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ライブ有料配信に「リアル」を置き換えることができるか ジャニーズ、乃木坂46などの動向から考察

リアルサウンド

20/6/16(火) 10:00

■ジャニーズと46の方向転換

 2010年代の音楽シーンを「商業的な」観点から振り返るうえで、48・46関連グループとジャニーズ事務所に所属するグループの存在感が非常に大きかったことに異論をはさむ余地はないだろう(価値判断ではなく事実として)。そんな彼らのビジネスモデルは、「コロナ禍」によって根幹から揺さぶられた。

(関連:『Johnny’s World Happy LIVE with YOU』に備えて観たい Travis Japan、HiHi Jets、美 少年…ジャニーズJr.パフォーマンス

 「会いに行けるアイドル」として世の中に打って出たAKB48が開拓してきた「ファンとの接触」を中心に据えた活動スタイルは、この数カ月でその行為そのものが「今はあまりしない方が良いもの」として上書きされてしまった。また、「三密」という新たな概念が浸透した今の社会において、「大人数」であることを売りにしてきた彼女たちはその存在意義そのものを問われかねない状況に陥った。事実、「リモート放送」に舵を切った『ミュージックステーション』を筆頭に、48・46グループを音楽番組で見るケースは格段に減少した。

 一方、ジャニーズ事務所は彼らのお家芸であった「ショーとしてのライブ」が封じられてしまったことで、その魅力をどのように伝えるべきかの再考を迫られた。CDショップが次々に閉鎖される中でもKing & Princeのシングル『Mazy Night』が大きな売上を叩き出すなど現時点で数字上の悲壮感はないものの、嵐の国立競技場ライブの延期を筆頭とする興行への風当たりの強さはこの先各グループの活動にとっての大きな足かせとなる可能性が高い。

 そんな状況において、音楽ビジネスのトップランナーである彼らは新たなチャレンジと向き合っている。その象徴的な取り組みが、『のぎ動画』であり、『Johnny’s World Happy LIVE with YOU』である。

 『のぎ動画』は、乃木坂46の初映像化ライブ・舞台映像、すでに映像商品化されたライブやCD特典映像等を楽しめる定額制動画サービス。サービスの収益の一部が新型コロナウイルス感染拡大防止を含む諸活動に対する支援として日本赤十字社へ寄付される。これまでもグループにはモバイルメールのように月額の費用の対価としてメンバーの動向を伝えるサービスが存在していたが、今回の『のぎ動画』がそれらと異なるのは「メンバーのパーソナリティそのものではなく、映像作品」を届けるものである点。このプラットフォーム上で初映像化されるライブがあることもすでに発表されており、従前の「“握手して会話をする”という接触の延長線上にあったサービス」とは異なるファン層の獲得が期待できる。現状のグループの人気を考えると、2年前からスタートしている同種サービス『AKB48グループ映像倉庫』を上回る話題となるのではないか。

 一方、新型コロナウイルス感染拡大防止に対する支援活動「Smile Up!Project」の一環として展開される『Johnny’s World Happy LIVE with YOU』は、6月16日から21日に展開される有料配信チャリティーライブ。すでにKinKi Kidsや嵐、関ジャニ∞といったビッグネームの出演も発表されている。チケットは入手困難、かつテレビやネットで放送されるケースも少ない、濃いファン以外にとっては「秘密の園」的な存在でもあったジャニーズのライブが有料で配信されるというのはかなり大きな変化である。

 『のぎ動画』『Johnny’s World Happy LIVE with YOU』、この2つの取り組みには「社会貢献」という同じ志があるが、より抽象化して捉えると「一般層への架け橋」「リアルの代替」の二点において共通項がある。

 普通にはチケットが取れない、またリリースされる作品が多すぎて気軽には後追いが難しい。それゆえ面白い取り組みがあってもなかなか世の中ごとにはならず、濃いファンの間で話題になるだけ。大きなアイドルグループのライブや映像作品は、人気に反してその内実が正しく周囲に伝わらない構造になっていた。オンライン上にそれらのコンテンツが正当な形で公開されることは、彼らを取り巻く多様な「誤解」(「アイドルは中身がない」「握手以外売り物がない」といった類のもの)を解消するきっかけとなるかもしれない。

