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“炎上仮面”ラファエル、著書『無一文からのドリーム』で明かす半生とその生存戦略

リアルサウンド

19/10/22(火) 8:00

 YouTuberによる著書が話題を集めている。動画登録者数370万人を超える人気グループ・東海オンエアの虫眼鏡の『東海オンエアの動画が6.4倍楽しくなる本 虫眼鏡の概要欄』(講談社)は第1弾、第2弾の累計部数が10万部を突破している。動画配信だけでなく、モデルとしても活躍しているkemioによる、自身の生き様を軽妙な語り口で綴ったエッセイ『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(KADOKAWA)は、13万部のヒットに。朝日新聞の書評欄で紹介されるなど、その柔軟な思想は既存のファン層を越えて幅広い支持を獲得している。ネットを主戦場とするYouTuberらが、書籍というメディアでも支持を獲得しているのは注目すべき動きだ。

 そんな中、9月27日に、YouTuberのラファエルが『無一文からのドリーム』(宝島社)を上梓した。ラファエルは、白い仮面とグレーのフードがトレードマークのYouTuber。2014年にYouTuberデビュー。当初は身体を張った危険なチャレンジ動画や、元自衛官ならでは(?)の日本刀や手裏剣を振り回す武器動画、「世界一高いミネラルウォーター」など、やたらと金遣いの荒い動画をアップロードし、一躍YouTuber業界で名をあげていった。

 そして、2017年に盟友・ヒカルらと共に「VALU(※個人の価値をビットコインで株式のように売買できるサイト)」でのインサイダー取引疑惑により炎上、謹慎を余儀なくされる。その後、活動を再開するも、今年1月には200万人以上の登録者数のあったメインチャンネルがYouTubeの判断でアカウント停止(垢BAN)されてしまう。原因は不明だが、停止1カ月前に投稿されていた、水耕栽培投資をすすめる動画がネックになったという声もある。

 個人同士の揉め事から犯罪まで、ネット上のトラブルはすべて“炎上”でくくられてしまう昨今だが、ラファエルの炎上に関しては、だいたいが彼の身から出たものなので、依然としてアンチも多く、本書のAmazonレビューでも、早速「内容が薄い」「当たり前のことしか書いていない」「筋肉バカの書いた本」など、星1個の酷評がズラリと並び、氏の元カノ大集合動画並みのヘイトを集めている。

【修羅場】お店の客が全員ラファエルの元カノドッキリ【ラファエル】

 そんなこんなで、“炎上仮面”の名をほしいままにしている彼だが、その一方で、垢BAN後の登録者数は現在130万人まで回復し、動画のタイアップ広告(企業案件)も国内YouTuberナンバーワンを公言。現在複数の会社を持っており、経営者としての一面も持っている。ダーティーな金持ち炎上YouTuberかつ、ビジネスマンである彼の正体は何者なのだろうか?

【栄光と挫折】過去の真実を全て話します。ラファエルがどのようにして成り上ったのか!?【ラファエル】

 本書の前半部分は、『無一文からのドリーム』というタイトル通り、不遇な家庭環境で育ったラファエル少年が、定時制高校を卒業後、自衛隊や営業マンを経て、YouTuberとして成功をおさめるまでのストーリー、後半は現在のビジネスポリシーについて語る構成になっている。

 本書を読みすすめると、ラファエルは「無一文」であったかもしれないが、幼少期からあるものを獲得していた。それはコミュニケーション能力、なかでも男性グループ内、ホモソーシャル内でのコミュニケーション能力が抜群に高いのだ。学生時代はスクールカーストでいうところの「二軍」だったものの、カースト上位の不良グループとも仲がよいこともあり、いじめられることはなかったという。

 そして仲間から「こんな俺たちでも国家公務員になれる」と誘われ自衛隊に入隊。学生時代は成績が悪く、劣等生だったラファエルだが、持ち前の体力とコミュニケーションスキルで厳しい訓練をこなしていく。そこで自身の能力が評価されることの快感を覚えていったのだ。

 ラファエルいわく、自衛隊という場所は「仕事ができる」「体力がある」「笑いが取れる」の3つがあればやっていける場所だという(なお、このレビューを書いている私も、ラファエルと同じく陸上自衛隊に4年ほど籍を置いていたが、まったくそのとおりだと思う)。自衛隊にせよ、飛び込み営業にせよ、ホモソーシャル内でのコミュニケーション強者が力を持つ世界である。自分の武器を生かして、社会をサバイブする。それはYouTuberに転身したあとも変わらない。

 YouTubeで大ブレイクした理由について、ラファエル本人は「ちょうど自分の席があいていた」「時代に勝たせてもらった」と語るが、コミュニケーション能力というのは、いってしまえばコミュニケーション内での「自分の席」を見分ける能力だ。

 低年齢層向けの「やってみた」や、商品紹介動画ブームだった当時のYouTuber界において、日本刀を雑に構えたムキムキの白仮面おじさんが登場したインパクトは大きかったし、その後も金・女・暴力を武器にしてYouTubeのメイン視聴者層ではない30代男性の心をガッツリ掴みスターダムに駆け上がったのも、やはり彼の同性に訴求するコミュニケーション能力があったからこそ可能だったといえる。

 筋肉マッチョ、下品な体育会系キャラのイメージが強いラファエルだが、その仮面の下にはコミュニティを冷静にメタ視し、自身を徹底的に客観視する顔を持っている。浮き沈みの激しいYouTuberの世界で勝ち抜いてきた彼の生存戦略が本書には刻まれているのだ。

■藤谷千明
ライター。ブロガーあがりのバンギャル崩れ。8月6日に市川哲史氏との共著「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)を上梓。Twitter

■書籍情報
『無一文からのドリーム』
ラファエル 著
価格:本体1,200円+税
出版社:宝島社

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