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第64回岸田國士戯曲賞授賞式がKAATで開催

ナタリー

20/9/22(火) 1:12

第64回岸田國士戯曲賞授賞式より、左から谷賢一、市原佐都子。

第64回岸田國士戯曲賞の授賞式が昨日9月20日に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて行われた。

岸田國士戯曲賞は白水社が主催する戯曲賞。第64回の選考会は2月13日に行われ、市原佐都子の「バッコスの信女-ホルスタインの雌」と谷賢一の「福島三部作 第1部『1961年:夜に昇る太陽』第2部『1986年:メビウスの輪』第3部『2011年:語られたがる言葉たち』」の受賞が同日発表された。授賞式は当初、3月31日に東京・学士会館にて行われる予定だったが、新型コロナウイルスの影響により延期となり、昨日、約半年遅れでの開催となった。会場には市原と谷のほか、選考委員を代表して岩松了、岡田利規、柳美里が出席。感染予防のため、参加者は着座して式を見守った。

選考過程について、岩松は「今回受賞されたおふたりの作品は、選考会の最初から高得点を得まして、受賞そのものは割とすんなり決まったと思います。選評にも書かれていますが、2人とも違うタイプだけれどそれぞれ受賞作としてふさわしい、というのが大体の意見でした」と報告。また「市原さんの作品は部分から全体を探っていくタイプ、谷さんは全体の中から細かいところを探っていくタイプ。追求の仕方は違うとは思いますが、それぞれ演劇の先輩たちのいいところを継承し、自らのフィールドを広げていくという意味で、2人とも闘っていらっしゃると思います。これからおふたりの作品がどうなっていくのか、僕自身楽しみです」と話した。

続けて受賞者の2人があいさつ。最初に登壇した市原は、自身がまずは俳優として活動を始めたこと、劇作を始めて9年になること、その間にたくさんの出会いがあったことを語る。また岸田國士戯曲賞には以前にもノミネートされたことがあり、そのときに「選評の中で(選考委員の)平田オリザさんが、『僕は男性だから判断しかねる』ということをおっしゃっていて、それは、自分の劇作の腕以外のところで自分は受賞できなかったと言われたような感じがしてすごくショックでした。今回、本当に(賞が)いただけてうれしいです」と思いを述べる。

また市原はこれまで9年の劇作活動の中で、女性だということで偏見を持たれていると感じたことがあると明かし「この賞も審査員のジェンダーバランスがまだまだ不均衡です。また受賞した人しか審査員になれないというシステムなので、受賞者自体に女性が少ない以上、悪循環に陥っていると思います」と指摘。「今後は私もそういった役割をきちんと担っていけるようにならないといけないと感じています」と真摯に述べた。

さらに市原は、「触れないのは不自然かと思いますので」と前置きし、「今回、選考委員の方のハラスメントの問題もあったと思います。私もハラスメントのようなことをしてしまったことが正直、あります。それで本人に謝ったこともあります。ハラスメント自体、気を付けていかないといけないというのは当たり前ですが、何かしてしまったときに謝れない、認められないということは良くないことだと思っています」と話し、「私は今まで出会った人にいろいろなことを教えてもらい、自分が危ない方向に行きそうになると、常に助けてくれる人がいました。ここに立てたのも、皆さんのおかげだと思います。ありがとうございました」と結び、最後は笑顔を見せた。

続けて谷が登壇。谷は受賞作について「いつか書きたいと思っていた話を、4・5年越しぐらいで書くことができました。ただあまり自分の力で書いた気がしないというか……」と説明。「たまたま私が福島県出身で、たまたま親父が原発の技術者で、たまたま福島というなんの特徴もなかったただの田舎だった一地方が、世界的に有名なFUKUSHIMAになってしまい、たまたま私が劇作家をしていたのでこの題材を書き、それでいただけた賞。本当に福島という土地や人々から題材をいただき、たくさんの犠牲のうえで書かせてもらったものです」と謙虚に述べる。

さらに谷は、今年の3月に福島県双葉町を訪れ、JR双葉駅の新しい駅舎を見てきたと話す。「ニュースではJR常磐線が全線開通し、きれいな駅舎ができて新しい電車が通り、人が通るようになって良かったと報道されていますが、実際には3分も歩くと廃屋が並ぶ無人の土地。まだまだ福島の物語は終わっていないのだと痛感しました。私は福島とのつながりや、一部触れてしまった原発と人類という問題を、一生かけて書き続けるべきかなと思っています。この受賞を1つの励みとして、しかしこれから先の人類にとっての原発問題、生きるということに肉迫できるような作品を書いていきたいと思いますので、ぜひ温かく見守って応援していただければ」と語った。

