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Official髭男dism「I LOVE…」レビュー:歌詞やメロディでヒゲダンが伝える“逡巡”こそが面白さに

リアルサウンド

20/1/28(火) 7:00

 「Pretender」「宿命」などのヒットシングルで着々と人気を拡大し、アルバム『Traveler』も好調なOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)。2019年末の紅白出場も経て波に乗ったタイミングでリリースされた最新曲「I LOVE…」も素晴らしい出来だ。

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 実は自分がこの曲を最初に聴いたのは買い物をしていた店内なのだけれど、イントロのど頭から意表を突くような「ダダダ」というスタッター(もともと「どもり」という意味の言葉で、音声を編集して細かく反復させること)が使われていることにとても驚いた。特に冒頭の部分となると、頭出しのミスやデータの不備といったアクシデントに間違われかねない演出だし、よくやるものだと思う。

 といったギミックはおいておくとして、楽曲全体に耳を傾けると、ゆったりとしたテンポのバラードながらビートが強調されてダンサブルだ。身体でリズムをとりたくなるようなグルーヴ感は、大胆な余白の使い方や雄弁なベースラインもさることながら、スタッターやハイハットに聞かれる細かい音の刻みが倍のテンポを示唆していることに由来するだろう。

 この曲の一番の面白みはそれだけではない。「じらしきる」とでも言うべきか、独特なカタルシスへの導き方が、楽曲全体がつくりだすドラマに聴き手を惹きつける役割を果たしている。それは楽曲の構成においても、歌詞においても同様だ。

 「I LOVE…」の構成を頭から追っていくと、”A-B-C-A-B-D-B-E”となっている。このうち、サビにあたるのはBだ。C・DはAやBとは独立したメロディを持つ部分で、最後のEはBをふまえながら楽曲全体にオチをつける、いわばエピローグ的な部分といえる。このように俯瞰すると、この曲は「1番、2番……」というポップスでよくある定番の構成(あるいは、ツーハーフと言われる、A-B-C(サビ)を2.5回反復する構成でもいい)ですっきり区切ることがちょっとむずかしい。

 Aメロを経てサビに入ると独立したパート(C)が入り、二度目のAメロを経てサビに入ったあとにまた独立したパート(D)が入る。各パートの内部には印象的な反復(Aの〈I Love I Love〉のリフレインや、Bの〈高まる愛の中 変わる心情の中〉のように対句にも似たレトリックなど)がたくさん仕込まれているあいだに、あえてこういう言い方をするが、「寄り道」が挟み込まれている。ずっと反復しつづけるのでも、前に進んでいくのでもなく、進みそうで進まない。「まっすぐ行けよ!」と言いたくなるが、そうまっすぐ進んでいられないような逡巡自体がこの曲の伝えんとするものでもある。

 これと対照的な例として、King Gnu「白日」を挙げてみる。「白日」も結構な長尺で凝った構成ではあるものの、構成を書き下してみると、Cをサビとする”A-B-C-A-B-C-D-B-C”。ツーハーフ(A-B-C×2+αでシメ)の構成になっている。そのうえ、各パートでリズムの刻み方が丁寧にアレンジされて雰囲気をがらっと変え、井口理と常田大希のツインボーカルがパートごとの物語上の役割をきれいに分担している。それゆえ、場面が多いのに意外なほど見通しが良いのだ。リスナーをすごく丁寧にカタルシスへと導いてくれる。

 「I LOVE…」はシンプルに反復しているようでいて、ちょっとずつメロディを展開させたり、独立したパートを挟んだりしながら、じわじわと違うところへと連れて行かれるようだ。「Pretender」には〈君は綺麗だ〉のようなパンチラインがあったけれど、「I LOVE…」はいい意味でそうした強いパンチラインがなく、楽曲を通して聴く経験自体がもっとも印象に残る。殺し文句はないのに、聴いた後のインパクトはディープだ。

 歌詞についても、同じようなことが言える。「I Love…」までは言えても、「you」とまでは言えない語り手たる「僕」の逡巡が延々とつづられ、楽曲の最後を迎えてもついぞ語り手は「I Love you」という言葉自体は歌わない。堂々巡りのように続くモノローグの果てに、〈その続きを贈らせて〉と叫んだあと、最後の一行でさりげなく〈受け取り合う僕ら〉と視点が転換する(単数の「僕」が複数形の「僕ら」に、一方的な「贈る」が双方向的な「受け取り合う」に)ことで、聴き手はうっすらと「I Love you」のやりとりを想像するに至る。

 楽曲のうまみを決定的なワンフレーズやわかりやすいカタルシスへと回収しないのとパラレルに、語り手もある一言には決して単純にたどり着かず、さらには聴き手にはその言葉が隠される。細切れの部分には還元されない、一言で要約しきれない、このまだるっこしくもある道のりは、歌詞のなかに織り込まれた〈句読点のない〉という表現がまさにしっくりくる。この曲はまるで部分を持たないひとつらなりの文のようだ。そんなこの曲の特徴が、パンチラインを消費するのに抗うように、あるいはまっすぐな物語を迂回するかのように、名前のない夜のなかへとリスナーを導くのだ。(imdkm)

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