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MIYAVIが考える、リアルとバーチャルが共存するポストコロナへの展望 「何をもって“人”なのかもう一度問われることになる」

リアルサウンド

20/6/25(木) 12:00

 ポストコロナにおける新たな音楽表現はどうあるべきか。

(関連:MIYAVI「Holy Nights」MV

 その問いに意欲的に取り組んでいるアーティストの一人がMIYAVIだ。“サムライギタリスト”として国内外に支持を広げ、俳優、そしてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)親善大使としてもワールドワイドな活躍を繰り広げてきた彼。4月22日にLDH JAPAN移籍後初のニューアルバム『Holy Nights』をリリースし、前後して新たな試みを次々と打ち出してきた。

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下で外出自粛が求められた“ステイホーム”な状況においては、自宅からほぼ毎日家族と共にInstagramにて“ファミリーライブ”を配信。『スッキリ』(日本テレビ系)や『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演するなど家族と共にメディアへの出演も積極的にに進めてきた。一方で、5月からはバーチャルプロジェクト「MIYAVI Virtual」を始動。5月16日からは『”Holy Nights” Virtual Tour 2020』と称し、延期になったライブツアーの代わりに自宅スタジオから全世界に向けてパフォーマンスを披露してきた。

 彼の言う「リアルとバーチャルが共存する」未来とは。そこにおいてのエンターテインメントの役割とは。様々なテーマで語ってもらった。(柴那典)

●「やれることをやる」というのは普段から変わらない
――MIYAVIさんはコロナウイルスの感染拡大を受けて音楽やエンターテインメント業界が大きな影響を受けたここ2~3カ月、新しい形の発信をとても精力的に続けていると思います。その最初のアイデアはどういうところから生まれたんでしょうか。

MIYAVI:もともとアルバム『Holy Nights』が4月22日に発売だったので、そのプロモーションの最中に状況がどんどん変わっていくという流れでした。とにかく、どの道、止まっている暇はなかった。それはコロナ以前も以後も僕的には変わらないんです。「今、何ができるのか」を考えて行動する。全力でその瞬間を生きる、それ以外ないので。もちろん状況はどんどん変わっていったので、それに応じていろいろと考えて。海外の友人やスタッフともやり取りをしながら海外と日本の状況の違いも感じ、そういう中でどうあるべきか、何ができるのか、どうなっていくのかをずっと考えていました。

――4月には『MIYAVI “Holy Nights” JAPAN TOUR 2020』の延期も発表されました。

MIYAVI:ジャパンツアーだけでなく、映画の撮影も、アメリカでのミュージックビデオの撮影も予定していたんですけれど、それが全部なくなってしまった。そこで何ができるのかを考えたときに、どういう状況であっても、僕たち音楽家ができることは音楽でした。僕は俳優もやっていますし、親善大使としての活動もありますけれど、やっぱり本業は音楽なので、まずはどうやって音楽を発信していくのかが大事だと思いました。これまでもSNSで発信してきましたが、この状況下だからこそできること、として、まず始めたのがファミリーライブでした。

――家族と一緒にInstagramでライブをしようというのは、どういうアイデアだったんでしょうか。

MIYAVI:アメリカやヨーロッパで大規模なロックダウンがはじまり、日本でもついに緊急事態宣言が出て、活動を自粛せざるを得なくなった。そういう状況のなかで、まず何ができるか。まずやっぱり家にいることで自分の子供達との時間が増えた。この期間を空白にしたくなかったというのは大きいかもしれないですね。家族との時間もそうだし、ファンにとっても、スタッフにとってもそうだし。僕は「家にいるからすることがない」っていうのは違うと思っていて。むしろ逆だと感じた。今だからこそ動かなきゃいけない、と。自分は旅をするので、いろんな国に行きますが、どこにいてもやっていることは変わらない。ホテルの中でもエクササイズも含めて自分のルーティンがあるので。ギターを弾くのも、ステージで弾くのと、スタジオで弾くのと、こうやって自宅で自分の場所で弾くのも全然変わらない。要は、どこに自分がいるかじゃなくて、何をやっているかということにフォーカスできるか。これまでは海外にいることも多く、娘たちとこれだけまとまった時間を過ごせることもなかなかなかったので、ファミリーバンドという形でやってみたんです。今までは、面と向かって彼女たちと音楽をしたこともなかったし、この機会にやってみようと。その上でファンの皆とも大変な時期を共有できたらと思って始めました。とにかく皆、同じ大変な時間を経験してるということを共有したかった。