 一方で、乃木坂46とジャニーズのグループはどちらも「オンラインでは体験できないもの=リアルな感触」を大事にすることでそのビジネスを駆動させてきた。コロナ禍を経て「リアルな感触」そのものが許されない状況下にある中、彼らはある意味で「禁じ手」に挑戦しようとしている。それは言い換えると、「リアルをオンラインで置き換えることができるか」というチャレンジでもある。

■「リアル」を置き換えることはできるか

 音楽業界のことを「炭鉱のカナリア」と言うことがあるように、社会が直面する課題が音楽業界で先んじて顕在化するケースがたびたび存在する。今回のコロナ禍においても、音楽コンサートを中心とする興行ビジネスが世間の先陣を切る形で「自粛」の波に飲み込まれた。

 公私それぞれの時間で「在宅」で過ごすことが是とされ、様々な行動が「リモート」に移っていく中、この先社会全体で「これまで多くの場所で当たり前にあった“リアルな感触”をどうやってオンラインに移行させていくか」という取り組みが進むはずである。そういった視座で考えると、「これまでの“リアルでの楽しみ方”をいかに代替するか」という点において有料でのライブ配信(中継、アーカイブともに)は「ウィズコロナ」の社会の行く末を占う重要なトライとなるのではないだろうか。

 アーティスト側に目を向けると、「配信で自宅からライブを無料で届ける」といった春先の「緊急事態」的なモードを経て、従来の興行を今の時代に合わせた形にアップデートする準備が整いつつある。前述のジャニーズ以外にも、たとえば6月末にはサザンオールスターズが、7月半ばにはUNISON SQUARE GARDENが、それぞれ視聴権を有料で販売する形でライブを行うことが発表されている。

 また、前述した2つのライブ双方において、配信プラットフォームにはぴあのサービスが活用されている(サザンのライブを配信する8つのプラットフォームのうちの1つが「PIA LIVE STREAM」、またユニゾンのライブはKDDIとぴあが提供するエンタテインメントサービス「uP!!!」で配信)。5月時点でコンサートのオンラインシフトに対応すべく[re:START]を旗印に関連プロジェクトを立ち上げていた同社は、この先のこういった動きを推進していく上でのキープレーヤーとなっていくだろう。イープラスによる「Streaming+」など類似するサービスは他社からも発表されており、「これまでのコンサートのあり方をデジタルにシフトさせるためのサービス」のデファクトスタンダードを巡る競争が今後起こる可能性もある。

 「ホールやアリーナ、ライブハウスで行われるコンサートの視聴権をオンライン決済で購入して、自宅のデジタルデバイス越しにリアルタイムで、もしくは後追いで鑑賞する」という音楽の楽しみ方が定着するか否かを考えるうえでポイントとなるのは、こういった行動によって得られる楽しさを「これまでのコンサートと同じもの/違うもの」のどちらとして位置づけるかだろう。前者として考えた場合、ライブ会場の「空気」(ざわざわした雰囲気や会場の匂い、人が大勢いることによる熱気)がどうしても足りなくなる。おそらく、後者の観点から「会場に行かずに楽しめるからこその利便性」「オンラインだからこそ没入できる一体感」といったものをどのように定義できるかが鍵になるはずである(そしてこれは演者やプラットフォーマーだけでなく、ライブ鑑賞に臨むファンの側の意識変容も必要となってくる。当面は「会場で見るライブと比べた時のウィークポイント」ではなく「新しい形でライブを見ることに付随する楽しさ」に目を向けることこそが、苦境に陥っている興行ビジネスを後押しする姿勢になると思われる)。

 「有料でのオンラインライブ」が定着すれば、そのフォーマットに合わせた表現上の工夫も進んでいく可能性が高い。いつの時代も、音楽を乗せる媒体のあり方の進化と表現方法の刷新はセットだった。最近では劇団ノーミーツの「ZOOM演劇」が大きな話題を呼んだが、この先「会場では絶対に実現できないライブのあり方」が各所から提示されるのを期待したいところである。

 どうやら社会はもう数カ月前の世界に戻ることはできない。そして、それは音楽を取り巻く環境についても同様だろう。業界としてはまだまだマイナス面に関するニュースが多い印象もあるが、徐々に芽吹きつつある新しい取り組みはこの閉塞感を打破することができるだろうか。(レジー)

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