Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

今、大注目の映画作家!『水曜日が消えた』吉野耕平監督にインタビュー

ぴあ

20/5/11(月) 12:00

『水曜日が消えた』メイキングカット

これからの日本映画界を担う新たな才能の発掘と育成を目指す『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』。可能性を秘めた若手クリエイターたちに開かれた同プロジェクトを経て、新たに長編映画デビューを果たすのが吉野耕平監督だ。

『君の名は。』にCGクリエイターとして参加するなど注目を集めてきた吉野監督にndjcでの経験、そして待望の初長編映画『水曜日が消えた』について聞く。

── はじめにndjcに応募してみようと思ったきっかけをお伺いできればと。

きっかけは、過去にPFF(ぴあフィルムフェスティバル)で何度か入賞・入選していて、たまたま通知をいただいたからでした。当時、僕はCMやMVやアニメーションを作っていたころで。仕事柄、短い尺のものを作ることが多く、自主映画で作った作品もせいぜい15分ぐらい。長編はチャレンジしてみたいと思いながら遠い世界のように感じていました。ですからndjcの30分の中編の制作というのは、短編と長編の中間で、当時の自分にとっては非常に丁度いいサイズだったように思います。

── 応募要項で1番魅力的だったのはどこでしたか?

やはり30分の作品がプロのスタッフと一緒に作れる点ですね。もし個人で同じことにチャレンジしようとすると予算・準備期間・人間関係・公開場所と、自分自身に相当なバックグラウンドがないとまずできないですから。

── 参加作家に選出されてのワークショップの経験は実りあるものでしたか?

そうですね。ワークショップでは共通のカメラ機材だけを渡されて、同じお題を基に一週間で5分の短編を完成させる課題が出されました。正直なことを言うと、こんな課題があるとは思わず、非常に焦ったんですけど(苦笑)、なんとか形にすることができました。

普段の仕事柄「短い尺のものを短時間で考える」ということ自体は割と得意なつもりだったんですけど、実際に限られた時間と予算と条件で成立させるというのはまた別で、いろいろな力を試された場になった気がします。

ndjc2014での製作実地研修の様子

── 印象に残っているアドバイスなどありますか?

例えば編集指導で「ここのカットを切って、このカットを伸ばしたほうが心に残るんじゃない?」と言われ、実際にやってみるとその言葉通りの良い形になる。CMでは基本的に短尺に情報を詰め込むという発想になりがちで、ミュージックビデオでは意味はつながらなくても、音楽と組み合わさって気持ち良ければいい、という流れに行きつくんですけど、ドラマで人の“心”を描く場合は、また別の技術や発想が必要なんだと気づきました。今でも編集で迷う事があるとこのときの助言に立ち返ります。

ndjc2014での製作実地研修の様子

── ワークショップを経て、映画のプロの下で『エンドローラーズ』を制作することになります。

まず、脚本作りに苦労しました。事前に準備していた脚本が、かなり詰め込みすぎだったようで、脚本指導で「アイデアは面白いけど明らかに30分に収まらないのでは?」という指摘を受けて。それならばと内容を大幅に削ったところ今度は「つまらなくなったね」と(苦笑)。そこから書き直しの連続だったんですけど、「もっと自由に」とか「君はアニメーションもできるんだから得意技も使ったら?」など、その都度注文が入って、一時は怒りに震えました(笑)。でも、結果的に当初よりも何倍も良い脚本が生まれたので、「プロの指導ってやはりすごい」と今は感謝しています(笑)。

自分ひとりだと、どうしてもしんどいので「この辺でいいや」となりがち。なので、客観的に「まだまだできることがあるのでは?」と、別の視点や意見をいただけるのは非常にありがたかったです。

また、メインの役者、でんでんさんと三浦貴大さん、その他の役者陣も、演出部や撮影部をはじめ、現場スタッフの方々もみなプロフェッショナルで。現場は確かに大変でしたけど、その苦労よりもプロの仕事の凄みを肌で感じたことが、今振り返っても勝っていたように思います。35ミリフィルムで撮影する、という贅沢な経験も刺激的でした。

ndjc2014での製作実地研修の様子

── この『エンドローラーズ』の制作が、初の長編映画『水曜日が消えた』につながっていったんですよね?

