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みうらじゅんの映画チラシ放談

『ミセス・ノイズィ』 『約束のネバーランド』

月2回連載

第51回

21/1/7(木)

『ミセス・ノイズィ』

── 記念すべき2021年の1枚目は、この『ミセス・ノイズィ』です。

みうら やっぱりね、布団って聞くと、あの“騒音おばさん”事件か、田山花袋のどっちかじゃないでしょうか? と、いうかあの騒音おばさんは“布団=田山花袋”の概念を塗り替えたと言っても過言ではありません。で、なんて言いながら布団を叩いてたんですっけ? 確か決め台詞みたいなのがありましたよね。

── 「引っ越ーし! 引っ越ーし!」とか叫んでいたようですね。

みうら ああ、そうです。“引っ越し”といえば昔は引っ越しのサカイと相場は決まってましたけどね。

チラシのキャッチコピーにあるように“一枚の布団”が、ドラマを生んでるんでしょうね。だから、僕はこの映画、いろんな布団が出てくると思うんですよ。

── “その戦いは、一枚の布団から始まった……”って書いてますから、布団も1枚じゃ終わらないという解釈ですね。

みうら でしょうね。チラシに写ってるのが本人の布団なのか、家族の布団なのか分からないですけど、さまざまな布団を干すはずです。

── チラシのオモテ面の写真で持っているのは、もしかして布団叩きじゃなくないですか?

みうら 確かに。普通は布団叩きって乙姫さまの持ってるようなふわふわっとしたリングみたいなのがふたつありますもんね。チラシ裏の写真は普通の布団叩きですけど、オモテ面は、鉄パイプみたいなものを持ってるように見えますね。

これは布団が変わっていくんじゃなくて、叩くものがどんどん過激に変わっていく様を見せる映画なのかもしれませんね。中には大根とかもあって、折れたりもするんでしょうけど、そうやって叩きが試されていく。そして、どんどん身の危険を感じるようなもので叩き始めるってことですよね。

昔、楳図かずおさんの初監督作品『マザー』っていうのを観たんですけど、後に楳図さんに直接お伺いして分かったことがあったんです。片岡愛之助さんが主人公を演じているんですが、その感情を、楳図さんのトレードマークであるボーダーシャツで表現したっておっしゃるんですよ。

それで観返してみたんですけど、確かに場面によってボーダーの線が細くなったり太くなったりしてるんです。ボーダーの幅によって感情までも表現していたんです! たぶんこれもその手法じゃないでしょうか? 叩くものによって、激怒の具合を変えていくんでしょう。

だから普通の布団叩きは、映画の中でも初期の段階の小道具ですよね。あとチラシの裏の写真だと、隣の人と布団を取り合ってますね。これはオモテ面も裏面も同じ布団ですか? 同じかどうかは分からないですけど、かなり似てますよね。

たぶんこの団地には、同じ布団業者が卸してるんじゃないですか? だから「それはウチの布団だ!」っていうことで、取り返そうとしてるんじゃないかな。それは、やっぱり布団業者が同じだっていうところが原因なんじゃないかと。

── でも最近、地元密着の布団屋さんって減ってないですか?

みうら 確かに。でも、あの事件があった頃はまだ、布団をネットで買うとかしてなかったと思うんです。ニトリもそんなに数がなかったですし、きっと近所の同じ布団屋さんで買うしかなかったんじゃないかな。

あ、やはり“マスコミを騒がす大事件に発展”ともチラシには書かれていますね。

── “圧巻のクライマックス”とも書いてありますね。

みうら あくまで推測ですが、ひょっとしてもの凄くおっきい布団が出てくるんじゃないですか? もう見たことがないレベルの。もうマンションの3階から下まで届くような、その列の窓が全部見えなくなるようなでっかい布団が出てきて、それをものすごいでっかい棒で叩くなんて。すごいスペクタクルですよ。

“一枚の布団から始まった”と言う以上は、2枚3枚と増えることは確実ですし、布団叩きも変わっていく。やはりここは、布団にも大小つけていかないと。

── 布団に大小つける映画は、史上初だと思います(笑)。

みうら でも、最近はあまり布団叩きでバンバン叩かなくなりましたよね。もう科学的に効果的ではないということになったんですかね。だから、“今、あなたの常識が試される”という文句は、われわれの“昭和の常識”が試されるということを示唆しているんでしょう。「その常識は昭和の間違いだった!」みたいな。

