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Shohei Takagi Parallela Botanica『Triptych』レビュー:cero 髙城晶平が照らす、此処にいながらも此処にいない音楽の可能性

リアルサウンド

20/4/7(火) 17:00

 ceroの髙城晶平がソロアルバムを制作中であり、それにはプロデューサー/ビートメイカーでシンガーでもあるSauce81が共同プロデュースで関わっているという話を聞いたのは、いつのことだったろう。もう記憶が定かではないのだが、ただその組合せにとても心が躍ったことだけははっきりと覚えている。

 ceroは『Obscure Ride』(2015年)でネオソウルやヒップホップの黒いグルーヴを自然かつ洒脱に採り入れてみせたが、それはアメリカで暮らした経験を持ち、ゴスペルミュージックにもビートミュージックにも取り組んできたSauce81が模索して作り上げたサウンドとも近しいものだった。だから、『Obscure Ride』の翌年にリリースされたシングル曲「街の報せ」の制作にSauce81が参加していたのも、必然的な流れだったのかもしれない。僕はSauce81の活動を以前から知り、その音源をリリースしたこともあるという、客観的な評価を下すにはバイアスの掛かった立場にあることをまず明かしておかないといけないだろう。だが、そうした立場を離れてみても、繋がるべき人達が自ずと繋がって何かが生まれていくのは、音楽が時折見せてくれる最良の出来事なのだと改めて思ったのだ。

 『街の報せ』において、髙城の作曲でSauce81がビートを組み立てた「ロープウェー」は、双方の持つ音楽性が絶妙なバランスでアウトプットされた楽曲に感じられた。深みのあるくぐもった音像と対比的に表層を漂うようなビートが心地良いレイヤーを作り出していく。それらは歌やメロディと同等か、時にはそれ以上に重要な要素として楽曲を形成していた。そして、シングルのジャケット写真のように、何処かで発見されたレトロでオブスキュアなサウンドにも響いた。これは、ceroにとっても、Sauce81にとっても新たなアプローチだったのではないだろうか。

 そして、ceroのアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)に先行してシングルとしてリリースされた12インチ『Waters』にも、何の前触れもなくSauce81のリミックスが収められていた。バンドとしてポリリズムとアンサンブルへの新たなアプローチに舵を切ったアルバムを補完するように、このリミックスはceroの音楽がダンスミュージックとも接続可能であることを証明してみせた。

 そんな経緯を経て、髙城晶平のソロプロジェクトであるShohei Takagi Parallela Botanicaのアルバム『Triptych』が届けられた。まずは一切情報をチェックせずに音に向き合った。1曲目の冒頭を聴いただけで、「ロープウェー」のあの音像が甦ってきた。ギターと歌、コーラスが向こう側から響いて来て、生で叩かれたドラムなのかプログラミングされたのか区別の付かないビートに、やがていくつかの楽器がまとわり付くように演奏を繰り広げていく。空気感やノイズを残した録音やオーガニックでアナログな響きが大切にされている一方で、茫漠とした音響に埋もれることのないアレンジメントが施されてもいる。

Shohei Takagi Parallela Botanica 1st Album “Triptych” 【Official Trailer #1】

 アルバムタイトル曲の「トリプティック」は3曲3バージョンが収められているが、このタイトルはテネシー州ナッシュビル生まれの作家マディソン・スマート・ベルの短編集『ゼロ・デシベル』に収められた同名の3編から採られているようだ。トリプティックとは3枚に分けられた教会の祭壇画(三連祭壇画)を意味し、このアルバムも3曲毎の3部構成を成しているのだが、日没後から深夜、早朝に至る時間帯に沿って個々の物語(楽曲)が形成されている。それは、『ゼロ・デシベル』が描いたアメリカ南部やニューヨークを切り取った物語のようであり、東京の何処かで繰り広げられている物語のようでもある。

 「ジャパニーズ・アメリカーナ」とは、細野晴臣がアップデートしてきたサウンドを評したヴァン・ダイク・パークスの言葉に見つけた形容だが、『Triptych』にもまた「ジャパニーズ・アメリカーナ」が立ち現れてくる。それは東京の郊外で描かれた物語であり、鳴り響いている音楽なのだが、ここにもアメリカーナのアップデートがある。それは、弾き語りもビートメイキングもパーソナルで孤独な表現として成立する時代の、あるいは音響とアンサンブルが新たな両立を成す時代の音楽の有り様でもある。ちなみに、アルバムのマスタリングエンジニアにはトニー・カズンズが起用されている。そのことに少し触れておきたい。数々のメジャー仕事をこなしながら、愛すべきシンガー、ケヴィン・コインや、サイモン・ジェフス率いるPenguin Cafe Orchestraとの関わりを大切にしてきた彼のトリートメントが、最終的に『Triptych』の世界観を完成に導いたのではないだろうか。

 Shohei Takagi Parallela Botanicaの「パラレラ・ボタニカ」とは、イタリアの絵本作家レオ・レオーニが描いた『平行植物』から採られているのだろう。虚実入り混じった奇妙な架空の植物群は、確かにこのプロジェクトの在り方とサウンドを象徴しているのかもしれない。『Triptych』は、此処にいながらも此処にいない音楽の可能性を見事に照らし出しているからだ。

Shohei Takagi Parallela Botanica 1st Album “Triptych” 【Official Trailer #2】

■原 雅明
音楽の物書き。ringsレーベルのプロデューサーやLA発のネットラジオdublab.jpのディレクター、DJやホテルなどの選曲も務める。単著『Jazz Thing ジャズという何か─ジャズが追い求めたサウンドをめぐって』ほか。

■リリース情報
Shohei Takagi Parallela Botanica
1st Album『Triptych』
発売:4月8日(水)
<初回盤(CD+DVD)>
価格:¥3,500(税別)※スペシャルレイヤージャケット仕様
<通常盤(CD)>
価格:¥2,500(税別)
KAKUBARHYTHM / Sony Music Labels Inc.

トラックリスト:
<通常盤・初回限定盤共通>(全9曲収録)
1.トワイライト・シーン
2.リデンプション・ソング
3.トリプティック#1
4.キリエ
5.オー・ウェル
6.トリプティック#2
7.ミッドナイト・ランデヴー
8.モーニング・プレイヤー
9.トリプティック#3

<初回限定盤付属DVD>
「Triptych interview and gig」

『Triptych』特設website

■店頭特典
Amazon.co.jp:デカジャケット
TOWER RECORDS全店(オンライン含む/一部店舗除く): オリジナル・ステッカーシート
セブンネット:オリジナル木製キーホルダー
その他対象店舗:オリジナルポスター 

■ライブ情報
『Shohei Takagi Parallela Botanica
“Triptych” Release Party』
4月17日(金)大阪・梅田Shangri-La
OPEN 18:30 START 19:00
価格:4,200円(D代別)
Guest Act:角銅真実
問:SMASH WEST 06-6535-5569

4月25日(土)東京・渋谷WWWX
OPEN 17:15 START 18:00
価格:4,200円(D代別)
Guest Act:角銅真実
問:SMASH 03-3444-6751

企画:カクバリズム
協力:Sony Music Labels Inc.
制作:SMASH
総合問い合わせ:SMASH 03-3444-6751(https://smash- jpn.com/)
※小学生以下チケット無料(要保護者同伴/保護者1名につきこど も1名まで)
 
cero Official Web Site
カクバリズム Official Web Site

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