれることもあった。

 2009年に『けいおん!』が大ヒットしたことも追い風となった。それまでアニメ作品のノベルティに過ぎなかった“キャラソン”にも新たな意味が付与されていく。同作においては、キャラソンとしてリリースされる楽曲の多くは劇中で主人公たちのバンドが演奏するためのオリジナルナンバーという位置付け。それまで誰の胸にも引っかかっていた「どうしてアニメキャラが歌を歌うのだ?」という違和感を、本作は完全に解消してみせた。「バンドのメンバーが歌を歌うことに何か問題でも?」と全アニメファンが“納得”し、安心してCD作品を購入すべくショップに押し寄せたのだ。

 この手法はその後の『Angel Beats!』や『ラブライブ!』シリーズ、『THE IDOLM@STER』シリーズなどに受け継がれていった。劇中で歌われるさまざまな楽曲の多くがヒットチャートを席巻し、劇中アイドルユニットであるμ’sやAqoursは、のちに紅白出場を果たすまでになっていく。

●花澤、竹達、悠木が残したインパクト
 2013年、画期的なマスターピースが産み落とされる。花澤の1stアルバム『claire』だ。オーガニックなバンドアンサンブルと流麗なストリングスを中心とした、さわやかでスタイリッシュなテンションコード多用サウンド。そこに、花澤の朴訥としたコケティッシュボイスがふわりと乗り、情念を排除したような淡々とした歌い回しで高度にメロディアスな旋律が奏でられる。花澤の持つ独特なファンシーボイスを最大限魅力的に響かせるべく、緻密に計算し尽くされた音像が歌声を包み込んでいく構造は、“声優アーティスト”シーンにおいてエポックな存在感を示した。ライブ現場でファンに求められる音像ではなく、花澤というボーカリストを生かしきるために構築された音像には、これ以上なく強い意思と説得力が含まれていた。

 このアルバムを聴いた音楽畑の人たちの多くは、おそらく「なぜ今までこれをやるやつがいなかったんだ?」と地団駄を踏んだことだろう。時を同じくして、竹達は「まんまCymbalsじゃん!」という楽曲を見事な“あやち節”に染めあげる強力なボーカルで『apple symphony』と名付けられた名盤を華麗に提示してみせた。とくに、竹達本人の焼肉に対する異常な執着を歌詞に昇華した楽曲「ライスとぅミートゅー」は白眉で、音楽表現としての純度とライブ現場での機能性とを高いレベルで両立させた、ミラクルな1曲となっている。

 そうした動きを横目に見ながら、今度は「声優自身がやりたい音楽をやりたいようにやる」勢も登場してくる。世の中とは、得てしてそういうものだ。竹達とpetit miladyとして2人組ユニット活動をともにする悠木碧は、時系列は若干前後するが、2012年に1stミニアルバム『プティパ』を発表。「箱庭の中の移動遊園地」というファンシーに過ぎるコンセプトを掲げて制作された本作は、全編を通じて売れ線の“う”の字も出てこない趣味全開サウンドのオンパレードだった。聴く人を極端に限定してしまう方法論でありながら、音楽表現としての純度と品質は異常なまでに高い。あまりに純度が高すぎたせいで、彼女の熱心なファンですらどう受け取っていいものか戸惑ったほどであるという。

 花澤、竹達、悠木の3名が音楽シーンに与えたインパクトは大きい。これにより、かつてぼんやりと存在した「声優が歌いそうな音楽ジャンル」という概念は完全に形骸化した。さらには、この頃から声優が歌うこと自体も一般化しきった感があり、これ以降“声優アーティスト”という用語が使われる機会は激減していったのだった。ほとんどの声優が“声優アーティスト”とニアリーイコールになったため、用語として使い分ける必然性がなくなってしまったのだ。

●「聴くものがない」はあり得ない
 かつては役者の副業でしかなかった声優という職業。その声優の専任プロ化が進んでからは、あくまで付随する作業として生じるだけだった歌の仕事。それが今となっては、声優を志す若者たちの多くが「大きなステージで歌いたい」となんの迷いもなく発言するような時代にまでなった。

 そんな現代において、ここ5年以内にデビューした新人の中から注目株を挙げるとすれば、まずイヤホンズを外すことはできないだろう。高橋李依、高野麻里佳、長久友紀からなる3人組ユニットで、“攻めた”音楽性が最大の魅力。それぞれの個性的な声質を必要以上に生かす楽曲の完成度は、音楽好きであれば一聴の価値がある。ライブパフォーマンスにも定評があり、ワンマンの会場規模は順調に拡大中だ。

 同じく3人組のTrySail(麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜)も要チェック対象だろう。ユニットとしての音楽活動もさることながら、各人のキャラクター性に寄り添ったそれぞれのソロ作品の質もやけに高い。それらすべてをまとめてひとつのプロジェクトとして捉えれば、さまざまな音楽性を多角的に違和感なく楽しむことができる。

 ほかにも、鳴り物入りでデビューした大型新人の結城萌子(ex. 綿めぐみ)、『けものフレンズ』の尾崎由香、Aqoursのメンバーとしてすでに大人気の逢田梨香子や斉藤朱夏など、スター声優候補が続々と出てきている。今この瞬間にも、次々に逸材が世に放たれていこうとしているはずだ。「最近、聴くものがないんだよね」とお困りの音楽ファン諸氏に対しては、むしろ今はチェックすべき新人声優が多すぎて時間が足りないくらいだという現実を声高にお伝えしたいところだ。(ナカニシキュウ)

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