 この状況を不安に感じている人は多いと思います。実際に僕たち音楽業界も含め大きなダメージも受けている人もたくさんいる。でも、この時期だからこそできることができれば、決してマイナスだけにはならないんじゃないかと思いました。実際に、僕が得たこと、発見したことは沢山あります。娘たちの新たな一面を見られたし、この期間を通じてすごく絆が深まった。一緒に料理もしたし。ファンのみんなにとってもいつもと少し違う一面だったんじゃないかなと思います。ソロでやっている普段の時よりも、結果として最近はキッズたちとメディアに出ることが増えました。僕は家族といる時の自分を隠すタイプのアーティストではない。だけど、ここまでの“パパ感”はあまり見せたことはなかった。自分的にはこの時期だからこそできること、やるべきことだと思ってフラットにやっているだけなんです。始めたときは正直、何のプランもなかったんですけど、とにかく何かやろうと思って。

――状況が変わっていくなかで「とにかくやれることをやる」というスイッチが入った。

MIYAVI:スイッチが入ったというよりは、常にそうなんです。「やれることをやる」というのは普段から変わらない。だから、この環境下でたとえば、ガーデニングだってやろうと思えばやれるわけじゃないですか。でも、音楽を伝えることやファンとのつながりを考えたときに、一番近いのがこれかなと思って。

――そういうことをやって、今までにない伝わり方をした手応えもあるんじゃないかと思います。

MIYAVI:そうですね。『ミュージックステーション』に、あんなホームビデオで出るなんて、なかなかないですよね(笑)。

――アルバムの『Holy Nights』についても聞ければと思うんですが、今作では気候変動や格差社会など、社会が危機に瀕しているということを前提にしている。そこに対して音楽がやれることがあるというメッセージが『Holy Nights』に込められていると感じました。そのアルバムのテーマと、今MIYAVIさんがアクティブに発信を続けていることって地続きな感じがあるんです。そのあたりはどうでしょうか。

MIYAVI:そうですね。それはUNHCRの親善大使としての活動も大きいです。日頃から難民キャンプに行くと、日本で生活しているときっと想像もできないような厳しい状況の中で暮らしている人たちに直面せざるを得ない。日頃から音楽の存在意義を感じています。そもそも『Holy Nights』のテーマでもある異常気象も、難民問題も、貧富の格差もそうです。今、アメリカにしてもイギリスにしても、インディビジュアリティ=独立性を優先する政治が好まれてきている。そんな中で音楽の存在意義はどこにあるのか。もちろん娯楽としてのあり方もありますし、それはそれでいいと思うんですけれど、やっぱり生きていくうえで、平和だからこそ音楽ができるわけで。平和じゃないときに僕たちは何を歌うのか、どうやって音楽でつながるかということを考えて、それを作品にしたのが今回のアルバムです。だから、今のコロナの状況でも、新曲をやっていて全然違和感はないです。コロナを意識したわけじゃないし、こんなことが起きるなんて全く思ってもなかったけれど、アルバムの内容も期せずして時代とリンクする作品になったと思います。

――プロモーションということだけじゃなく、今メディアに出て曲を歌うということがちゃんとメッセージとして機能する、そういうタイプの作品だと思います。

MIYAVI:僕もそう思います。それを家族でやるというのも、なかなかシュールですけど、そういう時代なのかなと思います。実際、コロナがなかったとしても、問題に直面しているということを考えながら、意識してながらやっていたので。良くも悪くも時代とリンクしているんじゃないかな、と。すごく思い入れが強いし、この作品とこの時期のことは、これから先も強く記憶に残ると思います。

