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第3回:しりあがり寿が語る葛飾北斎と映画『HOKUSAI』の魅力

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自らを《画狂老人》と称し、90歳で世を去った江戸時代の画家、葛飾北斎。

LIFE誌が「この1000年で偉大な業績を残した人物100人」に選ぶなど、世界的な人気も高い天才の生涯を描いた映画『HOKUSAI』が公開される。

北斎の浮世絵をパロディにした展覧会を開くなど、現代美術家としても活躍するマンガ家、しりあがり寿さんが、独自の視点から見た“北斎”について語ってくれました!

自分もあの頃の江戸にいたかった

── 映画『HOKUSAI』をご覧になっていかがでしたか?

あの頃って、江戸で大衆文化が花開いた頃だよね。江戸にいろんな人たちが集まっていて、その熱気が伝わってきて楽しかったですよ。北斎がいて、歌麿がいて、写楽もいて。映画には出てこなかったけど十返舎一九も同じ頃に大阪から江戸にやってきていて、みんなが蔦屋重三郎の周りに集まっていた。あの頃の江戸に自分もいたかったって思うよ。

でも、今でもそういうことってあるよね。庵野(秀明)さんたちがいた頃の大阪芸大とかさ。マンガだったらトキワ荘がそうだし、吉田戦車さんと中川いさみさんと朝倉世界一さんが一緒にやってたり。そういう時代の熱気みたいなものがこの映画からも感じられて良かったよね。

僕は多摩美の漫研にいたんだけど、若い時の一時期はそうだったかも知れない。自分たちが世界で一番面白いっていう幻想に囚われた、幸せな時期だったよね(笑)。実際、人生のほんのひとときだけだけど、これが面白いなと思ったら時代も面白がるというか、シンクロする時期があってさ。でも北斎は、そこから始まって、さらに時代を超えていった人だと思うけどね。

── しりあがりさんは、何がきっかけで北斎に関わるようになったんでしょうか?

すみだ北斎美術館ができた時に、オープニングのトークで呼んでもらったのね。『真夜中の弥次さん喜多さん』みたいな作品を描いてたんで、きっと江戸時代に興味あるんだと思ってくれたんじゃないかな(笑)。

そのツテもあって、次の年には「一週間だけ空いてるから、そこで何かやりませんか」と言ってもらって、「富嶽三十六景」を全部パロディにした展示会をやったんですよ。三十六景っていいながら46枚あるんだけど、その全作品のパロディを作っちゃった。だから、もともと浮世絵は好きだったんだけど、ちゃんと北斎に興味を持ったのは美術館と縁ができてからですね。北斎のすごさについては、正直、後追いで知りました(笑)。

今はすみだ北斎美術館でさらに拡大した展示(「しりあがりサン北斎サン -クスッと笑えるSHOW TIME!」)をやっていて、さらに倍くらい作品を作ったんだけど、今はコロナで中断してるんだよね(すみだ北斎美術館は5月いっぱい休館の予定)。

しりあがり寿の考える北斎の魅力

── しりあがりさんにとっての北斎の魅力って何でしょうか?

ひとことで言えば、ものすごく絵が好きなことだよね。もちろんお金とか名誉も嫌いではなかったと思うけど、とにかくよく絵を描いてる。今知ってる人で言ったら寺田克也さんかな~? 寺田さんなんて、列車の中でもiPad開いて絵を描いてる。飯を食うにしても、まず食う前に絵に描いてる。好きじゃなきゃあんなに描けない。僕なんて、絵を描くより飯食ったりゲームしてる方が好きだしさ(笑)。

とにかく北斎ってなんでも描いていて、映画にもあったけど、美人画は苦手だったかも知れないのにやっぱり挑戦する。人間なら「北斎漫画」でいっぱい描いてるけど、やっぱり上手だし。自然のものだけじゃなく機械みたいなものも描いてるし、「新形小紋帳」では服の模様なんかも描いていて、デザイン的なことまでやっている。本当にレオナルド・ダ・ヴィンチみたいだよね。

── 映画では、北斎という人を権力への反骨精神の象徴として描いている部分もありましたね。

今の時代に映画にすることで、北斎を通じて伝えたかったメッセージはすごくよくわかる。実際、絵を描いていても、ちょっと狭っ苦しいというか、息苦しさは感じることはよくあるよね。ただ、僕自身の見方としては、北斎は社会からもうちょっと距離をおいていたというか、絵以外に関心がないというか。

有名な逸話だけど、将軍の前でザーッて青い線を描いて、鶏の足に赤い絵の具を付けてその上を歩かせた。それで「紅葉が散りました」って言ったら将軍にウケたって(笑)。絵が描けるなら相手が権力でもかまわない人だったんじゃないかな。

── しりあがりさんの北斎像は、昨年に新国立美術館で発表されたアニメーション作品で表現されているんでしょうか?

いやいや、あれもまあ一面ですよね。北斎は巨大過ぎて捉えきれないです。

── でもあのアニメも壮大でしたよ。四畳半で北斎が目覚めるところから始まって、プロジェクションマッピングでイメージの奔流が壁全体、部屋中へと広がっていく。

壮大だったよね。あんな狭い四畳半で、あんな広がりのある絵を描いていたってことが言いたかったんだけど、アニメの内容だけで勝負するのはしんどいから、そういうガワの部分でなんとなくもたせたって感じだけど(笑)。

北斎はとにかく“絵が大切な人”

── しりあがりさんは何歳くらいまで絵を描いていけそうですか?

ふにゃふにゃした絵は描いていきたいんだけど、ちゃんとした絵はもう辛いんだよね。マンガなんてとにかくコマ割らないといけないから、まっすぐな線を引くのがもう嫌で嫌で……。ベタを塗るのも最近は筆じゃなくデジタルでやるんだけど、どこかに線の隙間があって、全体が真っ黒になるの。あの時の辛さってないよ! デジタルだから元に戻せるけど、精神にはかなりのダメージが残ってるんです。

映画の中で、北斎の家がくしゃくしゃの紙でいっぱいになってるんだけど、あの気持ちは本当によくわかります。絵って、描き進めるかどうかを即時に判断しないといけないんだけど、気分がダメな時って本当に何描いてもダメに思えて、すぐにくしゃくしゃって捨てちゃうんだよね。

── 北斎にも老人になって「ネコが上手く描けない」って泣いたというエピソードありますね。

北斎が上手く描けないって泣くんだったら僕らなんてどうすればいいんだろね(笑)。でもそうやって、ずっと納得や満足をしなかった人なんだろうね。自分なんか本当にどうでもよくて、北斎ってとにかく絵が大切な人だったんじゃないかな。

『HOKUSAI』
5月28日(金)公開

(取材・文:村山章 撮影:杉映貴子)

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

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