続けて受賞者への祝辞が寄せられた。市原への祝辞を述べたのは、市原の大学時代の恩師であるTHE・ガジラの鐘下辰男と、市原作品に多数出演している俳優の竹中香子、そして受賞作「バッコスの信女-ホルスタインの雌」を市原と作り上げたアートプロデューサー / 芸術公社代表理事の相馬千秋。

鐘下は市原の才能を称えつつ、「今回の受賞は、当然いつかそうなるだろうと思っていた」と話す。さらに「現在、演劇に限らず芸術一般において創作者が直面している“表現の自由”ということについて、今回の受賞は意味があること。社会がどんな流れになろうとも確固たる表現を」と市原に賛辞を送った。竹中はこれまでの市原とのクリエーションを笑いを交えながら振り返りつつ、「佐都ちゃんは何かおかしいと感じたときに、立ち止まれる劇作家。立ち止まることは苦しいし、時間がかかることかもしれないけれど、これからもいつでも立ち止まってください」と激励した。相馬は市原を「怪物的書き手だと思っていました」と明かし、受賞作については「第1稿を読んで『岸田を獲った!』と確信できました」「ギリシャ悲劇をベースにした作品ですが、古代ギリシャ劇では排除されていた女性や動物、そのほか舞台から排除されてきたさまざまなものを舞台に上げ、非常に複雑ですが、だからこそ真実だと感じました」と説明した。最後に市原へ向けて「市原さんの書く言葉が大好きですが、その言葉はなかなか日常生活では言えない。でもあなたが書く言葉があるからこそ、それを言える人がたくさんいる。ですので、今まで言いたくても言えなかった多くの者たちに、言いたくても言えない言葉をたくさん与えてほしいです」とエールを送った。

次に選考委員の岡田と柳が登壇。岡田は「今はさまざまな意味で状況は大きく変わり、その状況に対するリアクションを、受け身というよりリードする形で、積極的にやっていかなければいけないと思います」と話し、「岸田國士戯曲賞が権威あるものであり続けるためには、先ほどの市原さんをはじめとしたスピーチはすごく大きな力になってくれるだろうと思い、感動しました」と力強く語った。続く柳は、受賞作2作について「正反対のようでいて、人が生きている自然な時間が、政治や経済など大きな力で散り散りになるというところや神話性などが共通しているのでは」と指摘。また「今、演劇がなかなか上演しにくい状況が続いていますが、このような状況だからこそ、劇場のような閉じられた空間で世界を見ることが大切なのでは」と語った。

谷への祝辞を述べたのは、二兎社の永井愛、翻訳家の松岡和子、KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・白井晃。谷とは10年来の付き合いだと話す永井は、これまでの作品の中に「文学的教養の深さを感じました」と言い、受賞作を絶賛。最後に「今後も暴れてね」と谷に笑顔を向けた。松岡は谷が明治大学在学中に手がけた「マクベス」や、2011年に谷が翻訳・演出した「モリー・スウィーニー」で強い印象を持ったと語りつつ、「『福島三部作』は大きな問題に真正面から取り組んだ作品。この作品が岸田國士戯曲賞を受賞し、また今日市原さんのお話を伺って、頼もしい後輩が出てきたなと思い、私は今日とてもハッピーです!」と笑顔を見せた。

最後に登壇した白井は、「KAATで岸田國士戯曲賞の授賞式をさせていただけることが本当にうれしく思っております」とあいさつし、9月24日から「バッコスの信女-ホルスタインの雌」、10月23日から谷の新作「人類史」がKAAT神奈川芸術劇場にて上演されることを紹介する。また「『福島三部作』は現代社会の投影の仕方としてはオーソドックスな作品ですがオーソドックスを超えたエネルギーがある。この力が演劇界には必要です」と続け、さらに「演劇界はコロナによって半年間ストップしてしまいましたが、こういう中でもさまざまな形で書いて来られた方がたくさんいる。そういう方たちもぜひ拾い上げて、第65回岸田國士戯曲賞が開催されることを期待しています」と語った。

第64回岸田國士戯曲賞最終候補作品

・市原佐都子「バッコスの信女-ホルスタインの雌」(上演台本)
・岩崎う大「GOOD PETS FOR THE GOD」(上演台本)
・キタモトマサヤ「空のトリカゴ」(上演台本)
・ごまのはえ「チェーホフも鳥の名前」(上演台本)
・谷賢一「福島三部作 第1部『1961年:夜に昇る太陽』第2部『1986年:メビウスの輪』第3部『2011年:語られたがる言葉たち』」(上演台本)
・西尾佳織「終わりにする、一人と一人が丘」(上演台本)
・根本宗子「クラッシャー女中」(上演台本)
・山田由梨「ミクスチュア」(上演台本)

※作者五十音順。

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