●“バーチャルの中でどうリアルになれるか”が今後の課題
――5月には新たなプロジェクト「MIYAVI Virtual」を立ち上げ、全編USアニメーションチームによる 「Holy Nights」MV公開、そして自宅スタジオからのバーチャルライブをスタートさせました。そのアイデアやプランはどういうものだったんでしょうか。

MIYAVI:アメリカに飛んでMVが撮れないということになって、急ピッチで方向転換をして、アメリカのチームとアニメーションやヴォリュメトリックといったテクノロジーを使った表現方法の模索を始めました。エンターテインメント、特にライブやパフォーマンス、アートって、人が集まる前提なので、最初に打撃を受けて、最後に回復すると言われています。緊急事態宣言が解除されたといっても(取材日は5月末)、今からいきなり集まれるわけじゃないし、ライブの開催にしても段階を踏んでいかないといけない。そういったポストコロナの状況で、音楽をどうマネタイズするかも含めて、アーティストもマネージメントもライブプロモーターも、意識的に、かつ能動的に動けるかが問われている。そこで動けなかったら生き残ることはできない。もちろん、僕たちは人間である以上、人間として生身の触れ合いを求めるだろうし、コロナが収束に向かうにつれ、ライブも徐々に回復していくと思いますが、でもそうなった頃にはきっと価値観も変わっている。リアルとバーチャルが混在した社会になっていく。そうなったときに、応援してくれる人たちとどうつながるか。人と人とのつながりが浮き彫りになっている今のこの状況下で、そのためのプラットフォーム作りが大事だと思ったので、その下支えになり得るものを考えながらファミリーライブの配信と同時期に並行して進めていました。

――ジャパンツアーの初日に急遽自宅スタジオからライブを行っていましたが、これは?

MIYAVI:ツアーが延期になって、ファンのみんなもがっかりしてるだろうなと思ったので、最初は「今からサウンドチェックです」みたいな(ライブをする)妄想のツイートを投稿していて。ツアー中もリアルタイムでツイートしていたので、それをバーチャルでやるっていうただのネタだったんだけど、せっかくだし少しでも生で配信をやろうと思って。その日急遽スタッフに話をして、ネットの回線とか設定も音量のバランスもその場で決めながらバーチャルライブを始めたという感じです。「やれるのかな、でもやれなくても別にいいかな」って。それで告知も何もしなかったんです。初日が終わってからいろいろ考えて、『”Holy Nights” Virtual Tour 2020』を一連のプロジェクトとして開催するというのをスタッフの皆さんに伝えた記憶があります。それで、2回目からはちゃんと告知してLINE LIVEとTwitchで配信することにしました。

――まさに走りながら考えるみたいな感じですね。

MIYAVI:計算してできるものでもないので、楽曲作りと一緒ですね。その時に肌で感じる空気感を大事にしたい。あと、ファミリーライブに関しては、これで一区切りかなという感じもありました。回線のクオリティをあげたり機材を揃えたり、ソロのライブの準備もしているので。もう一段落したかなと。それでも、きっとこの時期にファミリーライブをやっていたのは、この先も一つのトピックとして記憶にすごく残ると思います。僕たちならではの乗り越え方を一つ提示できた。ツアーや撮影が延期になって、いろんなプロジェクトがなくなって、でもマイナスだけじゃなく、そこで見えてくる部分を大事にしたかった。小さくともそれは一つの大きなアチーブメント(達成したもの)だと思います。

――プラットフォームについての話も聞かせてください。この期間にはインスタライブでファミリーライブを配信し、バーチャルライブではLINE LIVEやTwitchやニコニコ動画など様々なサービスを使っています。いろんなチャンネルを用いて発信をされてきたと思うんですが、その違いはどう捉えていますか。

MIYAVI:今はバーチャル上でのワールドツアーも開催しようと思っているんですが、そこでもいろんなプラットフォームを使おうと思っています。時間帯を変えてもいいし、国によってプラットフォームを変えてもいい。もちろん旅は好きだし、そこでしか得られないものもあるので、コロナが本当に落ち着いたらリアルなツアーもするつもりだし、そこでしか得られないものもあります。でも、ここから先は、チケッティングも含めて、いろんなマネタイズの可能性も模索していくつもりです。