はい。『エンドローラーズ』を制作していただいたのが、日活・ジャンゴフィルムで、その関係で最初に日活の方々に色々とご挨拶させていただく機会があったように思います。『水曜日が消えた』の谷戸プロデューサーは『エンドローラーズ』の試写後、最も早くお声がけいただいた方のひとりだったと記憶しています。

その後、企画を出してもダメになったりの繰り返しでしたが、いろいろな幸運とタイミングが重なって、今回の『水曜日が消えた』を実現することができました。

『水曜日が消えた』はどちらかといえば、出発点のひとつのアイデアから、どんな着地点になるかは無限に選択肢があるタイプのお話で、同じタイトルで、多分作る人によって千差万別の物語が生まれてくる。プロット段階でSFからスリラー、医療ものまで、さまざまな着地点が想像されたのですが、谷戸プロデューサーと相談しながら方向性を絞っていきました。僕自身は、基本的に自分の最初の観客(準備段階ではプロデューサー)に向けて作ることを考えていますので、そういう意味で、プロデューサーとの共作だと思っています。

『水曜日が消えた』

── 『水曜日が消えた』の主人公の男性は曜日ごとに人格が変わってしまう多重人格者。となるとミステリーやサスペンスを想像してしまいがち。でも、この作品はまったく違って、そういう境遇に置かれた人間の居場所とある生き方を描いています。

“多重人格”自体は、(フィクションの世界では)ある意味、説明不要の定番化した設定と言えますので、通常そういったストーリーがあまり描かない部分を広げたい、と思いました。もしも自分が多重人格のひとりだったとき、世界はどう見えるか……? その生活にどんな苦労や面倒があるだろうかなど、できるだけ小さな側面を膨らませることで、今までなかった物語としての面白さと新鮮味を出せたらと考えました。

『水曜日が消えた』

── ラストに関することなので詳細は明かせませんが、個人的に主人公が下す最後の選択が重要だと思いました。そこにこそこのドラマが描く世界と社会の新しい視点があるように思います。

どんな人でも(規模の大小はあれ)自分の置かれた境遇の中で生きることからは逃れられない。それに対してどう自分は向き合うのかだと思います。言葉にすると平凡ですが、大事なことは大抵そういうものなのではないかと。

『水曜日が消えた』

── CMディレクター、CGクリエイターなど吉野監督のそれぞれの側面の力がいかんなく発揮された作品に映りました。ご自身にとってはどんな作品になりましたか?

企画・脚本・監督・CG、と、映画の全ての工程に関わることになりましたので、少なくとも「一番働いた現場スタッフのひとりです」と胸を張って言える作品だと思います(笑)。これから色々な方々に観ていただいてどういう反応を貰えるのかで、今後の自分の人生は変わっていくのだろうと思います。

『水曜日が消えた』

── 今回の現場で、『エンドローラーズ』の経験が生きたことはありましたか?

成り立ち含めて、色々な意味で『エンドローラーズ』の存在抜きでは成立し得なかった作品だったと思います。コンテ主体の撮影手法や監督自身がCGをやるという体制など、『エンドローラーズ』での経験の延長で作っていた部分が多々あります。ラインプロデューサーの田中(誠一)さん、撮影の沖村(志宏)さん、照明の岡田(佳樹)さんは『エンドローラーズ』チームで、彼らの存在が撮影現場や画作りに関して非常に心強かったです。

── 最後にこれからndjcに参加を考えているクリエイターになにかアドバイスをいただけばと思います。

僕にとってndjcは、長編監督としての可能性をくれた、ひとつの大きな転機でした。(ndjcの)参加を経て、30分の作品を撮ることになった方は、それが今後の自分の重要な名刺のひとつになるのは間違いない。なので、縮こまらずに今ある自分の技術、考え、作家性をプロデューサーやスタッフに全力でぶつけ、形にした方がいいのでは、と思います。

また、最終的にndjcで作品を撮るに至らなかった方でも、その後自分自身で結果を出されて長編を作られている方も沢山いらっしゃいます。再挑戦でもルート変更でも、自分の道を焦らずに歩み続けていくことが大事だと思います。

吉野耕平

1979年生まれ。00年『夜の話』でPFF審査員特別賞。11年『日曜大工のすすめ』が、第16回釜山国際映画祭・ショートフィルムスペシャルメンション受賞。CMやPVも手がけており、ポンタカード「ダンスポンタ篇(CM)」、関ジャニ∞「涙の答え」、大橋トリオ「大橋トリオを探せ(CM)」などを制作。さらに、映画『君の名は。』(16/新海誠監督)ではCGクリエイターとして参加。次の時代を担う気鋭の映像クリエイター100人を選出するプロジェクト「映像作家100人2019」に選出されるなど、今注目の映像作家。

取材・文:水上賢治
(C)2020『水曜日が消えた』製作委員会

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む