── まるでお昼のワイドショー番組みたいなお役立ち情報ですね。

みうら ですかね(笑)。やっぱり天気がいいと布団叩きたくなりますけど、実は叩いてもダメなのかっていうことが、オチに繋がってくるかもしれないですね。

── 布団叩きは叩くより撫でるように使うのが正解らしいです。叩くとダニの死骸を粉砕してしまって、余計に体に取り込まれやすくなるのでよくない、と。

みうら ああ、つまり令和の新常識の映画ということですね。

上映するのが新宿武蔵野館だから、映画に合わせてどんなディスプレイをしてくれるかも楽しみです。布団を叩きながら写真が撮れるコーナーは絶対にあると思いますけど、その布団が(新宿武蔵野館にある)木人拳の木人にかかってたらちょっと微妙な気持ちになりそうですね。これは観に行くついでに確かめなければですね。

『約束のネバーランド』

── 次に選ばれたのは、『約束のネバーランド』です。

みうら 『約束のネバーランド』は、僕、最近、珍しく原作漫画を最終巻まで読み終えているんですけど、まあ、よく描かれた漫画なんですよ。僕も一応、漫画家っていうくくりでデビューをしたんですけども、もう昨今の漫画の人は上手すぎて、僕の当時、割りばし削って描いたようなヘタクソな絵とは全然違うんですよね。

これは原作と作画が別の方なので、原作の設定に合わせて描かれているんだとは思うんですけど、風景も、ひとりひとりの登場人物の描き分けも本当に上手くって。売れっ子漫画家だから当然なんでしょうけど(笑)。でも僕、全巻読んだ漫画って『巨人の星』以来だったんで、本当に感心して読んだんですよ。

で、最終巻の帯に“映画化決定!”って書いてあったから、あの漫画をどうやって実写で表現してるのかがものすごく気になってました。こないだ『鬼滅の刃』を観に行ったときに予告編も観たんですが、エマやノーマンたちがちゃんと少年少女なんですね。大人の設定に変えたりせず、ちゃんと漫画に合わせてやってるように予告編では見えました。

昨今、集英社の漫画は鬼に食われたりする話が多いですね。

── 原作を知ってる人は分かってるんだと思いますが、予告編では全然そんな感じはしませんね。

みうら 孤児院を脱出して、敵と戦ったりするんですけど、到底実写では不可能だろうと思ってしまったんですよね。

それこそ昔、楳図かずおさんの『漂流教室』がテレビドラマ化されたときに、やはり漫画のスゴさには勝てなかったことも思い出しましたし。まああの時代はCGもまだまだでしたから、到底無理だったんでしょうけど。でも、その到底無理なものに挑む気概はこちらの好物でもありますので、ぜひ観たいんです。

あと、関係ない話かも知れませんが、僕が子供の頃にテレビで見た『忍者ハットリくん』の実写版なんかはかなり不気味なことになったりしてましたけどね(笑)。

── それは、香取慎吾主演の映画版ではなくて、白黒のテレビドラマの方ですか?

みうら そっちです。特にケムマキの顔が滅茶苦茶怖かったんですよ! 今回の『約束のネバーランド』では、渡辺直美さんも出てますよね。役柄のイメージに近いと思うんですよ。昔だったらえらいことになってたと思うんですけど。今はそういうアレンジもずいぶん自然になった。

ただ、原作は相当長いですから、全部の話を映画でやるのは無理でしょう。どこまで見られるんですかね。どこを端折ってどこを生かしてくるのかも、楽しみにしてます。

── この連載では珍しく、「普通に楽しみにしてます!」っていうお話でしたね(笑)。

みうら でしたね(笑)。たまたま全巻読んでいたからなんですけども。僕、漫画を読んで初めて泣いたんです。ま、“老いるショック”もあるんでしょうけど。映画版が原作のラストまで描いていたら、間違いなく涙のカツアゲ映画になると思いますけどね。

取材・文:村山章

(C)「ミセス・ノイズィ」製作委員会
(C)白井カイウ・出水ぽすか/集英社
(C)2020 映画「約束のネバーランド」製作委員会

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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