――有料でのオンラインライブのプランもある。

MIYAVI:ライブがないとスタッフも仕事がない。そこについては僕たちがアイデアを出し合って引っ張っていかないとという気持ちはあります。そうじゃないと業界がシュリンクしていって、有能な人材が流出していってしまう。米ウォルト・ディズニーのケヴィン・メイヤー氏がTikTokの新CEOに就任したように、有能な人間が他の業種に行ってしまう。避けられないことかもしれませんが、それでも守るべきものを考えていかないといけない。僕たちアーティストも、自分たちの音楽をマネタイズしていくことに真摯に向き合って、その価値のあるものを発信していく必要があると思います。僕はそこに対して自信がありますし、胸を張ってやっていきたい。自分が動ける部分はどんどん動いていきたいし、かつてワールドツアーに初めて挑戦した時の感覚と似ています。次が見えない状況だからこそ、新しい道を作っていきたいと思います。

――おそらくこの先、以前のようなライブエンターテインメントを再開できるのはかなり先になりそうですよね。感染が生じないことを証明できないと大人数が安全に集まるのは難しい。そのことを前提に、ライブビジネスというものを再構築していく必要があると思います。

MIYAVI:これは本当に早いスパンで動かないとやっていけないし、完全に(ライブエンターテインメントが)変わっていくと思います。とは言っても、じゃあ配信にすればいいと言えば、そこもどうかとも思っていて。ここから先、テクノロジーを使ったものも含めて、いろんなアウトプットは用意していくつもりですが、規模感としてどうあればいいかは、試行錯誤しながらでないと見えないので、とにかくやるしかないですね。“バーチャルの中でどうリアルになれるか”というのが、今後の課題だと思います。ライブにしても、この状況下が続いたときに、果たしてバーチャルの中でのあり方はどのベクトルが正解なのかは、やってみないとわからない。バンドでの臨場感が伝わるのか、もしくは耳元に直接聴こえるほうが伝わるのか、それは状況によって違うから。

――そういう意味では、「MIYAVI Virtual」を通じたオーディエンスとのつながりはどういうところで実感されましたか。

MIYAVI:“共有”だと思います。「思い」の共有もあるし、「時間」の共有もある。やっぱり、事前に録ったものと、その場でやってるものって、同じことをやっていたとしても、何かが違うんです。言葉ではなかなか言い表せないけど、離れてるんだけど「今、ここにいる」ということの価値がもっと高まるんじゃないかと思います。ライブはそうやって一緒の時間にいるということを共有するものになっていくように思う。だから、ライブでやれるフォーマットを持つこと、そのクオリティを高くしていくということが課題なんじゃないかと思います。

――MIYAVIさんは、こうした変化を踏まえて、人々の考え方や価値観はどう変わっていくと思いますか。

MIYAVI:まず、自分が変わろうとしなくても周りや見える景色が変わって、結果的に価値観が変わるのは間違いないと思います。コロナ以前に戻ろうとしている人もいるけれど、それでも変わっていると思います。例えワクチンができたとしても以前のようには戻らない。たとえばこのインタビューだってそうだし(リモートでのインタビュー)、オンラインのコミュニケーションが確実に成立する。し、むしろそっちの方が良いんじゃないかと気づき始める。たとえば書類の共有とか、オンラインの方が効率いいこともありますよね。当たり前にリアルとバーチャルは共存するようになっていき、データや意思疎通までも非物質化していく速度は桁違いで加速していく。そうなっていくと、何をもって「人」なのかというのを僕らがもう一度問われることになると思います。何をもって自分なのか。そこにいる自分は本当に自分なのか。どこからどこまでが人の領域で、どこから先が違うのか。バーチャルの定義すら変わっていく。まだそこまで価値観は変わっていないと思いますけれど、そこに向けた一歩が始まっている。そして、その変革は確実に起こるでしょうね。その中で、よりリアルでありたいと思います。(柴那典)

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