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君島大空が合奏で『縫層』に宿した圧倒的な生命力 配信ライブ『層に電送』レポート

ぴあ

君島大空 遠隔夜会『層に電送』 写真 / 垂水佳菜

11月11日リリースされた君島大空の2nd EP『縫層』。その発売を記念したライブが、恵比寿リキッドルームからの生配信で行われた。同作の収録曲を中心に全14曲が演奏されたライブは、傑作『縫層』の制作によって培われたバンドのコンビネーションに無観客だからこその濃密な空気感が合わさって、圧倒的な躍動感と生命力を感じさせるものとなった。

フロアの中央に置かれたランプを囲むように円になった、ドラム・石若駿、ベース・新井和輝、ギター・西田修大、そしてヴォーカル・君島大空。ふと、君島が静かにギターを弾き始める。そして聞こえてきたのは「光暈」だ。君島の独奏で歌われるこの曲の震えるようなナチュラルビブラートが、朝日のような白い光が4人を照らし出すなか響いていく。続いては君島の声に重なるデジタルクワイアがどこか厳かな空気を生み出していく「旅」。まるで長いロードムービーのサウンドトラックのような2曲が、ライブの幕開けを告げるように鳴らされる。


写真 / 垂水佳菜

そして、地鳴りのような、あるいは雷鳴のようなベースやドラムが鳴り渡り、森の闇に棲む生き物の声のようなギターの音色が聞こえてくると、そのすべてをかき消すかのように美しいアルペジオが聞こえてくる。力強いビートが打ち鳴らされて突入したのは「傘の中の手」だ。『縫層』の冒頭展開そのままに並べられた2曲が、ますますディープで豊かな音楽の世界へと観る者をいざなっていくようだ。跳ね回るメロディに同調するかのように、君島は笑顔を浮かべて歌っている。

「こんばんは、君島大空、合奏形態でございます。イェイ!」。3曲を終えた君島が、そんな軽い感じで挨拶し、「どうですか?」とメンバーに声をかける。そんな君島の言葉に「楽しい」と応えたのは新井だ。じつは前々から決まっていたというリキッドルーム公演。結果的に配信という形になってしまったが、それでもできてよかった、と君島は喜びを口にする。

MCのそんなカジュアルなノリとは裏腹に、セットリストは1曲ごとに君島大空の音楽に込められた想像力を徹底的に暴き立てていく。複雑怪奇な展開の中ノイズと変拍子の応酬が激しく燃え上がる「笑止」、一転して穏やかで涼やかな世界の深みへと入り込んでいくような「19℃」。美しくも哀しみを帯びたハーモニーがメランコリーとみずみずしさ、相反するような感触を描き出していく。「しゃべることがたくさんんあったような、何にもなかったような。見られている気がするような、しないような」。このライブの不思議な感覚をそう言葉にすると、やったことがないというメンバー紹介へ。君島が名前を呼ぶと3人はそれぞれ「お願いします!」と叫ぶ。気心知れたミュージシャン同士、いい空気が生まれている。

変幻自在かつ屈強なアンサンブル、『縫層』未収録の新曲披露も

君島と西田のギターの重なりから始まった「散瞳」ではタイトなビートとベースのリフレインがフュージョン的なスリルを生み出していく。変幻自在のテンポとリズムと一体になった君島の歌が、楽曲の器楽的な豊かさを存分に発揮している(君島の歌は、まるでオーケストラのフルートみたいだ)。そして新井の弾くベースとドラムのインプロビゼーションから流れ込んだのは「火傷に雨」。青い光がステージに満ち、どこまでも広がっていくようなスケール感を感じさせるサウンドが鳴り渡る。『縫層』の楽曲たちが、音源で聴く以上の肉体性をもって躍動している。

新作のタイトルトラック「縫層」で大胆な風景の展開のなかさらにテンションを高めると、君島の爪弾くギターが空気を一変させる。そして始まったのは「午後の反射光」だ。バンドサウンドがメロディと歌をドラマティックに盛り上げる。阿吽の呼吸でリズムを乗りこなしながら、感情の上下動を繰り返す君島とメンバー。頭上ではミラーボールが煌めき、落ち着いたなかにもダイナミックな風景を描き出してみせる。おそらく君島の曲はすべて、彼のとてもパーソナルな場所から生まれたものだ。にもかかわらず、こうしてバンドで鳴らされ、配信とはいえ多くの人の目と耳にさらされることで新たなパワーを得る。当たり前といえば当たり前だが、楽しげに音と戯れる4人の姿を見ていると、ライブという場のもつエネルギーを改めて痛感させられるようだ。


写真 / 垂水佳菜

「いやあ、早いものだな」。君島がぽろっと気持ちを吐き出すと、ライブはクライマックスへ向かっていく。「遠視のコントラルド」の太いグルーヴが生命力を呼び覚ますように鳴り響き、ひときわエモーショナルな歌声が劇場を描き出す。君島の目を通して映した風景が音楽になり、まるで世界そのものを塗り替えるような勢いで迸っていく。君島が全身でギターを弾き倒して曲を走り抜けると、4人から思わず笑い声がもれる。朗らかなのにヒリヒリしている、なんだか奇妙な感覚だ。バンド形態ではこれが年内最後のライブということで君島は「来年もよろしくお願いします」と一言。そして本編ラスト、1曲目に弾き語られた「光暈」を今度はバンドで披露した。ゆったりとしたワルツのリズムが、まるでこの束の間の旅を終わりへと誘うように聞こえてきた。

しばらくしてアンコールのために戻ってきた4人。君島の弾き語りとドラムで「花曇」を歌うと、重厚なアンサンブルがそれだけで心を震わせる新曲「沈む体が空へ溢れて」へ。石若の全身全霊のドラムが抜群の安定感で最後までバンドを支え続ける。ラストは終わりが読めない君島と西田のギターバトルから「都合」。4つの音が呼応し合うようにひとつになり、力強いフィナーレを迎えた。まるで1篇の映画に没入するような、もっと大げさにいえばひとつの人生を体験するような、そんな1時間半。終わったあとに訪れた余韻が、そのすさまじさを物語っていた。


文 / 小川智宏


写真 / 垂水佳菜

-SET LIST-

1. 光暈(独奏)
2. 旅(合奏)
3. 傘の中の手
4. 笑止
5. 19℃
6. 散瞳
7. 火傷に雨
8. 縫層
9. 午後の反射光
10. 遠視のコントラルト
11. 光暈

ENCORE
12. 花曇
13. 沈む体が空へ溢れて(新曲)
14. 都合

公演情報

君島大空 遠隔夜会『層に電送』


●アーカイヴ配信:12月28日(月) 23:59まで
●配信チケット:2,500円
●チケット発売:12月27日(日) 23:59まで
https://w.pia.jp/t/kimishimaohzora-pls/
(Pコード781-423 で検索可能)


君島大空 遠隔夜会『層に電送』official teaser vol.2


君島大空 Official Twitter
https://twitter.com/ohzr_kshm

君島大空 YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UC5mR8Acvi2IbQQyyUBYwzsA/

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